これまでの食事を見直し改善していくことは大切
がんになってからの食事療法は何がよいか
公共政策大学院教授の
坪野吉孝さん
がんの食事療法に関するさまざまな情報が世間に出回っている。がん患者にとってどんな食事をすればよいかは大切な問題だ。
がんになってからの食事療法に関して、疫学的に推奨される食事はあるのだろうか。再発率などを低下させる食事療法について東北大学教授の坪野吉孝さんに伺った。
まだ研究が少ない再発防止の食事療法
がんになった人にとって、どのような食事をするかは、きわめて関心の高いテーマである。がんの治療がひと通り終了したところで、再発を防ぐためにはどんな食事をすればいいのだろうか、と考える人が多いようだ。
がんの疫学を専門とし、米国対がん協会の食事と栄養とがん予防についての最新ガイドを翻訳・解説をしている東北大学教授の坪野吉孝さんは、次のように語っている。
「がんの治療がひと段落したとき、気になっている再発に関して、医者に言われたことだけではなく、何か自分でできることはないかと考える人が多いのでしょう。そんなとき、最も身近にあるのが食事です。医者任せにしない生活再建の1つの方法として、これまでの食事を見直し、改善していくというのはとても大切なことだと思います」
ただ、どのような食事をすればよいのかということに関して、はっきりとしたことはあまりわかっていないようだ。
がんを防ぐ食事は、罹患予防と再発予防に分けて考える必要がある。健康な人ががんになるのを防ぐ食事と、がんになって治療を終えた人が再発を防ぐための食事は、必ずしも同じではないということだ。坪野さんによれば、がんの栄養疫学研究は、罹患予防から始まり、再発予防に関して本格的な研究が報告されるようになったのは、おおむね2000年代になってからだという。
「再発予防のためにどんな食事をすればいいか。切実な問題なので、患者さんの関心はとても高いのです。しかし、罹患予防の研究より後発だということもあり、実証的なデータはまだ少ししかありません」
食事療法の効果や安全性を調べる研究は、どのように行われるのだろうか。また、研究によって、現在までにどのようなことがわかってきたのだろうか。坪野さんに解説していただいた。
信頼性の高い研究が行われるようになった
がんと食事の研究で、まず行われたのは、培養細胞レベルの実験や動物実験だった。しかし、そうした実験の結果が、人間に当てはまるかどうかはわからない。そこで、人間集団を対象にした研究として、栄養疫学研究が行われるようになったのである。
ただ、栄養疫学研究といっても、研究の方法はさまざまで、どのような方法を採用するかによって、得られた結果の信頼性は大きく異なってくるという。表1の上にいくほど研究を実施するのは困難だが、研究結果の信頼性は高くなる。
前向きコホート研究やランダム化比較試験(無作為割付臨床試験)のような信頼性の高い研究は、1980年代から行われるようになり、1990年代になると研究結果が続々と報告されていった。
「初期の研究で有望視されていた食事が、大規模なランダム化比較試験や前向きコホート研究によって否定されるということが、がんの分野ではたくさんありました。
たとえば、食物繊維の摂取が大腸がんの発症リスクを下げるという研究がありましたが、その後の前向きコホート研究によって、否定的または限定的な結果が出ています。すっかり否定されたわけではないですが。かつて有望視されていた内容が次々と否定されたり留保されたりするのは、研究がだんだん大規模になり、質が高まってきた時期の過渡期的な現象と考えていいでしょう」
がんになってからの再発予防に関しては、1990年代から大規模な(小規模な研究は以前からあった)ランダム化比較試験や前向きコホート研究が行われるようになり、2000年代になって、発表が相次いでいる。
研究デザイン | 研究の実施 | 結果の信頼性 | |
---|---|---|---|
ランダム化比較試験 | 対象をランダムに2グループに分け、一方にはビタミン剤、他方にはプラシーボを投与し、がんの発生率を比べる | 困難 容易 | 高 低 |
前向きコホート研究 | 健康な集団に対して日常的な食品や栄養素の摂取を調べた後、数年から10数年の追跡調査を行ってがんの発生を確認し、食生活とがんの関係を調べる | ||
症例対照研究 | がん症例と健康な対照を選び、過去の日常的な食品や栄養素の摂取を思い出してもらい、両者で比較する | ||
後ろ向きコホート研究 | 健康な集団の過去の曝露状況を事後的に調べ、そこから追跡調査を行い、がんとの関連を調べる | ||
地域相関研究 | 国・都道府県など地域ごとの食品や栄養素の摂取量と、がん死亡率との相関を調べる | ||
時系列研究 | 1つの集団での、食生活の変化と、がん死亡率の変化との関係を調べる | ||
症例報告 | 実証的研究に基づかない権威者の意見 |
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