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肝っ玉弁護士がんのトラブル解決します 22
介護休業を申し出たら暗に退職を促された。適法か?
多彩な弁護士活動の中でも家族、相続などの問題を得意とする。2003年より「女性と仕事の未来館」館長。2児の母。2005年男女共同参画社会作り功労者内閣総理大臣表彰を受賞。『子宮癌のおかげです』(工作舎)など著書多数。
渥美雅子法律事務所 TEL:043-224-2624
妻が末期の膵がんで余命3カ月と告知されました。会社に3カ月の介護休業を申し出たところ、「経営状態が厳しいので、そんな余裕はない」と、暗に退職を促されました。これは違法になりませんか。もし、会社が介護休業を認めてくれたとして、妻が3カ月以上長生きした場合、介護休業の延長はできませんか。逆に介護休業を取り、3カ月後にそのまま退職したら法に触れますか。
(50代、男性)
事業主は、介護休業の申し出を拒めないし、それを理由に解雇もしてはならない
介護に関する休暇、休業制度には2種類あります。「介護休暇」は家族の中に要介護者がいる場合、年間5日を限度として仕事を休むことができる制度(育児介護休業法16条の5)です。一方、「介護休業」は、やはり家族の中に要介護者がいる場合、年間93日を限度として仕事を休むことができる制度(育児介護休業法11条)です。あなたは、後者の「介護休業」を申し出られたわけですね。
さて、介護休業を取得するためには、法律上は家族が「常時介護を要する状態」でなければなりません。たとえば、歩行、排泄、食事、入浴、着脱衣など日常生活動作が介助なしにはできないとか、徘徊、失禁など問題行動があるといった場合です。
奥様は膵がんで入院中とのこと、病院はおそらく完全看護(基準看護)でしょうから、直接的にはあなたの介護がなくても支障はないのだろうと思います。ただ余命3カ月という告知を受けているなら、その終末を看取るのはやはり夫としては当然のこと、人道的にもそのために介護休業制度を活用することを認めてもいいのではないかと思われます。
ところで「事業主は、労働者から介護休業申出があったときは、当該介護休業の申出を拒むことができない」と定められています(育児介護休業法12条)。また、事業主は労働者が介護休業の申し出をしたとか、実際に介護休業をしたことを理由として「その労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない」とも定められています(育児介護休業法10条、16条)。
この趣旨からすると退職勧奨をするのは違法です。もし、そういう状況が改善されないようなら、お近くの労働基準監督署へご相談ください。
もし93日の限度を超えてさらに休みたい場合には、前述の介護休暇制度(年に5日が限度)を活用してもいいですが、もっと長期に休みたいのならば、有給休暇を使うとか、それでもまだ足りなければ欠勤、または休職しなければなりません。
ただ会社の就業規則や労使協定で法を上回る介護休業を認めている例もありますから、1度それもお調べになったらどうでしょうか。
一方、介護休業明けにあなたのほうから退職を申し出た場合、それが法に触れることはあるのか、とご心配のようですが、それはありません。育児介護休業法 も、労働基準法も、労働契約法も、労働者側から退職を申し出ることについては格別の制約を設けてはおりません。従って、あなたのほうから退職を申し出たと しても法に触れることはありません。
どうぞ心おきなく看病なさってください。