肝っ玉弁護士がんのトラブル解決します 8

上司に「治療に専念を」とすすめられ、自己都合で退職したが不当ではないか

解決人 渥美雅子(あつみ まさこ) 弁護士
イラスト●小田切ヒサヒト
発行:2010年4月
更新:2014年3月

  

多彩な弁護士活動の中でも家族、相続などの問題を得意とする。2003年より「女性と仕事の未来館」館長。2児の母。2005年男女共同参画社会作り功労者内閣総理大臣表彰を受賞。『子宮癌のおかげです』(工作舎)など著書多数。
渥美雅子法律事務所 TEL:043-224-2624


入院や通院などで会社に迷惑をかけると思い、上司にがん治療が始まることを報告すると「治療に専念を」と自己都合による退職をすすめられ、退職しました。そのときは治療のことで頭がいっぱいで、すすめられるままに退職をしましたが治療費用がかかるため、後悔しています。正社員でしたが、治療を理由に上司が退職をすすめることは不当ではないのでしょうか。

(30代、男性)

地方労働局に個別労働関係紛争事件として相談を

上司の《退職勧告》が不当であったかどうか、を考えるにあたっては、まず、あなたの退職の形を《実は体のいい解雇であった》という前提で考えてみなければなりません。

労働契約法第16条には「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」とあります。一方、会社には就業規則があって、ふつうは「心身の故障のため職務の遂行が困難な場合」には、任命権者はその従業員を解雇することができる、と定められています。

そこで、病気を理由とする解雇や退職勧告について有効か無効かを争う場合には、働く側が常に「休職、又は軽易な業務への配置転換で対応できたはずなのに、あえて解雇を迫ってきたのは解雇権の濫用である」と主張するのに対し、会社側は「いや、度々欠勤したり、長期入院したりすると業務に重大な支障が生ずるので、解雇はやむを得ない」と反論するという構図になります。

たとえば、判例の中から参考になりそうな事例をピックアップしてみましょう。これまでに解雇無効とされたケースとしては、次のようなものがあります。ビルメンテナンスの会社が、慢性胃腸炎の従業員を解雇したケース(配置転換とか休職の可能性をもっと考慮すべきだとした)とか、タクシー会社が、心臓障害でペースメーカーの植込み手術を受けた運転手を解雇したケース(心臓機能は健常者とほぼ異ならないと認定)とか、ガス水道管設置・冷暖房工事等を請負う会社が、躁うつ病の従業員を解雇したケース(主治医の助言を求めてそれに基づく対応をすべきであったとした)等です。

他方、解雇を有効と認めたケースとしては、貨物自動車運送業を営む会社が、脳梗塞を発症した運転手を解雇したケース(一定期間休職させたとしてもなお就労不能と思われる場合は、休職を命じることなく直ちに解雇しても違法ではないと認定した)があります。

あなたの場合、どの程度の治療が必要なのでしょうか。治療を受けながらでも仕事が続けていけそうなのか、あるいは入院・手術などで短期間休業すればそのあとは通常どおり仕事ができるのか、そのへんが問題です。

ただ別の観点からみると、上司が長時間にわたって強行に退職を迫ったというような経緯がもしもあるなら、それは脅迫による意思表示であったという理由で(民 法96条違反)、退職届が無効であるという主張もできなくはありません。でも、ご質問の限りでは、そのような状況はなさそうなので退職届を撤回するのはな かなか難しいのではないかと思います。しかし、念のため、1度近くの地方労働局にご相談ください。個別労働関係紛争事件として、相談に乗ってくれるかと思 います。

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