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何か1つだけを食べてもダメ。バランスのとれた食生活が大切
未精製の穀物、野菜ががんの予防、再発防止につながる

監修:加藤眞三 慶應義塾大学看護医療学部教授
取材・文:江口敏
発行:2007年12月
更新:2014年11月

  

加藤眞三さん 慶應義塾大学看護医療学部教授の
加藤眞三さん

人間は文明の進歩にともない本来の食生活から離れ、がんなどを誘発する結果となってきた。最近見直されているのが、未精製の穀物や野菜を中心とする人間本来の食生活である。慶應義塾大学看護医療学部教授で医学博士の加藤眞三さんは、その本来の食生活が、がん予防やがん再発防止につながるのではないかと力説している。

すべてのがん患者に効く食事療法はまだない

世間にはさまざまな食事療法がある。ある患者にある食事療法が効き、がんが目に見えて良くなったという例もあるから、一概に食事療法は効果がないとは言えない。しかし、科学的に効力が実証されているわけではなく、1つの療法がすべてのがん患者に合うわけではない。

また、食事療法には大抵、その療法を創始した人がおり、その創始者の思想によって効力が説かれる場合が多い。それぞれの療法によって独自の解説がなされているから、あまり共通性がない。

例えば、「果物はビタミンが多いから、たくさん食べなさい」と言っている療法もあれば、「果物は糖分が多いから良くない」と言う療法もある。

さらに、がん患者さんと一口にいっても、がんを切除して再発予防に努めている人、がんをかかえて化学療法を受けている最中の人、がんの終末期に近い人とでは、適応する食事療法はおのずと異なる。

したがって、加藤さんはまず、「すべてのがん患者に奨めることができる食事療法はない、というのが実情です。1人ひとりのがん患者が自分に合った食事療法を見つけることが大事だと思います」と注意を促す。

食事療法の基本は人間本来の食生活

そして加藤さんは、「人間という動物種に合った食生活を心掛けることは、健康な人にも、がん患者にも大切なことではないか」と力説する。

現在の日本社会では、食事にゆがみが生じている。加藤さんは肝臓病が専門だが、最近は全国の人間ドックを受ける人の3割が脂肪肝だと言う。そういう時代を背景にして増えてきたがんも多い。肥満ががんの1つの危険因子になっている。

したがって、加藤さんは「がんになっていない人でも、がんになってからも、肥満にならないような食事が望ましい」と言う。ただ、そのことと絶食・断食療法の是非とは別問題である。

絶食・断食療法によって肥満を解消したら、体質が変わって、がんに良い結果が生まれた例もあるのかも知れない。しかし、それはあるがん患者には当てはまったことであっても、普通の体型のがん患者が絶食・断食をすれば、かえって身体を弱らせ、がんを悪化させることにもなりかねない。

絶食・断食療法は誰にでも奨められるものではない。また、しっかりとした施設で行わないと、かえって身体に不調をきたす恐れもある。さらに、絶食・断食を行ったあとの食事をどうするかなど、問題も多い。

結局、「食事療法の基本は、人間という動物に適した食事に戻すことです」と、加藤さんは繰り返す。脂肪分が多く、繊維質の少ない現在の食事をやめ、繊維質の多い野菜や未精製の穀物を中心に摂ることが、健康のためによい食事であることは、今や世界の共通認識になっている。

未精製の穀物とは、コメで言えば白米ではなく玄米、胚芽米のことであり、同じ白米なら7分づき、8分づきが健康には望ましい。また、肉食より菜食のほうが好ましく、乳製品もほどほどにしなければならない。

日本では乳製品は骨を強くすると思われているが、乳製品を多く摂っている国ほど骨折が多い、というデータもある。また、乳製品の大量消費国は、卵巣がんや前立腺がんも多いと言う。

がんの若年化も食生活に原因が

加藤さんは、「人間という動物が生きてきた歴史を振り返ると、穀物を中心に食べてきています。本格的に肉類を食べるようになったのは、日本ではここ30年のことであり、欧米でも酪農技術が進歩した近代以降のことです」と言い、個人的な考え方と断りながら、「何千年という歴史を持った、未精製の穀物や野菜を中心にした食生活のほうが、本来、人間には合っています」と言う。

最近では、がんは生活習慣病ととらえるのが、世界的な傾向である。アメリカの調査でも、がんの原因の6割は生活習慣であるととらえられており、その主な原因として、喫煙、食生活、運動不足を挙げられている。

人間本来の食生活が産業の変化にともなって変わってきたのは事実であり、それががんを誘発しているとも考えられているが、食生活や喫煙、運動不足など、生活習慣を改善すれば、がんが治ったり、がんにならなくなるということではない。

がんは昔にもあったが、近年、急に増えてきたのは、高齢化にも原因がある。昔は感染症で亡くなる人が多かったが、最近は高齢者が多くなり、それにつれて、がんで亡くなる人も増えている。

しかし、加藤さんは、「最近は、がんになる年齢が若年化してきており、大腸がんやすい臓がんが増えています。それは多分、食生活と関係しています」と警鐘を鳴らす。摂取される食物繊維が足りないため、腸の中で腐敗したものが長い時間溜まっていることが、大腸がんの1つの原因になっているのだと言う。

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