肝っ玉弁護士がんのトラブル解決します 12

末期がんの父が口頭で残した遺言。法的に有効か

解決人 渥美雅子(あつみ まさこ) 弁護士
イラスト●小田切ヒサヒト
発行:2010年10月
更新:2014年3月

  

多彩な弁護士活動の中でも家族、相続などの問題を得意とする。2003年より「女性と仕事の未来館」館長。2児の母。2005年男女共同参画社会作り功労者内閣総理大臣表彰を受賞。『子宮癌のおかげです』(工作舎)など著書多数。
渥美雅子法律事務所 TEL:043-224-2624


父の遺言について伺います。父は末期がんのため、亡くなる直前は寝たきりだったのですが、ある日、「自分の遺産のことで話がある」と言い出しました。遺言書を書くことはできず、私たちに口頭で分与の方法を指示しました。そのとき、父の知人も立ち会いましたが、こうした遺言でも有効でしょうか。

(40代、女性)

法律で定められた様式に当てはまらず、無効

遺言は、亡くなった人の意思をはっきりと確定する必要性から、「要式行為」といって、法律で定められた様式にきちんと当てはまっていないと効力がありません。たとえば、故人の手紙やメモ、日記帳に何が書いてあっても、それは遺言とはなりません。

では、法律で定められた様式に当てはまる遺言は何かといいますと、典型的なものとして①自筆証書遺言と②公正証書遺言があります。

自筆証書遺言とは、遺言者が全文を自分で書き、日付、氏名を自書し、印鑑(指印でもよい)を押したもの。ワープロ書きや代筆ではいけません。ですから、遺言者が寝たきりになったり、手が動かせなくなったりすると、この遺言はできません。

一方、公正証書遺言とは、公証人に書いてもらうもの。遺言者が公証人と2人以上の証人の前で自分の意思を口頭で伝え、それを公証人が筆記して作成します。その場合、原則として遺言者は口がきけて、署名できなければなりませんが、それも無理なら、手話通訳を付けるとか、本人が署名できない旨を公証人が付記するとかして作成する方法もあります。本人が公証役場まで出向けない状況なら、公証人が病院や自宅、介護施設まで出張してくれます。

なお、もう1つ「秘密証書遺言」という遺言もあります。本人が署名、押印し(内容は代筆でもよい)、封緘して公証人に提示して作成するもので、内容が秘密にされるというメリットがあります。

いずれにせよ、遺言を作成するには、本人に「遺言能力」がなければなりません。遺言能力とは、遺言が何かということが理解できて、自分の財産をどうしたいのか、自分自身の意思を持っているということ。したがって、痴呆になってしまうと遺言することはできません。

遺言を作成するなら、頭がしっかりしているうちです。死などまだ遠い先のこと、と思っているうちです。病気になって弱気になったり、医師に余命何カ月など と宣告されたりすると、冷静な判断ができなくなってしまいます。周囲の人も「遺言書を書いておいてください」とは言い出しにくくなります。そうなる前に書 いておくことをお勧めします。

お年寄りの中には毎日、遺言書を書き改めている人もいますが、これは喧嘩の元を作っているようなもの。いつの時点まで正常な判断能力があったのか(遺言は日付の新しいものが有効で、それより古いものは無効となる)、本人の死亡後に争いになることがよくあります。

ご質問のケースは、証人がいるとはいえ、遺言としての様式にかなっていないようですから、残念ですが、それ自体に法的効力はありません。ただし、お父さんの思いを尊重しながら、相続人のみなさんで遺産の分割協議をなさるのがいいのではないでしょうか。

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