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FP黒田尚子のがんとライフプラン 34
新しい保険外併用療養〝患者申出療養〟を保障する「患者申出療養サポート」とは?
2016年4月から始まった〝患者申出療養〟は、患者さんからの申出を起点とした新しい仕組みです。概要については、スタートする前に本連載『お金持ちしか受けられないの?!「患者申出療養」ってどんな制度?』(2015年11月号)でもご紹介したとおりです。同年9月21日、厚生労働省の有識者会議で、ようやく第1号が承認され、同制度が本格的にスタートすることとなりました。患者さんにとって治療の選択の幅が広がる一方、高額な費用負担は大きなハードルとして課題の1つに挙げられています。今回は、この患者申出療養を保障する新しい保険商品についてご紹介します。
今回、承認されたのは、胃がんが進行して腹膜に転移した患者さんに対し、抗がん薬タキソール(一般名パクリタキセル)を静脈と腹腔内の2つの経路で投与するとともに、抗がん薬TS-1(一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム)の内服を併用するという治療法。東京大学医学部附属病院を中心に行われ、100人が治療を受ける予定だといいます。
患者申出療養の適用が想定されているのは、国内未承認医薬品等の使用や国内承認済の医薬品等の適応外使用ですが、今回は、抗がん薬適応外であった患者さんからの申出となります。
さて、気になる費用ですが、東京大学医学部附属病院で実施する場合、患者さんの自己負担額の内訳は、保険適用外に係る費用が44万6,000円(平均的投与回数24回の場合)、保険適用のその他の療養に係る費用(自己負担3割)が44万4,000円の合計約89万円です。
保険適用となる部分に対して、高額療養費制度が適用されれば、患者負担額はもっと少なくなるでしょう。
以前、国立がん研究センターで発表された試算では、同制度の対象になると予想される抗がん薬(欧米先進国で承認され日本では未承認または適応外)は、薬剤費が1カ月あたり100万円を超えるものがほとんど、ということでしたので、「意外に割安だな」という印象を受けます。
ただし、今回の治療がそれほど高額と言えないのは、新規の抗がん薬を含んでおらず、通常は静脈内投与であるものを、腹腔内投与という経路変更だけが既存療法との違いであることや、病院内でのCRC(治験コーディネーター)等の臨床研究に携わる人件費を経費に計上していない、といった背景があるようです。
ただ、具体的な承認例が出たことで、同制度がこれから徐々に広まっていく可能性もあり、その場合には、患者さんやそのご家族にとって費用負担をどうするかは大きな問題です。
技術料を保障する保険は初めて
そこで登場したのが、2016年9月20日にアクサ生命から発売された「患者申出療養サポート」〈患者申出療養給付保険(無解約払戻金型)〉です。
患者申出療養にかかる技術料を保障する保険としては業界初。同制度に該当する療養を受けた場合、保険診療でカバーされない自己負担となる技術料が「患者申出療養給付金」として同額保障されます。
同商品の注意点は3つあります。
まず1つ目として、保障は無制限ではなく上限があること。1回の療養につき1,000万円限度、通算して2,000万円が限度となっています。
2つ目として、有期(定期)型であること。同商品の保障期間は5年です。ただし、いったん加入すると健康状態にかかわらず、契約は90歳まで自動的に更新されます。
今後、どのような治療法が同制度の対象になるかわからないことを考慮すると、有期型は、保険会社にとって無難な判断だといえるでしょう。
3つ目として、単体では加入できないこと。同社の医療保険やがん保険などとともに加入する必要があります。単体の保険というよりは、特約のように付帯するイメージです。
したがって、これらの保険に加入できないがん経験者は、同商品への加入も難しいということになります(同商品の告知事項は、過去5年以内の病歴、治療歴など。部位等にもよるが、完治後20年経過し再発がない等のケースで加入できる場合もある)。
また、同商品の保険料は、年齢・性別を問わず一律400円と割安ですが、〝主契約部分〟となる代表的なセット加入商品と合わせると保険料は、以下の通りです。
なお、この保険は「有配当」タイプですので、剰余金が生じた場合、保険期間満了後に契約者配当金が支払われます。つまり、今後の保険給付発生状況によっては、事後還元される可能性があるということです。
・無解約払いもどし金型終身医療保険(12) 保険期間・払込期間:終身 払方:口座振替扱・月払 特約:先進医療給付特約(12)
・がん治療保険(無解約払いもどし金型) 保険期間・払込期間:10年 払方:口座振替扱・月払 特約:上皮内新生物治療給付特約
セミナーなどでがん患者さんやそのご家族からも、よくご質問を受けるのですが、今や多くの保険会社の医療保険やがん保険に付加できる「先進医療特約」は、同制度は保障されていません。第1号が承認された今、同業他社でも、同じように患者申出療養への保障を充実させる動きが出てくることも考えられるでしょう。
今月のワンポイント 保険業界では、マイナス金利の影響による販売停止や予定利率の引下げなどによって、いわゆる貯蓄性商品の収益が大きく落ち込み、保障性商品の販売に注力する保険会社が増えています。今回ご紹介した商品のような、まだ市場に存在しない〝ニューリスク〟に注目した動きは今後も活発化してくるでしょう。