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マインドフルネス・ヨガ:それでいいのだ! 第55回 今しているこの呼吸<片鼻呼吸法>

森川那智子 こころとからだクリニカセンター所長
発行:2022年12月
更新:2023年10月

  

もりかわ なちこ こころとからだクリニカセンター所長。カウンセラー・ヨガ指導家。心療内科と提携し、カウンセリングを中心に、ヨガ、リラクセーション、瞑想を取り入れた療法で、心と体のサポートに取り組む。『なんにもしたくない!』(すばる舎)『リラックスヨガ』(成美堂出版)『心がラクがずっと続くヒント』(青春出版社)など著書多数

大きく吸って吐くのが〝深呼吸〟とラジオ体操などでは謳ってます。でも、呼吸の漢字は、呼気(吐く息)が前で、吸気が後になっています。

吐いて吸うのが呼吸です。大きく吐いて吸うのが深呼吸です。字を見ればわかるのに、今でも学校では「大きく吸って吐く」と深呼吸について教えているのかしら。

古来、日本では、呼吸は悟られないようにする(理想ですが)ものなのです。

剣道では攻撃は呼気と共になされるので、次の一手で攻撃しようとすると必然的にその前に息を吸う。相手が息を吸うその瞬間を狙って、打ち込まれる前に打ち込むのが鉄則だそうです。

呼吸を知られることは、心の動きを悟られるということになります。だから、悟られないように呼吸する鍛錬を続けるのだということです。

弓でも吸気と共に弓を大きく引き、呼気で矢を放ちます。けれどもどう呼吸しているのか、見た目にはわかりません。

古い浄瑠璃を通して知る江戸の〝カッコいい〟

私は10年来、古曲と呼ばれる古い浄瑠璃、一中節を習っています。一中節は常磐津や清元のもとになっている浄瑠璃ですが、明治維新後も盛んに演奏され、夏目漱石の『虞美人草』の中にも、一中節を熱心に稽古している人物が出てきます。芥川龍之介も谷崎潤一郎も一中節を深く愛好していました。

一中節は、家元から1対1の稽古を通して脈々と受け継がれてきました。漫画「サザエさん」のなかで、マスオさんが、部長が出演する一中節の会を観に行くというのがあり、思わずニヤリ。

歌舞伎はさすがにほとんどの人が知っているけれど、常磐津とか清元といわれても知らない人がほとんどでしょう。浄瑠璃といえば、今の人が知っているのは人形浄瑠璃の流派の1つである義太夫の一派、文楽のことが頭に浮かびます。

わたしもかつて常磐津や清元で語られる「語り物」が、すべて浄瑠璃と呼ばれるものだと知りませんでした。北斎や写楽はよく知られていますが、三味線音楽には目も眩むほどの多様な流派があり、今に受け継がれていることはまったく知りませんでした。

さて一中節ですが、「どこで息継ぎをしているかわからないように語る」のが理想=あらまほしい姿です。とてもその域に遠く及ばないわたしには、「どこで息を継いでいるかわらせないこと」の意味がわからなかったのですが、たぶん、それが江戸のカッコ良さなのだろうなとこのごろようやくわかってきました。

これはたぶん日本独特の美意識なのかと思うのは、西洋音楽での歌唱は譜面にブレスの記号がついています。Jポップでも平原綾香さんの歌唱を聞いていると息継ぎやあえぎ(?)も歌唱の一部になっているような歌い方です。

ヨガ呼吸は肺を満たした息を味わい、ゆっくり出す

呼吸法の話から飛びましたが、いま日本をはじめ欧米やアジアでヨガ呼吸法として親しんでいるものは「ハタヨガ」の呼吸法です。ハタヨガというのはヨガのさまざまな流派の1つですが、現代の心身法の1つとして一時的な流行で終わらない普遍的、原初的な何か、いまの私たちをケアし癒すものとして定着しつつあります。

インドでハタヨガが一般に知られるようになるのはごく最近(ここ20年くらい)です。欧米文化経由のものや日本から逆輸入されたりしています。

ハタヨガでも吐く息を重視しますが、悟られないように呼吸するとは大違い。吐く息でも腹筋を使ってお腹を引き絞るようにへこませて息を吐き切り、吸うときは最初に腹を拡げ、次に脇腹を拡げ、肺を下部、中部、上部と満たしていき、肩を怒らせるのは吸い過ぎで、その分は逃がし、顎を引いて、肺をたっぷり満たした息(プラーナ=生命力)を味わったのちに、ゆっくりと息を出していきます。

片鼻呼吸法

マスク着用過多で、口呼吸になっているわたしたちに必須と思われる片鼻呼吸を紹介します。

わたしたちは意図的に片方の鼻腔だけで呼吸することはできません。片鼻で呼吸するためには、指などを使って一方の鼻腔を閉じ、もう片方の鼻腔で呼吸するようにします。そうすることで、第一に「今ここ」でしている呼吸に意識が集中されます。

わたしたちはふだんあまりにも当たり前に呼吸しています。日常の様々な行動しているときも呼吸はしているし、寝ているときも入浴しているときも食事しているときも呼吸しています。考えるともなく考えていても呼吸は続いています。ときに浅くなったり、ときに深くなったり、ときには息をのんだりもします。

呼吸は自分でコントロールしなくても、自律神経下でそのときどきに適した呼吸を行っています。

とてもファジーで、頭の中で起きている考えや思いにしたがって浅くなったり、速くなったりします。

でも片鼻呼吸法を行っているときは、今しているこの呼吸以外のことを〝考えながら〟というマインドではいられません。呼吸に専心しています。

そのため片鼻呼吸を一定時間行なったあと、気分がリフレッシュしているのに気づかされることが少なくありません。考えすぎて堂々巡りに陥っているようなとき、ぜひ試してほしい。

片鼻呼吸では、吐く息:吸う息:保息の割合を2:1:1とします。心の中でカウントします。メトロノームを使う人もいますが、心の中でカウントしたほうがファジーできつくなりません。わたしは吐く息6~8秒、吸う息4秒、保息4秒から始めています。

吐く息の後半からは腹筋を使って腹部を十分に凹まして、息をしっかり吐き切ります。すると、息は自然と深々と肺を満たしてくれます。吸おう吸おうと思わなくていい。むしろそうしようとすると呼吸は不自然なものになります。

腹部は吐ききった後は自然と緩み、肺の容量を拡げてくれます。

鼻腔を閉じる指ですが、今回は親指、人差し指、中指の3本を使います。指の使い方はいくつかの流儀があります。どれでもいいのです。古い海外ドラマで女性の刑事がパトカーの中で親指と人差し指を使って片鼻呼吸をしているシーンがありました。それでもいいのです。

<片鼻呼吸法>

ではやってみましょう。

今回の動画では、椅子に腰かけた姿勢での片鼻呼吸を紹介します。日常生活で使える範囲が広くなります(もちろん腰をおろし両脚を組む座法で行なっても、正座でもOK)。

①椅子に浅めに腰かけ、骨盤を立て、頭頂まで脊柱をスーッと伸ばす
②体の正面で前腕を立て、最初は右手の人差し指で額、眉間より少し上に当て、中指で左鼻腔を軽く閉じます。右だけで静かに呼吸します。次に親指で右鼻腔を軽く閉じて左鼻だけを使って呼吸します。左右で鼻の通りは幾分違います。
しかし、1年ぐらい経つと左右同じように通るようになりますから、あまり気にしないでやっていきましょう
③まず中指で左小鼻をおさえて、右から息を普通に吐き(スタート時ですから軽く息を吐けばいい)
④お腹を少し出すようにして息を吸います。そして脇腹を拡げ(ここから腹部は少しへこみます)、胸を下から上までゆったりと広げて吸ったところで肩は下げ、顎を軽く引く
⑤そのまま息を保つ
⑥胸を保ったまま、ゆっくり息を吐いていく。普通に吐いて、さらにお腹を凹ませてさらに十分吐く
⑦吐ききったら吐いたこの左から息を吸う。お腹を前方に少し出すようにして
吸い始める。胸郭を横に広げ(このとき腹部は相対的に少し凹む)、次いで胸の上部まで広げ、鎖骨まで息を入れ、
⑧肩を下げて入れすぎた息を逃し、アゴを軽く引き、中指で左小鼻を抑えて保息
⑨親指を右子鼻から放して、右から静かに息を吐いていく。腹をへこませて吐ききる。ここまでが片鼻呼吸の1呼吸。3呼吸1セットを行う
⑩終わったら、普通の呼吸に戻して、今度は左手を使って同様に。時間がなかったら、右手だけ3セットでももちろんOK。その次行うときに左手を使おう

 

がんサバイバーやそのご家族でヨガのご体験がありましたら、ぜひ体験記などをお寄せください。kokokara@center.email.ne.jp

こころとからだクリニカセンター
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