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マインドフルネス・ヨガ:それでいいのだ! 第4回 がんの痛みは我慢しない <牛面のポーズ>

森川那智子 こころとからだクリニカセンター所長
発行:2018年9月
更新:2018年10月

  

もりかわ なちこ こころとからだクリニカセンター所長。カウンセラー・ヨガ指導家。心療内科と提携し、カウンセリングを中心に、ヨガ、リラクセーション、瞑想を取り入れた療法で、心と体のサポートに取り組む。『なんにもしたくない!』(すばる舎)『リラックスヨガ』(成美堂出版)『心がラクがずっと続くヒント』(青春出版社)など著書多数

がんの痛みは我慢する必要がない、という考えが今では世界の主流です。

世界保健機関(WHO)は「がんの痛みは治療できる症状であり、治療すべき症状である」と提言しています。

昔は、痛みを我慢することが美徳とされ、痛み止めを常用するのはよくないとされてきました。今でも、鎮痛薬に頼りすぎるのはよろしくない、と多くの日本人が漠然と思っています。

「医療用麻薬の適正使用量と実消費量」(2010年WHO報告)をみると、米国では適正使用量(210㎎/人)の2倍強(482㎎)、ドイツ(適正使用量213㎎)は2倍弱の量(390㎎)が実際に使われています。それと比べ、日本は際立って少なく、適正使用量(189㎎)の20%(29㎎)も実際に消費されていません。

少し前になりますが、カナダで暮らしていた友人の夫が肺がんを患い、緩和ケアを受けていたときのことです。痛みのコントロール以外、がん治療はとくにしないで、それまでのように普通に生活し、ときたま隠れて葉巻も吸い、投資も社交も続け、最後の数年は車椅子でカリブ海グルーズにも出かけていました。

「彼は、処方された医療用麻薬をなるべく使わないようにしていたの。頭がぼんやりするのが嫌だったのね。でも痛みに支配されて、読書や散歩やディナーに行くとかを断念させられるのはもっと嫌だったのね。その匙加減が、彼らしいなと思ったわ」と。

〝自分とコミュニケーションすること〟が大事

痛みの感じ方には個人差があります。自分が感じている痛みがどのようなものなのか、いつから、どんなときに、どのあたりが、どの程度、どんなふうに起こるのか、本人にしかわかりません。痛みのせいで、自分の生活にどのような影響が出ているかも、やはりわかるのは当人だけです。

誰かに忖度してもらうのではなく、「今ここで自分の身に起きていることに自分がクリアに気づく」というのがマインドフルネスの基本です。つまり自分とのコミュニケーションができて初めて、それを医療者や家族や助けたいと思っている周りの人に伝えることができます。

前回も書きましたが、痛みについて、価値判断しないで、ただ観察することが重要です。今している呼吸に集中しながら、痛みに触れていくのです。

痛みイコール自分ではありません。痛みも自分の一部であり、痛みと共にほとんど自動的に起こる思考や感情や筋肉のこわばりも自分の一部です。それらに繊細に気づいていく。「〇〇のせいだ」とか「自業自得だ」とかの考えがよぎるかもしれません。

その考えに浸ってしまうのではなく、ただ受け止める。価値判断することなく。「……と思っている」「……考えている」というふうに。「そんなこと考えちゃダメって考えている」というふうに。

人生で我慢強く耐えることを美徳、と考えてきた人にとっては、痛みを訴えることや、鎮痛薬を使うことに抵抗があるかもしれません。そんな考えも、自分の一部としてただ受け止めてみる。

なんだか気が楽になって、自分の気持ちを人に伝えられるのではないかな。

痛みを我慢することのほうがよくない

話は飛びますが、海外では80%が無痛分娩なのに、今でも日本では圧倒的に少数派です。英国キャサリン妃が第3子の出産時では、入院からわずか10時間で王子を抱いて退院。痛みがコントロールされた分娩では、こんなにも体力気力の消耗が少なくてすむのかと驚きます。

それはともかく、痛みを長い間我慢すると、不眠になったり食欲がなくなったり、体の動きが制限され、気分が沈みがちになります。

しかも痛みの研究で明らかになったのは、痛みを我慢していると、いわゆる「痛みのゲート」が開いてしまい、痛みが耐え難くなってから鎮痛薬を使うと、必要な量をはるかに超えた鎮痛薬が必要になるそうです。痛みを我慢する前に鎮痛薬を使うのがポイントらしいです。そのためには自分の痛みから目をそらさず、痛みをよく観察する必要があるのです。

1979年、米マサチューセッツ州立大学メディカル・センターのストレス・クリニックの創始者ジョン・カバットジン博士によって開発されたマインドフルネスを用いたストレス軽減法は、当初よりがん性疼痛の患者に適用されてきました。

それは鎮痛薬の代替物としてではありません。むしろ痛みに伴って沸き起こってくる、焦燥感や絶望感、無力感に対して有効だったのです。そしてその結果、痛みが軽減するのを体験したのです。

私たちの多くは、痛みと苦痛とを一緒くたにとらえています。痛みと苦痛は違うと言われたとき、私も始め戸惑いました。けれども、今この瞬間、感じているこの痛みに意識を集中し、その痛みとともに呼吸していると、痛みは痛みだけれど、痛みに苦しんでいるのとは少し違う体験であることに気づきます。

苦しみは、「痛みから逃れたい」「逃れられない」の繰り返しから生じる感情的な反応です。痛みをただ痛みとして注意を向け、呼吸をしていると、痛みはずっと1本調子に続く鉄板のようなものではなく、ふっと和らいだりする瞬間があることに気づきます。

次の瞬間、もっと強い痛みが来るかもしれません。でも同じように意識を集中して、痛みとともに呼吸します。

痛みを受け入れるというのは、例えばこういうことです。

<牛面のポーズ>

さて、今月は牛面のポーズを紹介します。

このポーズをしていると手も足も出ないという感じがあって、ただ自分の内部感覚に耳を澄ませて、今この瞬間に起きていることに意識集中することを体験できます。もちろんただ正座して、呼吸と脊柱に注意を向けているだけでも十分です。

牛面のポーズ1

①左膝(ひざ)をまげて、かかとを右尻の脇に引きよせる。右膝を曲げて、かかとを左足の脇に持ってくる。体の正面で、左右の膝が縦に並ぶようにして、座を組む。

難しければ、椅子に腰かけるか正座か、楽な座り方をします。

牛面のポーズ2

②写真のように坐布(ざふ)を使ってもいいですね。左手を下から背中に回し、右手は上から背中に回し、両手が届いたら、脊柱をすーっと伸ばして穏やかに呼吸。

モデルをやってくれたインストラクターのように、楽に手が届く人もいれば、指先も届かない人のほうが多数派です。着衣をつかんでもいいし、タオルを補助具にしてもいい。穏やかに呼吸しながら脊柱を意識します。4~8呼吸。

左右を交代して行います。2セット。

終わったら、両手は膝に伸ばし、呼吸と脊柱に注意を向けて3分。

 

●こころとからだクリニカセンター
PC www.kokokara.co.jp/
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