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父の介護費用分を遺産から多くもらえないか?

解決人 渥美雅子(あつみ まさこ) 弁護士
イラスト●小田切ヒサヒト
発行:2011年6月
更新:2019年7月

  

多彩な弁護士活動の中でも家族、相続などの問題を得意とする。2003年より「女性と仕事の未来館」館長。2児の母。2005年男女共同参画社会作り功労者内閣総理大臣表彰を受賞。『子宮癌のおかげです』(工作舎)など著書多数。
渥美雅子法律事務所 TEL:043-224-2624


5年前、1人暮らしをしていた77歳の父が胃がんになりました。しかし、遠方に住む3人の子供たちのうち、2人の兄は仕事で忙しく、専業主婦の私に往復の交通費、さまざまな雑費の負担や、時間的、肉体的負担がのしかかりました。父は遺書を残さないまま半年前に他界したのですが、遺産を単純に3等分するのは納得がいきません。介護費用分を多くもらえないのでしょうか。

(40代、女性)

相続分とは別に、介護に貢献した寄与分も相続できる

民法には「寄与分」を定めた規定があります。ご質問のように、相続人の中に被相続人を介護した人としない人がいるような場合、その公平を期すために定められたものです。

条文をそのまま引用します。

民法第904条の1 共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をしたものがあるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価格から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、(中略)法定の相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。

2 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、(中略)寄与をした者の請求により、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、寄与分を定める。

(3項、4項割愛)

この条文の趣旨は、

①被相続人の療養看護、介護などに務め、相続財産の維持について特別の寄与をした相続人がいる場合には、その価格を算定する。

②算定の仕方は、相続人全員の協議で決める。もし協議がまとまらなかったら家庭裁判所の審判で定める。

③その算定額が決まったら、次のような計算式で各人の相続分を決める。

(遺産総額-寄与分)÷相続人の数=各人の相続分

各人の相続分+寄与分=介護者の実際の取得分

仮に遺産総額が1000万で、それを兄弟3人で分ける、うち1人が100万円相当の寄与分があるとするなら、

(1,000万-100万)÷3=300万(各人の法定相続分)

300万+100万=400万(介護者の収得する遺産)

となります。つまりこのケースでは、介護者はほかの兄弟より100万円多く相続できるわけです。

問題はあなたの寄与をいくらと評価するかです。家庭裁判所の審判例を見ると、介護1日につき1万円を認めたケース、病気で寝たきりの被相続人を2年半つき きりで世話をした人に120万円認めたケース(遺産総額850万円)、要介護度2~3の父親を4年間介護した人に遺産総額の30パーセントを認めたケース (遺産総額約9300万)などさまざまなケースがあります。とにかく相続分とは別に寄与分を請求できます。

ご質問のように子どもの中の1人が介護にあたる場合、できれば相続発生前に、皆で協議して決めておくのがベストですね。

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