マインドフルネス・ヨガ:それでいいのだ! 第10回 ひと口にがんと言っても <ライオンのポーズ>
2人に1人ががんになる時代と言われています。がんはありふれた病気になり、本人にきちんと告知され、本人の意思が尊重され、がんとどうつき合うかで治療方針を選択できるようになりました。
がんは日本人の死因の第2位です。今では、人間いずれこの世を去るとしたら、がんはそれほど悪くない。すぐ死ぬわけではないし、最期まで比較的意識はしっかりしているから、それなりの準備ができるとも言われるようになりました。
しかし、そうでないがんもあります。がんという総称で一括りにはできません。1人ひとり違う、がんとの物語があるのだと、身近な人をがんで失って痛感しているところです。
がんの病期で大きく違う選択
早期発見ステージ0の乳がんでは、日帰り手術という人さえいます。他のがんでも早期発見で手術は成功し5年、乳がんでは15年、転移もなく完治という話はよく聞きます。
しばらくしたら、反対側の乳房にまったく新しくがんができたけれど、一度がんを患ったことがあるので、定期的に検査を受けていたことが新しいがんの早期発見につながったとも聞きます。
がん保険のコマーシャルでも、「100歳まで生きる時代、がん治療後の生活をしっかり考えていこう」と、語りかけてきます。
しかし、少なくない割合で、不調を感じて病院に行ったときには待ったなしで入院、限られた選択肢しかない場合もあります。そんな中で、本人も家族も良かれと思って治療機関を、治療法を選択していきます。
たいていの場合、手術ができるのに手術を受けないという選択はなかなか考えられません。手術が可能ながんならラッキーだと考えます。
では、転移が数カ所見られたり、すでに進行していたり、手術ができないような部位のがんだったりした場合はどうなるのか。
抗がん薬を試して様子を見るのが一般的です。このがんに有効な抗がん薬は現在のところないと言われれば、それはそれで覚悟するしかありませんが、リスクはあるが試す価値のある抗がん薬があるという場合、可能性に賭けることを、前向きな人ほど選びます。ここが悩みどころかもしれなくても、です。途中で不安を感じても、セカンドオピニオンを受けに行く時間的余裕すらないということだってあります。
抗がん薬治療を受けるのか、抗がん薬は止めて放射線治療を受けるのか、あるいはどちらも止めて緩和ケアで行くのか、新薬の治験に参加するのか、これらは同時には選択できません。
樹木希林さんのがんとのつきあい方
最近では、樹木希林さんのケースが大きな希望をもって受け止められています。
〝全身がん〟という言葉で表現しているように、1つ2つではなく全身に転移があるけれど、がんと共存していく。勝てないけれど負けない生き方があると。
転移がわかってからは手術や抗がん薬で全身を弱らせるリスクを回避し、陽子線などピンポイントの放射線治療を選択されていたようです。みなが一様に驚くのは、死の直前まで仕事をしたことでした。仕事ができる体力気力を残して、がんと共存したという事実です。
「手術は無理、抗がん薬にもやや消極的な医者の説明を聞いて、正直、見放されたのかと。ただ死ぬのを待つしかないと言われたような気がして打ちのめされたけれど、今はがんとつき合いながらQOL(生活の質)をできるだけ高めて生きていければいい」と、同じように末期がんの親を持つ友人に教えられたとSさん(46歳)。
そのとき、「あの樹木希林さん」のことが話題になったそうです。
Sさんの話を聞き、最初に行った病院の選び方が良かったと思いました。
親は前から具合が悪そうでしたが、「病院にはそのうち行く」と言って先延ばしになっていました。おかしいと思ったその日、親のふくらはぎや足を見て、触って驚きました。ふだんの2、3倍以上にパンパンに膨れ上がっていました。
「すぐに病院に行こう」と親を説得しますが、日曜日ということもあり、「連休明けでいい」と言います。一瞬、本人がそう言ってるのだからそれでいいのかと思いそうになったけれど、Sさんは#7119番に電話しました。急な病気やケガのとき、「救急車を呼んだほうがいいか」「今すぐ病院に行ったほうがいいか」など迷った際に電話して相談できる窓口です。
具体的に親の症状を説明すると、救急指定病院の名をいくつか挙げて、「今すぐ行ったほうがいい」とアドバイスを受けました。一番家に近い病院に電話したところ、その症状なら専門医がいるもう1つの病院がいいと勧められて、タクシーで行ったのでした。
そのまま入院で、翌日から検査が始まり、結果、珍しいタイプの血液がんと判明しました。連携がうまくいったのです。後になって、この最初の病院で担当してくれた医師は、腫瘍の専門医であるとともに緩和ケアの専門医でもあると知ったそうです。
体力気力があるうちは、リスクがあっても積極的な治療を望みがちです。体力気力があるうちに、共存する道を選択するのは勇気のいることです。話を聞くと、それらの要素を多角的に了解し、グループ医療に力を入れている病院のようです。
ライオンのポーズ
さて今月紹介するライオンのポーズ、病気を持つ人や高齢者の嚥下(えんげ)力低下を防止するためにも有効です。そのうえ表情筋を若々しく保つ効果が期待できます。
顔だけライオンのポーズをしても、有効です。今まで気にしたことあまりなかったけれど、口回り、舌回りの筋肉の動かし方を観察し、気づきがあるのが楽しいポーズです。
<ライオンのポーズ>
大まかにポーズの流れを説明します。
①正座して、両膝(ひざ)は腰幅くらいに開く。息を静かに吐き、たっぷり息を入れる
②そのまま両手を膝に伸ばし、膝の前の床に人差し指、中指、薬指をつけて、胸を起こし顎(あご)を軽く引く
③顎を緩め、口を大きく開き、舌をベロンと出す。次いで上顎を上方に引き上げるようにして(口角が上がる)、視線を上方に向ける
④息をゆっくり力強く出していき、お腹を引き締めこれ以上は出ないところまで息を吐ききったら、舌を戻し、口を閉じ、鼻から息を入れながら、構えを解き正座で目と口を閉じてリラックス。2~4回
立位または椅子に腰かけたまま、両手は腿(もも)に置き、③、④を行います。
視線を上げると鏡は見えなくなるけど、それまでは鏡でチェックできます。口の中、口の周り、目の周りの筋肉がどう使われているのかマインドフルに気づきながらやってみることが重要です。こんなに口が開けないと思っても、今できる範囲でやってみよう。
がんサバイバーやそのご家族でヨガのご体験がありましたら、ぜひ体験記などをお寄せください。kokokara@center.email.ne.jp
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