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がんと生きる知恵

がん治療急性期と慢性期とに分けて対処する 脱・不眠!眠れない日が続いていませんか?

監修●小曽根基裕 久留米大学医学部神経精神医学講座准教授/東京慈恵会医科大学精神医学講座客員教授
取材・文●菊池亜希子
発行:2019年4月
更新:2019年4月

  

「睡眠時間は短くても、日中普通に生活できていれば不眠症ではありません」と語る小曽根基裕さん

がん治療中は、様々な痛みや不快感で眠れない。

もしくは、がん治療は終わったものの、再発の不安や就労など、さまざまな今後への不安が押し寄せ、ぐっすり眠れない日々を過ごしている人も多いだろう。

どうすれば〝不眠〟を解決できるのか。そのヒントを探ってみた。

〝睡眠8時間神話〟の落とし穴

ベッドに入ってもなかなか眠れない、やっと眠れても夜中に目覚めてしまう……。そんな悩みを抱える人は少なくない。一般的に成人の5分の1ほどの人が睡眠に何らかの問題を抱えていると言われるが、がん患者はその割合が2分の1に跳ね上がる。がん治療による痛みや不快感、精神的なストレスなども相まって、がん患者の多くは「眠れない」悩みを抱えていると言っても過言ではないだろう。

今回は、「どうしたらスムーズに眠れるか」について考えてみたい。

実は、「眠れない」という状況は「不眠」ではない場合がとても多い。〝睡眠8時間神話〟など、睡眠に関する間違った思い込みが「不眠」を作り出している傾向があることを、久留米大学医学部神経精神医学講座准教授の小曽根基裕さんは指摘する。

「体が必要とする睡眠時間は加齢とともに減っていきます。個人差はありますが、20代では8時間必要だったとしても、60代には6時間、70代になるとさらに減って5~6時間で十分になってくるのです。ところが逆に、多くの人が、年齢を重ねるほどに、体のために長く眠ったほうがいいと思い込み、夕食後早々にベッドに入り、悶々と眠れない時間を過ごしているのです」

例えば、午後8時から翌朝6時までベッドに入っていたら、10時間をベッドで過ごしていることになる。そのうち5時間眠っていても、残りの5時間はベッドで眠れないつらさに耐えているわけだ。これでは、たとえ睡眠時間が必要量を満たしていても不眠感を覚えてしまうだろう。こうしたケースが非常に多いというのだ。

そもそも睡眠中は、体の機能がストップしているわけではない。眠っている間に、体は休息をとりつつ、レム睡眠(浅い睡眠)とノンレム睡眠(深い睡眠)を繰り返しながら、血圧や血糖の調節、記憶の整理など、体と頭のメンテナンスを行っている。必要睡眠時間とは、このメンテナンスにかかる時間。加齢とともに代謝が落ちてくるため、メンテナンスにかかる時間も減ってくるというわけだ。

まずは「○時間眠らないといけない」という思い込みを捨てよう。必要な睡眠時間は年齢や体調とともに変化し、そのときの自分の体だけが知っている。体は「5時間でいいよ」と言っているのに、「いや8時間寝なきゃ!」と押しつけるのをやめることから始めよう。

睡眠についてのもう1つの思い込み

〝睡眠8時間神話〟に加えて、もう1つ、重要な思い込みがあるそうだ。

「年齢とともに、必要な睡眠時間が短くなるだけでなく、中途覚醒が起こるようになります。夜中に起きることが増えてくるということですが、これは至って当然のこと。年齢とともに睡眠のパターンが変化すると思ってください」と小曽根さんは語る。

30代ぐらいまでは一度眠ったら朝まで眠り続ける「単相性(たんそうせい)睡眠」という睡眠パターンをとるが、年齢を重ね、40代、50代になるにつれて、眠りの途中、何度か起きる「多相性(たそうせい)睡眠」という睡眠パターンに変わるのだという。

誰もが若いころは、一度眠ったら朝まで眠り続ける単相性睡眠だ。それを基準にしてしまうため、あるときから夜中に目を覚ますようになり、それが続くと不眠症を疑い始める。しかし、これは人間誰もが、年齢とともに経験する睡眠パターンの変化なのだ。

ちなみに、生まれたばかりの赤ちゃんは、典型的な多相性睡眠。1日中、起きたり眠ったりを繰り返し、4歳前後までは昼寝が必要だが、小学生になるころには日中は眠らなくても元気に活動できるようになり、単相性睡眠になる。そして数十年後、50代以降に再び、多相性睡眠に移っていく、というわけだ(図1)。

そうとわかっても、夜中に起きてしまって眠れないのはつらい。そんなときはどうすればよいだろうか。

「夜中に起きるのは当然のこと。不安に思うことはありません。そして、もし毎晩、2時から3時まで目が覚めてしまうなら、それは神様からもらった時間だと思って、起きて何かしたらいいと思います。明かりをつけて隣で眠る人を起こしてしまうのが躊躇(ためら)われるなら、イヤホンで好きな音楽を聴くもいいし、NHKのラジオ深夜便を聞くのもオススメです。静かな声で〝今日は山口県の○○町から桜が咲きましたとのお便りです。次の曲は桜田淳子さんの……〟なんて流れてくると、ちょっとフワッとした気持ちになれますよ(笑)」

睡眠日記をつけてみる

「寝つけない」時間をなるべく過ごさないために、小曽根さんは睡眠日記をつけることを勧める。これは、自分の睡眠メカニズムを知る方法でもある。

「簡単な記録と思ってください。毎日、何時にベッドに入って、何時ごろ眠りについたか、何時に起きたかを書くだけです。夜中に目覚めてしばらく起きていたら、それも書いておきます。そして、日中の状態も書いておくことを勧めます。今日は元気に家事をこなせたとか、日中眠くなってうたた寝したとか、感じたまま書き留めておくのです」

この睡眠日記が思わぬ力を発揮する。例えば、ベッドに入ってもなかなか寝つけず、夜中に必ず起きてしまうと悩んでいるA子さん(抗がん薬治療中)の睡眠日記の1ページを覗いてみよう。たった4日分だが、これだけでもかなりのことがわかる(図2)。

毎日、夜8時~9時ごろベッドに入るが、寝つくのは10時半前後。夜中に数回起きて眠れなくこともあるが、朝は5時~6時に目覚めている。つまり、A子さんの体が眠ろうとする時間は夜10時半前後。この時間にベッドに入ればスムーズに眠りにつくことが予想できる。さらに、日中を見てみると、抗がん薬治療の影響が残っているため、口内炎による不快感やだるさがありウトウトすることも多いが、睡眠不足による大きな体調不良はないと考えてよさそうだ。

とすると、A子さんは不眠ではなく、ベッドに入る時間が早すぎるということがわかる。体力回復のために少しでも長く眠ろうと早くからベッドに入っていたが、眠れない時間を2時間近く過ごし、実際に眠っているのは6時間前後。けれども、基本的に日中も普通に過ごせている。つまり、彼女に必要な睡眠時間は、夜中に1、2度起きてしばらく眠れない時間を差し引いても6時間前後。ちなみに、夜中に起きてしまうことも、多相性睡眠によるもので問題ない。

「睡眠日記をつけてみると、自身の睡眠メカニズムが明確に見えてきます。何時にベッドに入るのがいいのか、今の自分に必要な睡眠時間はどれくらいなのか。それを知るためにも日中の様子(調子がよいか悪いか、眠気に襲われていないか)が大事なのです」と小曽根さんは言う。

睡眠には2つの機構(メカニズム)がある。1つは睡眠を持続させる「睡眠維持機構」で、これは起きて活動することによって体や頭が疲れたら長く眠ろうとするメカニズム。もう1つはどのタイミングで眠るかを決める「生体時計機構」で、朝、日光を浴びて活動を開始することで昼夜のメリハリを作り出すメカニズム。

「睡眠とは、極端に言うと体温調節や血圧の変動と同じで、体が必要に応じて行っていることです。人間が恣意的に体温を上げたり下げたりできないのと同じように、睡眠も人間が勝手に決められるものではないのです」と小曽根さんは説明する。

ならば、体が欲している睡眠時間は何時間なのか、体が寝たいと思っている時間は何時なのかを知ることが、スムーズに眠れるカギだろう。その手助けをしてくれるのが睡眠日記だ。

睡眠日記=ここでいう「睡眠日記」とは、睡眠外来などで不眠症を治療する際に行う「睡眠日誌」を簡略化したもの。「睡眠日誌」の記入例とフォーマットは以下の通り。このフォーマットを印刷して睡眠の記録に利用してみるのもお勧め

「睡眠日誌の記入例」と「睡眠日誌フォーマット」

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