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マインドフルネス・ヨガ:それでいいのだ! 第36回 自分の身体が今、体験していることに寄りそう <完全なくつろぎのポーズでボディスキャン>

森川那智子 こころとからだクリニカセンター所長
発行:2021年5月
更新:2021年5月

  

もりかわ なちこ こころとからだクリニカセンター所長。カウンセラー・ヨガ指導家。心療内科と提携し、カウンセリングを中心に、ヨガ、リラクセーション、瞑想を取り入れた療法で、心と体のサポートに取り組む。『なんにもしたくない!』(すばる舎)『リラックスヨガ』(成美堂出版)『心がラクがずっと続くヒント』(青春出版社)など著書多数

「今、自分の身体は何を感じていますか?」と質問すると、「引き締まってない」とか「ぶよぶよしていて、いい気分ではない」などの返事が返ってくることは少なくありません。

「自分の身体をどう感じているか」ではなくて、今この瞬間に「自分の身体が体験しているのは何か?」です。今この瞬間の起きている身体の感覚に注意を向けることは、自分の身体とのかかわり方、つき合い方にパラダイムシフトを起こします。

がんを患ったことのある人なら、今さら悔やんでも仕方がないとわかっていても、「なぜあのときすぐ検診を受けなかったのか」と、悔やむ気持ちに引きずり込まれることがあります。身体の不調や違和感を覚えると、転移や再発の兆候ではないかとおののく気持ちが先走り、生々しい不安に圧倒されそうになります。心は今という瞬間から過去や未来に彷徨って、とらわれてしまうことだって珍しくありません。

「ボディスキャン瞑想」は、実際行っていくうちに、心の中であれこれ考えて頭でっかちになっている人生から、自分を取り戻す方法を示してくれます。

痛みや不快に対して、それらが消えるわけではないけれど、そのストレスを低減する方法がもたらされます。

キモは「価値判断をしない」こと

ヨガの身体法では、例えば身体を前屈させるポーズでは、呼吸とともにゆっくり意識的に動作し、その動作によって引き起こされる身体感覚(筋肉や血流などの内部感覚)に注意を向けながら行います。そして心地いい刺激の範囲で、言いかえれば、楽に呼吸できる範囲でできる限り十分に前屈したら、その姿勢にとどまり、10~30秒、楽な呼吸を続けながらその姿勢を保持します。

つまり身体法でありながら、心を働かせ、マインドフルに行っていきます。こうした心と身体の働かせ方を、心身一如ともいいます。

マインドフルネスストレス低減法プログラムを開発したジョン・カバットジン博士は、マインドフルネスをごくシンプルにこう定義します。

「マインドフルネスとは、意図的(意識的)に『今この瞬間』に注意を向けること。価値判断をすることなしに」

私たちは考えるともなしにほとんど自動的にものを考え、吟味することなしに、車を転がすようにセルフトークを続けていき、まるで自分の思考が現実であるかのように思って落ち込んだり、焦ったり興奮したりして、今この瞬間に体験していることから遠ざかっていきます。そうしたことはあまりに習慣化・日常化しているので、そのことになかなか気づかないほどです。

だからマインドフルネスのエクササイズが必要になります。頭でいくら理解しても、実際に行うことでしか体得できないからです。

思考の自動操縦

冒頭の例でいえば、「引き締まってない」→「夏までにはあと2キロ、なんとかしないと」→「この前トレーニングに行ったのはいつだったっけ?」→「まん延防止法で公共施設は不十分だったから」、考えは今ここから離れて、ひらひらと蝶のように頭の中を飛びかいます。歩きながら、ものを食べながら、買い物しながら、人の話を聞きながら……。

こうした状態を「思考の自動操縦」と呼んでいます。

私たちはふだん不思議とも思わずにこうした自動操縦とともに生活しています。それがダメだというのではなくて、私たちがふだん、今この瞬間に体験していることからたやすく離れるかに気づくことがマインドフルネスといえます。

気づいてどうするか――ただ、気づくだけです。

自動操縦に対して、マインドフルネスでは今この瞬間の自分の呼吸や身体の感覚に注意を向けます。なぜなら、身体はここではないどこかにひらひら蝶々のように浮遊することはできないからです。呼吸も、昨日の呼吸が不十分だったから今やり直すことも、明日に備えて今呼吸しておくこともできません。

ボディスキャン瞑想は、呼吸と身体に注意を向けることで、マインドフルネスを身につけていくのに役立つ基本的なエクササイズです。行い方は1つではありませんが、違和感なく導入できる方法を紹介します。

<ボディスキャン前のウォームアップ>

ボディスキャン実習前に簡単な準備を行います。

マットに両足を伸ばして座り、右足を左腿に乗せて、手元に引き寄せます。

腰や脚部が固いと、両足を伸ばしてマットに腰を下ろすだけで、骨盤が後ろに傾き、上体が後ろに倒れそうになる人もいます。

その場合は壁を背にしたり、椅子に腰かけて行ってください。

足指の1本ずつに注意を向けます。

まず親指から。親指を左手でそっと握るか掴むかして、注意を親指に向けます。まるで親指が呼吸しているかのように、今、自分がしている呼吸に同調させてイメージします。

次に2番目の指、手でいうと人差し指を優しく掴み、注意を向けます。拍動を感じることもあります。3番目の指、4番目の指、5番目の小指まで同様に行います。

今度は足の裏を左手でそっと触れます。触れることで注意を底(右足の裏)に向けやすくなります。そしてそこを意識しながら呼吸します。

今度は足の甲です。左手を足の甲にふわっと置きます。ここらへんになると、呼吸は穏やかになり、ただ注意を体の一部分に向けているだけなのですが、気分も穏やかになり、触れる手が温かくなっているかもしれません。こう書くと、気分が穏やかになっているべきで、手のひらも温かくなっているべき、と考える人もいます。

「べき」は横に置いておいて(価値判断をしないで)、今、こんなこと考えていたとただ受けとめて(それが「気づき」です)、それ以上追いかけないで、注意を足の甲に向けて呼吸しています。足の甲も呼吸しているかのようなイメージで。

最後に踵(かかと)です。踵にそっと触れて、注意を踵に向けます。

もしかして痛みがあったりする場所があると、私たちは、意図せずに「いつから痛むようになったかな? 原因は何だろう? 整形か皮膚科を受診したほうががいいかな?」などなど、体が今感じていることに注意を向けることから離れて、その痛みについて考えています。これを思考の自動操縦といいます。

もし、違和感に気づいたら、「あっ、そうなんだ」と受けとめます。そしてそれがもっと考えるべき問題に思えても、その思いを手放して、次に進みます。

これらのエクササイズは、痛みを和らげるのが目的でもなく、リラックスすることが目的でもありませんが、結果としてそうなることが少なくありません。

でもそれを期待したりしないで、ただその部分に注意を向けて、今している呼吸と同調させます。

別に何も感じないかもしれませんが、今この瞬間に体験していることをただ味わいます。「別に」「ふつう」というのも今この瞬間の感覚です。

<完全なくつろぎのポーズでボディスキャン>

今度は身体を横たえて全身弛緩します。「完全なくつろぎのポーズ」をとりましょう。両足は腰幅よりやや広めに開き、両腕は脇を緩めて投げ出してもいいし、お腹に置いてもいいでしょう。

前号で説明したように、背中に厚みがある人は頭の下にバスタオルを敷くと、首が安定します。目は軽く閉じます。途中で眠ってしまう人もいますが、眠りを身体は求めていたのかもしれません。目が覚めたら続きをやってみるといいですね。

①まず、自分の今している呼吸に注意を向けます。吸う息、吐く息とともに身体がどんなふうに動くのか観察しましょう。コントロールしようとせずに、ただ吸う息とともに、体がどんなふう変化していくのかプロセスを味わいます
②次に足の親指、人差し指、中指、薬指、小指まで1本ずつ注意を向けて、自分の呼吸と合わせて、そこでも呼吸しているとイメージしてみてください
③右足の裏に注意を向ける。足の裏の感覚に注意を向け、呼吸と同調させます。気になることを感じたとしても、そうなんだとただ受けとめて、それが重要なことと感じたとしても、そのことも意識にとめて、いったん手放して、次に移ります

足の甲、踵も同様に
④次に右足の足首から膝までに同様にスキャンしていきます
⑤膝から腿の付け根まで
⑥今度は左足について、同様に行う。両足同時に行ってもよい
⑦今度は尻、骨盤と骨盤の内側について
⑧腹部、腰
⑨背中、胸部
⑩今度は両腕です。両肩、左右の上腕、前腕、手のひら、手の甲、指の1本1本を。すなわち親指、人差し指、中指、薬指、小指
⑪首(のど、うなじ)
⑫顔(顎、口、口の中、唇、目、額)と頭部全体
それぞれに注意を向け、とどまり、注意を移動させていきます

とどまるのは何秒くらいか、何呼吸くらいか決めなくていい。私は1、2呼吸で行っている。ビデオではウォームアップと本編で11分。慣れてきたらビデオを使わないで、自分で20~30分くらいかけて行ってみてください。

全身をスキャンするかのように、じっくりそれぞれの身体感覚に注意を向け、呼吸と同調させていくと、身体に対する「ありがたさ」が感じられこともあります。生まれてこの方、ずっと生きて呼吸して、機能している。すごいじゃないって。

いつもではないけれど、「身体ってすごい」と頭ではなくてしみじみと味わえることがあります。

 

がんサバイバーやそのご家族でヨガのご体験がありましたら、ぜひ体験記などをお寄せください。kokokara@center.email.ne.jp

こころとからだクリニカセンター
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