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がんの病歴を伏せて就職したら経歴詐称になる?

解決人 渥美雅子(あつみ まさこ) 弁護士
イラスト●小田切ヒサヒト
発行:2011年5月
更新:2014年3月

  

多彩な弁護士活動の中でも家族、相続などの問題を得意とする。2003年より「女性と仕事の未来館」館長。2児の母。2005年男女共同参画社会作り功労者内閣総理大臣表彰を受賞。『子宮癌のおかげです』(工作舎)など著書多数。
渥美雅子法律事務所 TEL:043-224-2624


半年前に肺がんの手術を受けたとき、仕事を辞めました。今は再発を防ぐため経口の抗がん剤を服用しています。その後、健康状態を書かなくてよい履歴書を選び、がんの病歴は伏せて再就職しました。通院は腰痛治療のためと会社に説明していますが、本当のことがバレないか不安です。もしバレたら経歴詐称になりますか。

(40代、男性)

ただ病歴を詐称していただけでは解雇されることはない

労働契約法16条には「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定められています。

この要件を経歴(病歴)詐称に当てはめてみると、仮に採用選考時に履歴書に「健康状態は良好」と書いたとか、「健康上問題はありませんか」と質問されて「問題はありません」と答えた場合に、後日それが嘘だとわかって、それを理由に会社側が解雇するならば、①それが重大な疾病で、労働力の評価や適正配置を誤らせるようなものであり、②そのような病歴を知っていたならば採用しなかったであろう、といえるようなものに限られることになります。

つまり、そういう病気以外は、もしも会社側が経歴詐称を理由にして解雇を言い渡してきたとしても、それは権利の濫用であり、無効である、と反論できるわけです。

判例を見ると、「労働者がHIVに感染していたという理由で、採用を拒否したり、解雇したりすることは会社側の権利濫用にあたる」と判断したものもあります。

病歴とは、個人のプライバシーの核心部分であり、労働能力に直接影響がない限り、それを理由に労働者に不利益を与えてはならない、というのが労働法上の基本的考え方です。

ただ、もともと何らかの既往症があった人が、そのことを隠して入社したところ、入社後症状が悪化して職務に支障をきたすようになった場合には「解雇もやむなし」ということになるでしょう。

ちなみに、こんな判例があります。

「腰椎椎間板ヘルニアの既往症があった20代の男性が、それを隠してある電気設備工事の会社に入社したところ、仕事中事故に遇い、椎間板に再びダメージを 受けて治療のため約10カ月休業せざるを得なくなった。その間は労災保険の給付を受けていたものの、職場復帰後も重量物を運ぶ仕事を拒否したり、上司の業 務命令に従わないことが再三あった」というケースですが、その人に対して、会社側が解雇を通告したので、その解雇が権利の濫用になるかどうか争いになりま した。このケースに対し裁判所は次のように判断しています。

「面接時に既往症を告げなかった点につき経歴詐称として解雇をすることは出来ないが、上司の業務命令に度々従わなかった事実は就業規則違反であり解雇事由に当たる」(平成19年7月26日 大阪地方裁判所判決)

あなたの場合も頻繁に通院しなければならなくなり休暇がかなり増えたり、本来の業務遂行が困難になれば解雇される恐れがないとはいえませんが、ただ病歴を詐称しただけでは解雇されることはないでしょう。

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