森川那智子のゆるるんヨガ de ほっ!
ゆるゆるセルフケア!(59)「ため息呼吸」
森川那智子(もりかわ なちこ)
こころとからだクリニカセンター所長。カウンセラー・ヨガ指導家。心療内科と提携し、カウンセリングを中心に、ヨガ、リラクセーション、瞑想を取り入れた療法で、心と体のサポートに取り組む。
『こころがラクになる本』(大和書房)
『リラックスヨガ』(成美堂出版)など
著書多数こころとからだクリニカセンター http://www.kokokara.co.jp/
「ため息」からはじめよう
このところ、呼吸について書かれた本が店頭に平積みされているのをたびたび見かけます。呼吸法が一種のブームになっているように思われます。
パニック障害や過呼吸症候群の人も増え続けていますからね。病名がつくほどではないけれど、息苦しさを感じるという人は少なくありません。気づくと息を止めている。呼吸が浅くなっている。深く呼吸しようとしてもうまくできない。やり方がよくわからないという人が増えています。
息をすることは、生きることと同義語です。命の「い」も、生きるの「い」も、「息吹く」の「い」も、「息」という意味だそうです。もっと楽に息ができるということは、もっと楽に生きるということでもあるわけで、呼吸法に関心が高まるのも当然かもしれません。
呼吸は自律神経の支配下にあるので、意思とは関係なく生きているかぎり続きます。でも、意識的に深くしたり浅くしたりもできます。
呼吸を意識的にゆっくり安定したものにすることで、ストレス過多の生活によるバランスを崩しかけた自律神経の働きを安定させることもできるわけです。しかも場所と時間を選びません。いつでもどこでもやろうと思えばできます。
たとえば、目を閉じてゆっくりと10呼吸する。これを実行するだけでストレス緩和に役立ちます。ただし、その実行にはちょっとしたコツがいります。
そんなわけで、何回かに分けて呼吸についてお話していきたいと思います。
腹式呼吸
深く、楽な呼吸といえば腹式呼吸です。息を吐くときにゆっくりと吐く。お腹を少しへこませるくらいにして吐く。吸うときには、へこませたお腹をもとに戻し、さらには少しふくらませるようにして吸う、というのが腹式呼吸の基本です。少しでも呼吸法をやったことのある人にとっては、一番シンプルな呼吸法です。
ところが、呼吸について多少なりとも息苦しさや不安を感じている人にとっては簡単なことではないようです。呼吸に注意を向けてゆっくり長く吐くとか、お腹をへこませるとか、あれこれを考えながら呼吸しようとすると、もうそれだけで息苦しくなってしまうというのです。
そして息苦しさを感じると、たくさん吸おうとします。大きく吸おうとします。ところがそうしようと思ってもうまく息がはいっていかず、苦しくなります。
「先生、呼吸を意識すると、吸っているのか吐いているのか、よくわからなくなります」という人がいます。やっぱり正しく呼吸しようと構えてしまうのですね。普段呼吸は意識しないで行っているものだから、意識するだけで知らず知らずのうちに緊張してきます。自然とか普通とか、案外難しいのです。「あ~あ」って、思わずため息が出てしまいませんか。それです。今出たその「ため息」なら自然に誰でもやっていますよね。そのため息をていねいに味わうようにやってみましょう。
ところがいざ再現しようとするとたいていの人は戸惑います。ですから役者になったつもりで、ため息をする自分を演じてみる。声を上げてもいい。「ああ~あ」って、あくびじゃなくてため息をしてみましょう。
さて、それはどんな呼吸でしょうか。できるだけ詳しくそのプロセスを観察してみましょう。
「ため息」のプロセス
「はあ~と」息を吐く。その前はどうでしょう。息を吸って、ちょっと溜めていて、それから「はあ~」と吐くということでしょうか。そのとき、姿勢はどうなっていますか。頭にどんな考えや感情がよぎりますか。
ところで、他人のため息は自分のそれよりもずっと気になるものです。家族や同僚が何度もため息をついていたら、「なにかあるのか」と心配になります。
でも、自分のため息は無意識的に行っているので、どういうときにどんなふうにため息をしているのか。「どうしたの?」と聞かれて、初めて自分がため息ついていたかと気づかされることも。
また、ため息は言葉よりも雄弁にその人の感情を表す手段としても使われます。
「がっかりした」と言うかわりに大きくため息をつく。経験ありますよね。結構こたえます。だから人前で大きなため息をつくのをお勧めしているわけではありません。普段だって警戒を解いた場面でやっていると思いますが、そのため息について、ていねいに味わうようにやることです。
無意識的に行っているため息を自覚的に行おうとすると――それはもはやため息ではないという人もいます。ですが、思わず出てしまったため息の途中からでいい、いま自分はどんな姿勢をしているのか、どんなことが頭をよぎっているのか、少し距離を置いて味わってみましょう。思わず出たため息の次の呼吸をもう1度自覚的な「ため息呼吸」にして、ていねいによく味わってやってみるのです。
「ストレスを感じて、その瞬間自動的に、リセットするために、大きめに息を吐いている」と自分のため息を観察した人もいました。
ため息にはため息の役割があるのです。「ため息はよくないもの」と思いこんでいる人が多いのですが、ため息をつくことで、瞬間的に自動的にストレスを緩和しているというとらえ方もあります。
呼吸法の最初の1歩はため息から始めましょう。普段何気なくしているため息を、あらためて、ていねいにやってみる。「ああ~」と深く息を吐く。繊細にため息と向き合っていくと、ため息の果たしている一方ならぬ効果にも気づかされます。
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