がんと食事1
大腸がんの食事 食事は楽しく、時間をかけて
須永将広さん
毎日の食事は、がん患者さんにとって大きな楽しみの1つだ。過酷な手術を経たあとには、日常に復帰した証しともなる喜びである。食事の作り手が愛情を込めた料理は、患者さんの何よりの励みにもなるはずだ。しかし一方では、手術や化学療法などのがん治療によって、身体に変化が起こっている。そんなとき、何をどのくらい食べて良いのか、食事への不安を抱きやすい。がんの治療で変化した身体に応じた食事とは、どのようなものだろうか。
ゆっくりと時間をかけて・よく噛んで食べる
大腸は消化管*の最後に位置する臓器で、盲腸から始まって上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸と1周する間に、水分・電解質を再吸収しながら、便を形成し、直腸で便を一時貯留する(図1)。
手術により、大腸を切除した後は、下痢、便秘など排便に影響を来たしやすい。これらの症状を引き起こさないように食事を摂ることが重要だ。国立がん研究センター中央病院栄養管理室の須永将広さんは、「自らの大腸の状況を知ることで、何をどのように食べるとよいのかがわかってきます。食事は、自分でできることから取り組んでみましょう」とアドバイスする。
その基本となるのは「ゆっくりと時間をかけて」「よく噛んで食べる」ことだ。
*消化管=食物を消化し、栄養を吸収する管。口腔・咽頭・食道・胃・小腸・大腸に区別される
1度にたくさん食べない
1度にたくさん食べない・1回の食事量を少なく
創(手術の傷口)が塞がり、普通に食事が食べられるようになれば退院だ。しかし、退院直後はまだ本調子でない大腸を刺激しないよう、1度にたくさんの量は食べないほうがよい。暴飲暴食は禁物だ。
理由は、食べ物が大腸に到るまでの過程にもある。胃は、横行結腸の裏に半ば隠れるように位置している。胃が大量に食べ物を溜め込んで拡張すると、大腸を圧迫する場合がある。消化物が大量に小腸に移動すると、今度は小腸が拡張し、大腸を圧迫刺激する。
須永さんは「大腸を切除された方は、創が治癒するまでの間(手術後~2カ月頃までの癒着が強い期間)は、1回の食事量を食べ過ぎないように腹7~8分目にし、食事の回数で補う(分食)ようにし、体調に合わせて回数を減らして3食に」と言う。
この分食の1回量(主食+副食)の目安は、胃の大きさ(片手の握り拳の大きさ)をイメージするとわかり易いそうだ。
間食のすすめ
須永さんは、1回の食事の量を腹7~8分目にする代わりに、間食をとるようすすめている。1日2回、あるいは1回、食事量に応じて間食を摂ると良いという。間食と聞くと、ケーキや煎餅のようなお菓子を思い浮かべる人も多いだろうが、甘いものや焼き菓子はカロリーの過剰摂取になりがちだ。できればサンドイッチ(パン[糖質]+ツナや卵[タンパク質]+トマトやレタス[野菜])、果物+ヨーグルトのように異なる食物群を組み合わせたものや、バランス調整食品(カロリーメイトなど)などが推奨される。
口から食べた物は、1~3日かけて便となって排出される。このため、たとえば、何日も続けて食べ過ぎたり、消化の悪い物ばかりが続くと、大腸に負担をかけることになる。したがって大腸の手術後は「よく噛んで食べる」、「消化の良いものから段階的に」、「食べ過ぎないように」が基本だ。1回の食事量は、術後1~2カ月経過したら体調に合わせて徐々に増やし、その分、間食を減らしていく。
食事の内容は、過度な制限は必要ないが、体調や食べ方によっては下痢や便秘、腹部膨満感・腸閉塞を助長させてしまうこともあるため、大腸に負担をかけ過ぎないように配慮することが大切である。
上手な水分摂取で下痢・便秘予防
水分吸収力の低下に注意
大腸手術後には、下痢、便秘といった排便に影響を来たすことがある(表2)。
大腸では、小腸から送られてきた500~1,500mlの腸内容物を、最終的に100~200gの便にする。
しかし、大腸を切除すると、この吸収過程が短くなることに加え、便(腸液)を押し進めるぜん動運動も低下する。これが下痢あるいは便秘となる要因の1つだ。
下痢では、本来再利用するはずの栄養物が排出されるため、これらが失われる。
便秘は、腸閉塞の原因にもなるのでとくに注意したい。
こまめな水分摂取を
そこでまず心がけたいのが、水分不足にならないこと。健康な人の標準的な水分摂取量の目安は表3のようになる。
体重60kgの人は、60×30cc=1,800ccが1日の水分摂取量。このうち、ご飯や味噌汁、果物などの食事からおよそ1,000ccを摂っている。したがって、800ccを食事以外で取り入れる必要がある。
ただし、体の水分は汗からも失われるので、あくまでもこの数字は目安としてとらえよう。運動などで発汗したときなどは、これより多めの水分摂取を心がけたい。
口や喉の渇きを感じにくく普段から水分摂取の少ない人、とくに高齢者は、脱水症状を起こしやすいのでなるべく意識して水分をとるようにする。 食事中に摂りにくいときは、食事の合間や間食の時間に摂るようにする。須永さんは「コップ1杯でかまわないので、習慣づけると良いでしょう」とアドバイスする。
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