マインドフルネス・ヨガ:それでいいのだ! 第22回 「こころここ」でよくない? <吉祥座>
小久保美保子さんのことを書こうと思う。
作家、橋本治さんが昨年(2019年)1月に亡くなり、私が書いた追悼の文章を目に留めた彼女が、私の「呼吸と瞑想」クラスに参加してくれました。
彼女が橋本治さんと会ったのは講演会で、聴衆の1人としてだったそうですが、著作を通してずっと励まされてきたとおっしゃる。もう新作を読めないのだと思うと哀しくて残念で仕方がないとも。でも……だったら、自分で書いてしまおうか、といった内容のお手紙を帰り際にいただきました。
DVDブック『日々の身じまい』
8カ月後に小久保さんからメールが来て、自家版30部を作ったというのです。
巡回用という1冊を借りて、手にしたときは驚きました。
美しく製本されているその本の表紙はサリーの布で表装されています。もともと本というのはこういうふうなものだったかもしれません。西洋では皮革で表装され、日本では木版が出る前、室町くらいまでは1冊ごとに写本して、それを回し読みし、なかには金箔を散らしたり、ゴージャスな絵を入れたりしていました。
『日々の身じまい』というタイトルのDVDブックなのですが、活字部分を一読してもっとびっくり。地に足の着いた、しかし、しなやかな軽やかな文章なのです。
ヨガで培われ育まれたことと、橋本さんの〝自前の思想〟両者をしっかり引き継いでいます。
彼女は66歳のとき、乳がんステージIVと診断されました。転移もありましたが、手術も抗がん薬も選びませんでした。
ネットで「手術なし放射線治療」を見つけ、「これだ!」と思ったそうです。迷いはなかったといいます。そして生まれて初めて鹿児島に行き、アパートを借りて治療を受けることにしました。そこから彼女の〝身を守る、身を育てる、身を慈しむ〟本気のヨガがはじまります。
「1日1度20分ほど、放射線を受けるためクリニックに行くだけの治療だった。残りの時間は体にいいと思われるものをせっせと作って食べた。1人で過ごしていたおばぁは掃除も、洗濯も日常のすべてを手放さなかった。しんどいときは休んで、痛い時、苦しい時はヨーガをやって、3カ月余りを鹿児島で過ごした」
「治療で強い放射線をかけたところはこわばり、動きが不自由になった。動かすと痛いし、骨におもりがついたように自由が奪われていた。もう動かせないんじゃないかと不安も大きかった。が、できることをやるしかない。痛くても動かし、胸が苦しくても、しびれがあっても、ヨーガをやった。気が付くと2時間も3時間も経っていることもあった」
『日々の身じまい』より
「こころここ」にしびれる
それから3年が過ぎようとしています。実際の小久保さんは、若々しく元気な可愛らしい女性ですが、文章は〝おばぁ言葉〟で語られます。
ところで私はこれまで、著作の中でもこのコーナーでも、ヨガと表記してきましたが、小久保さんはヨーガと表記されているので、小久保さんの文章を引用するときはそのままヨーガと書くことにします。
ヨガとヨーガは同じものなのか、違いはあるのか。違いがあるとしたらどういう違いかということは人によって見解はわかれます。私は同じものだと思っています。
彼女は20代で日本のヨーガの第1人者である佐保田鶴治師に入門。
「あっちでもマインドフルネス、こっちでもマインドフルネスとやたら耳にすることがあってな、一体何のことかいなと思って、参加してみたんじゃ。歩く瞑想、食べる瞑想、呼吸瞑想、坐る瞑想、なんでも瞑想、お茶を飲む瞑想なんてのもあったな」
おばぁはあちこちで教わったことを毎日、繰り返しやってみた。
声を出して呼吸する、
歩く自分と一体になる、
深く味わって食べる、飲む、
いろいろやっているうちに、はたと気づいたんじゃと。
「こりゃあ何のことはない、40年も前に佐保田先生がおっしゃってたことじゃが!」
『日々の身じまい』より
そしてマインドフルネスを「こころここ」と表現して、「『こころここ』おばぁナビプログラム」をつくったのでした。前から読んでも後ろから読んでも「こころここ」と。
私は「こころここ」にしびれました。
マインドフルネスを日本語に置き換えたいとあれこれ考えて、2007年の自著『リラックスヨガ』(大和書房)でも当時まだなじみのない〝マインドフルネス〟という言葉を使うかどうか悩み、私は〝丁寧に味わうように〟という表現に落ち着きました。
「こころここ」ですか――、確かにその通りです。
こころをここに戻す
1日1分でもいい。少しの間静止して、ただ自分の呼吸に注意を向ける。頭の中をいろいろなざわめきが往来していても、そのことに気づいたらこころをここに戻す。今している呼吸に、今座っている自分のこの姿勢に戻す。自分の呼吸や姿勢をただ丁寧に味わうように観察する。それは正しく座るということではなくていい。
でもね、人は飽きてしまうのですね。あんまりシンプルであんまり簡単なことだから。
なので、今回は吉祥座を紹介します。かかとを鼠蹊(そけい)部にペタッとつけるように座ります。もちろんイスに腰かけるだけでもいいのですよ。
<吉祥座>
少しの時間、静かに座って自分の呼吸をただ味わう。「こころここ」で呼吸する。そうすることで外向きについている目を内側に向けることになります。気持ちが自分の内側にある静かな穏やかな場所に落ち着いてくる。ただ静かにに座れればそれでいいのですが、気が向いたら吉祥座(きっしょうざ)をお試しあれ。安定安心感があります。
①腰を下ろし左足を手前に引き寄せ、踵(かかと)を右腿(もも)の付け根にペタッとつける。
②右足を引き寄せ、同様に踵を左腿の付け根につけ、指先は親指を残して左腿と左ふくらはぎの間にいれる。左足親指を引き出して、座を土台のようにしっかり安定させる。そして脊柱をスーッと立てる。両手は膝になだらかに伸ばす。
③座面が安定しているイスを使って、尻を椅子の背にぴったり押しつけると、脊柱を立てやすい。
④ただ椅子に腰かけるだけでもいい。足元は踵まで足裏が床につくように、座布団やタオルを敷く。
がんサバイバーやそのご家族でヨガのご体験がありましたら、ぜひ体験記などをお寄せください。kokokara@center.email.ne.jp
●こころとからだクリニカセンター
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