森川那智子のゆるるんヨガ de ほっ!
ゆるゆるセルフケア!(67)「前後にゆっくり重心移行」
森川那智子(もりかわ なちこ)
こころとからだクリニカセンター所長。カウンセラー・ヨガ指導家。心療内科と提携し、カウンセリングを中心に、ヨガ、リラクセーション、瞑想を取り入れた療法で、心と体のサポートに取り組む。
『こころがラクになる本』(大和書房)
『リラックスヨガ』(成美堂出版)など
著書多数こころとからだクリニカセンター http://www.kokokara.co.jp/
白隠禅師のマインドフルネス
少し前に東京・渋谷で「白隠展」が開かれました。あまり期待もせずに覗いたのですが、その禅画は凄味、哀しみ、滑稽がいりまじっていて、これは本当の意味で〝ゆるキャラ〟の原点ではないかといたく感心してしまいました。
白隠禅師*は生涯で数万点の墨蹟や書画を残したそうですが、大作を中心に約100点がまとまっての展示は初めての試みと主催者側の説明を聞き、意外に思いました。
その代表「すたすた坊主」をみてください。なんだかお茶目でしょう? 描かれているのは笹と桶を持ち、腰に注連縄を巻いただけのほとんど裸のお坊さん。
白隠が住んだ沼津あたりには、寺社へのお参り、願掛けのため水垢離などを代行する坊さんが実際にいて、寒中にこの姿で「すたすた坊主の来るときは~」と歌い踊り、お金や物をもらっていたそうです。
白隠自身が投影されていると思われる「すたすた坊主」。眺めていると、今の私たちも含めて頑張りすぎる人々への思いやりといたわりを感じます。
白隠といえば、呼吸法や瞑想法に興味を持っている人なら、聞きかじりであっても知らない人はほとんどいません。禅をやっている人にとっては、いわばルーツのような人ですから、尊敬と親しみをこめて「白隠さん」と呼ぶことでしょう。
白隠の遺した書画の多くは還暦以降に書かれ、健康法を説いた『夜船閑話』は73歳のときに執筆されたものです。
当時、関ヶ原から100年以上が経っていて、戦のない平和な時代がずっと続いていました。そんな時代ですから、生きている「ひりひり」した実感を求めて、修行に明け暮れるまじめな若者も少なくなかったに違いありません。驚くほど「今の気分」と近いのです。
白隠自身、若いころ激しい苦行で自分を追い込み、禅病にもがいたことがあるそうです。禅病というのは、頭の中であれやこれや考えつめて、頭はのぼせ上り、両腕両脚が冷えて、心は疲れ切り、夜も眠ることができずに、幻覚さえ生ずるようになる心身の状態をいいます。
そして、疲弊の果てにとても平易な健康法にたどりついたといいます。それが「内観の法」と「軟酥の法」で『夜船閑話』のなかに収められています。
「内観の法」は臍輪気海、丹田腰脚、足心に元気を充実させる呼吸法です。「軟酥の法」は軟酥(バターのようなもの)を頭に乗せたイメージを思い描く。軟酥が頭全体を浸し体まで浸透し、潤すと想像するイメージ療法です。
白隠の時代にもしヨガが伝えられていたら、「白隠さんヨガやってただろうな」と勝手に夢想してしまいました。それくらい白隠の養生法は、呼吸と身体を通して自己を回復していくという方法をていねいに説いています。
本稿では何回かにわたってマインドフルネスについて書いてきましたが、白隠が伝えようとしたことはまさしくマインドフルネスではなかったかと思います。
今回は「白隠の内観の法」を簡略化したリラクセーション法を紹介します。就寝前、起床時に5~30分行います。
床の中で、「完全なくつろぎのポーズ」をとります。両足は腰幅が少し広めに開き、両腕はわきをゆるめ、投げ出します。両手をお腹の上にのせてもOK。どちらでも楽なように。枕はなくてもいいでしょう。使うとしたら低めの枕を。そしてゆったり呼吸します。
呼吸はもちろん肺を使って呼吸しているわけですが、吐く息とともにお腹から腰・両脚、足の裏からすーっと力が抜けていくとイメージしながら吐く。
吸う息は足の裏、両足、腰、腹部に必要なエネルギーがゆったり流れこむようなイメージで。これをただ続けます。いつの間にか違うことを考えていることに気づいたら、また呼吸に注意を戻して続けます。
就寝時は今回紹介するエクササイズを行ってから行います。
足の感覚に注意を向けて、徐徐に徐々に重心を移動させることを行います。その過程で足指、足の裏、足の外側、足の甲、かかと、足首から膝、膝から腰までどのように使われていくか、ていねいに思いやりを持って観察していきます。
ポイントは「非常にゆっくりと動作する」こと。
ゆっくり動作するとバランス力が必要になります。腰を落として行うと安定感が増します。その変化をていねいに味わってください。
*白隠慧鶴(はくいん えかく)臨済宗中興の祖とたたえられ、1万点にも及ぶ禅画を残した江戸時代の禅僧
前後にゆっくり重心移行
① 両足をそろえ、右足をゆっくり床をするようにして、1歩前に出します。バランスがとりにくかったら、両足の横幅を少し開くとよいでしょう。
② 非常にゆっくりと重心を右足に移行させます。
③ 今度は非常にゆっくりと重心を左足に移行します。②③を5回繰り返したら左右の足を変えて同様に。
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