肝っ玉弁護士がんのトラブル解決します 11

「私ががん」と同僚が話してしまった。賠償はしてもらえるか?

解決人 渥美雅子(あつみ まさこ) 弁護士
イラスト●小田切ヒサヒト
発行:2010年8月
更新:2014年3月

  

多彩な弁護士活動の中でも家族、相続などの問題を得意とする。2003年より「女性と仕事の未来館」館長。2児の母。2005年男女共同参画社会作り功労者内閣総理大臣表彰を受賞。『子宮癌のおかげです』(工作舎)など著書多数。
渥美雅子法律事務所 TEL:043-224-2624


皮膚がんで治療中の会社員です。会社に知られないように治療を続けていましたが、親しい男性の同僚1人にだけは病気のことを明かしました。ところが、彼が社内で私の病気のことを言ってしまい、会社側から自己都合で退職を迫られています。私が退職した場合、その同僚にも何らかの賠償を請求できるでしょうか。

(30代、男性)

法的責任までは問えないため、賠償請求は難しい

結論からいえば、残念ながら相当難しいと言わざるをえません。

とはいえ、病気や病歴に関する個人情報はそもそも高度の秘匿性を持つもの。それを第三者が暴露し、解雇や退職勧告などの不利益をこうむった場合、「納得できない」という心情もわかります。そうしたケースが裁判で争われた例もいくつかあります。判例を2つご紹介しましょう。

1つはHIV(後天性免疫不全症候群)に関する判例です。

Aさんは派遣社員で、コンピュータのソフトウエアの販売などを行っているタイの会社に派遣されました。Aさんがタイの会社で健康診断を受けたところ、HIVへの感染がわかりました。そのことをタイの会社の社長が日本の派遣会社に連絡した結果、派遣会社はAさんを解雇しました。そこで、Aさんは解雇の無効と、派遣会社とタイの会社にそれぞれ1000万円ずつの慰謝料を求める裁判を起こしました。

争点は、HIVが解雇の正当な理由になるか、タイの会社(とその社長個人)の連絡行為がプライバシーの侵害になるかという2点。裁判所はどちらもAさんの主張を認め、派遣会社とタイの会社に300万円ずつの慰謝料を支払うよう命じました(平成7年3月30日東京地裁判決)。

判決理由では、「HIVに感染していることを口知するに相応しいのは、その者の治療に携わった医療者がその者に口知する場合に限られるべきである」としています。

もう1つはC型肝炎に関する判例。

BさんはC型肝炎の患者で、医薬品卸の会社に派遣社員として働いていました。仕事中に同僚に何気なく「自分はC型肝炎にかかっている」と話したところ、それがたちまち社内へ伝わり、派遣会社の社長の知るところとなって、Bさんは解雇されてしまいました。Bさんは解雇が無効であり、派遣先の会社と同僚の口知が違法として訴訟を起こしました。裁判所は派遣会社に対して100万円の支払いを命じましたが、それ以外の訴えは棄却しました(平成17年3月25日神戸地裁判決)。

棄却理由は、「病歴、病状等を開示する行為は、当然に違法性を有し不法行為となるものではなく、当該個人情報の入手経緯、開示された個人情報の性質、開示 することの合理性、開示された相手方及びその範囲、開示によって当該個人が受ける不利益の程度等を総合考慮して、それが社会通念上、許容される限度を逸脱 したと認められる場合に限り、違法なプライバシー侵害に該当するものと解するのが相当」というものです。

この論理をあなたの場合に当てはめると、同僚の口の軽さは問題としても、法的責任まで問うのは難しいでしょう。

*口知=口頭で伝えること

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