肝っ玉弁護士がんのトラブル解決します 21

「がんがうつるかも」という噂を流された。根拠のない誹謗中傷は違法?

解決人 渥美雅子(あつみ まさこ) 弁護士
イラスト●小田切ヒサヒト
発行:2011年7月
更新:2014年3月

  

多彩な弁護士活動の中でも家族、相続などの問題を得意とする。2003年より「女性と仕事の未来館」館長。2児の母。2005年男女共同参画社会作り功労者内閣総理大臣表彰を受賞。『子宮癌のおかげです』(工作舎)など著書多数。
渥美雅子法律事務所 TEL:043-224-2624


私が住む地方は大変田舎で、「がんはうつる」という迷信を今も信じているお年寄りがいます。ある人が、大腸がんになった私のことを「家族にもうつるかもしれない」と吹聴し、順調に進んでいた私の娘の縁談を突然断られました。相手に誹謗中傷を止めてもらうよう話すつもりですが、何か法律的な後ろ盾はありませんか。

(50代、女性)

噂話や誹謗中傷に関して法的責任を追及することは相当難しい

私がこの回答を書いている日に「福島からの転校生にいじめ」というタイトルの新聞記事が目に飛び込んできました。原発事故の被災児が他県の学校に転入したところ、地元の子どもたちから「放射能はうつる」と思われシカトされたという内容でした。科学的解明が進んでいる現代でも、いや情報が氾濫している現代ならばこそ、こんな誤解も生じやすく、それがいじめにつながるのでしょう。

「がんはうつる」という誤解も同じこと。がんは伝染病ではないことは自明の理、それでもまだそう信じている人がいるのですね。そういう人が「あの人はがんよ、うつるかもしれない」と他人に話した場合、噂の対象になった人は法律的にはどういう被害を被ったと考えるべきでしょうか。2つあります。

1つは「プライバシーの侵害」です。病気は、高度の秘匿性を持つ個人情報です。それを本人に無断で口外することはプライバシーの侵害です。ただ法的にその責任を追及できるのは「その個人情報の入手、開示等の経緯を総合的に判断して、それが社会通念上許容される限度を逸脱したと認められる場合に限り違法なプライバシーの侵害になる(平成17年3月25日 神戸地裁)」とされています。

これはある会社の派遣社員が、C型肝炎にかかり、そのことを同僚たちが上司に告げ口したため解雇されてしまったケースですが、裁判所は会社の責任は認めたものの、告げ口した同僚の責任は認めませんでした。

もう1つ考えられるのは「風評被害」です。では「風評被害」を受けた人が相手に責任追及できるかというと、これもなかなか難しい面があります。

所沢ダイオキシン訴訟と呼ばれているケースをご紹介します。

10年程前、あるテレビ番組で、埼玉県所沢市の葉物野菜から高い濃度のダイオキシンが検出されたと報道されました。その途端、大手スーパーから所沢産の葉 物野菜が締め出され、農家は大損害を受けました。そこで農家側は風評損害の賠償請求訴訟を起こしました。裁判では1・2審と最高裁の判断が分かれ、最高裁 はテレビ局側の責任は認めたものの、テレビ局の取材に対し情報提供した人々の責任は1審段階から否定されています。

こんなふうに噂話やこそこそと他人を誹謗中傷したことに関して、法的責任を追及することは相当難しいと言わざるを得ません。また、ご質問のケースのように噂話と縁談が壊れたことの因果関係を結び付けるのはもっと難しい気がします。

それよりも、お気持ちを切り替えて「そんな誤った情報に振り回されて縁談を断ってくるような男なら、こちらから願い下げだ」と割り切ってしまうわけにはいきませんか。

もし93日の限度を超えてさらに休みたい場合には、前述の介護休暇制度(年に5日が限度)を活用してもいいですが、もっと長期に休みたいのならば、有給休暇を使うとか、それでもまだ足りなければ欠勤、または休職しなければなりません。

ただ会社の就業規則や労使協定で法を上回る介護休業を認めている例もありますから、1度それもお調べになったらどうでしょうか。

一方、介護休業明けにあなたのほうから退職を申し出た場合、それが法に触れることはあるのか、とご心配のようですが、それはありません。育児介護休業法 も、労働基準法も、労働契約法も、労働者側から退職を申し出ることについては格別の制約を設けてはおりません。従って、あなたのほうから退職を申し出たと しても法に触れることはありません。

どうぞ心おきなく看病なさってください。

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