編集部の本棚 2021/3Q
また雪が見たいね
栄人著 幻冬舎メディアコンサルティング 定価1,000円(税別)
拓ちゃんが脳腫瘍になった。最も悪性度の高い膠芽腫(こうがしゅ)、まだ10歳のときに。本書は、そのとき小学1年生だった弟しゅうとの目を通して、親子4人の生活が、拓ちゃんの病気を中心に綴られている。
雪が降る季節の前に札幌から引越し。東京での治療がはじまる。手術後、11歳の誕生日のすぐあと再発。両親はつくばでの新しい治療に賭ける。
難病の子どもの親、それも母親の負担は大きい。小さなきょうだいがいる場合はとくに。どうしても病気の子どもにかかり切りになりがちで、我慢や寂しさ、などを強いることになる。親が病院などに行っているとき誰に面倒をみてもらうかなども大きな問題だ。
そこにはつらい闘病生活だけではなく、普通の子どもの時間を作ろうとする両親や医療者や周りの人々のサポートがあったからこそ、乗り切れたのだろうか。
翌年桜が咲いた春。なのに東京に雪が降った日「もう一度、みんなでまた雪が見たいね」と願っていた母親は、拓ちゃんを抱えて窓際に。そのシーンの浜野史さんのイラストが切ない。
拓ちゃんは亡くなったけど、「みんなで過ごした、かけがえのない時間」があったことが再確認でき、これからの生きる力になっていく(松)。