肝っ玉弁護士がんのトラブル解決します 36

術後、体のなかに手術針が。訴えることはできるのか?

解決人 渥美雅子(あつみ まさこ) 弁護士
イラスト●小田切ヒサヒト
発行:2012年10月
更新:2014年3月

  

多彩な弁護士活動の中でも家族、相続などの問題を得意とする。2003年より「女性と仕事の未来館」館長。2児の母。2005年男女共同参画社会作り功労者内閣総理大臣表彰を受賞。『子宮癌のおかげです』(工作舎)など著書多数。
渥美雅子法律事務所 TEL:043-224-2624


私の父が前立腺がんを患い、手術を受けました。手術は無事終わり、その後、画像検査で患部を撮影しました。そのときに体内に手術針が見つかり、主治医に再び開腹して手術針を摘出する必要があると言われました。これは、明らかに病院側に責任があると思います。しかし、医師たちはいつも通り何事もなかった様子です。訴えることはできるのでしょうか。

(41歳、女性)

病院側に過失があるので、慰謝料を含めた損害賠償請求ができる

何年か前、私は同様のケースで裁判を起こしたことがあります。それは産婦人科での帝王切開手術でした。日曜日の緊急入院で開腹手術の際、針を1本腹腔内に残したままお腹を閉じて知ったというケースでした。

1カ月ほど経ったところでお腹が痛み出し、レントゲン撮影をした結果、針が残っていることがわかりました。そこで再度開腹手術をして針を取りだしたのです。

このような経緯で、病院側は2回目の手術代と入院費はタダにしてくれたのですが、患者側は痛い思いをし、普通ならしなくてもよい手術をし、しばらくは赤ん坊を抱くこともできなかったのだから、相応の慰謝料を支払うべきだと主張して裁判になりました。

このとき、病院側は「日曜日の緊急入院で医師も看護師も緊急に呼び集められ手術を行ったもので不可抗力であった」と主張したのですが、裁判では不可抗力の抗弁は認められませんでした。

その裁判を進めながら、わかってきたことは「手術の際、医師と看護師は予め使用する針とガーゼの数を数えておき、手術が終わったとき、もう1度その数を数え直す。その数が一致しない限りお腹を閉じることはない」ということでした。

これは、手術を担当する医師・看護師にとって初歩的、基本的な注意義務であるということもいわれました。つまり、どんなに緊急な手術であれ、どんなに難しい手術であれ、人体にメスを入れる以上、必ず守らなければいけない原則ということでした。

あなたのお父様も前立腺がんの手術を受け、それ自体は成功したものの、針を1本残したままお腹を閉じてしまい、後日再び開腹手術をしなければならなくなったとのこと。これは、明らかに病院側のミスです。訴えれば慰謝料を含めた損害賠償請求ができます。

ちなみに私が担当した事件の慰謝料は100万円でした。判例を見ると、針の置き忘れやガーゼの置き忘れの場合、50万円から500万円くらいの幅があるようで、金額は一概には言えません。ケース・バイ・ケースです。

ただ気になるのは、お父様がまだ入院中なのか、退院されたのか、という点です。入院中に病院を相手取ってこういう請求をするというのは患者さんにとって大きなストレスになりましょう。退院なさった後に、病院とかけあうほうがよいでしょう。

ということは、退院の際は言われるままに治療費・入院費等を支払っておいて、後に内訳を精査して2度目の手術代、入院費等を慰謝料と併せて請求なさるほうが賢明だと思います。

患者であるお父様になるべく精神的負担をかけないように、ご家族が中心になって動いてあげるとよいでしょう。

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