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後遺症・合併症の予防と社会復帰を目指すうえで重要な役割
術前・術後のリハビリが呼吸合併症を予防する

監修:辻哲也 慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室講師
取材・文:町口 充
発行:2008年4月
更新:2019年7月

  

辻哲也さん 慶應義塾大学医学部
リハビリテーション医学教室講師の
辻哲也さん

がんが治る時代になり、がんと共存する時代となって、治療後の回復力やQOL(生活の質)を高めるためのリハビリテーションの役割が重要になっている。そこで今回は、食道がんなど消化器系がんの開胸開腹手術の周術期リハビリテーションを取り上げた。


重要度が高まってきた「がんのリハビリ」

[リハビリテーションの目的]

  • 病気や怪我で、身体的・精神的障害が生じて、日常生活動作(ADL)が1人ではできなくなったり、社会活動が難しくなったりして、生きることの質(QOL)が下がってしまった場合に、チームでさまざまな取り組みを行い、日常生活の自立、社会復帰を支援し、QOLを向上させること
  • 日常生活:食事、着替え、トイレ、歩行や階段
    社会活動:学校、仕事、家事
    ADL:Activities of daily living
    QOL:Quality of life

脳卒中で半身マヒになったときや、手や足を骨折したあとなどに、早期のリハビリテーション(以下、リハビリと略)が大切であることは多くの人が知っている。しかし、「がんのリハビリ」はまだ耳新しいに違いない。

それもそのはずで、数年前まで、日本のがん専門病院でリハビリが標榜科目になっているところは1カ所もなかった。しかし、治療の進歩とともに生存率が向上し、助かる命が増えたことで、治療後にあらわれる障害に対して、その予防や軽減を目的としたリハビリの必要がクローズアップされるようになってきた。

日本では02年9月、静岡がんセンターの開設とともにリハビリ科がスタート。リハビリ科部長に就任したのが辻哲也さん(現慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室講師)だ。辻さんは、リハビリ医学の基本的な考え方についてこう語る。

「たとえば脳卒中で半身マヒとなった場合、リハビリの専門医は体のマヒや言語障害、嚥下(飲み込み)障害など臓器レベルでの体の機能障害を診ます。それだけでなく、歩行など日常生活動作(ADL)全般やコミュニケーションなど個体レベルの日常生活についても注意を向け、さらに復職、復学など社会的な面についてもチェックし、個々の臓器レベルから社会レベルまで、トータルで患者さんを診たうえで、生きることの質(QOL)の向上をめざします。このようなリハビリは医師1人ではできず、理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)、看護師、義肢装具士、医療ソーシャルワーカー(MSW)などがチームとなって取り組まなくてはいけません」

病期によって分類

がんのリハビリはどんな種類があるかというと、病期によって次のように分類される。

(1)予防的

がんの治療前から開始。障害はまだないが、予防が目的。たとえば、手術前後の呼吸リハビリ、移植前後のリハビリなど。

(2)回復的

がん自体は完治あるいは克服したが、さまざまな障害が残っているというとき、最大限の機能回復を図る。がん手術後の歩行障害、日常生活障害に対するリハビリなど。

(3)維持的

腫瘍が増大し、障害が進行しつつある患者の歩行能力や日常生活能力を維持、改善する。杖や歩行器の使用、動作のコツ、筋力低下の予防など。

(4)緩和的

終末期の患者に対して、そのニーズを尊重しながら、身体的、精神的、社会的にQOLの高い生活が送れるように援助。

以上のうち、(2)の「回復的」は、脳卒中など他のリハビリとも共通しているところが多い。がんに特有なのは(3)(4)だろう。(3)の「維持的」では、腫瘍はとりきれていない、あるいは転移したりして進行はしているが、体が元気な段階でのリハビリ。また、(4)の「緩和的」は、余命が半年未満という患者に対して、患者の要望を尊重しながら症状緩和などを行う。

「この4段階はそれぞれが大事です。リハビリの対象となる障害はいろいろありますが、骨転移とか、脳腫瘍・脳転移に伴う片マヒなど、がんそのものによる障害のほか、主に治療の過程でもたらされる障害もあります。化学療法や放射線療法などによる障害では、副作用が出て寝たきりになると全身性の機能が低下したり、廃用性症候群(寝たきりなどの状態で、体や頭を使わないことによって起こる機能低下)を起こしたりします。手術に伴う障害も、乳がん術後の肩関節拘縮、乳がん・子宮がん手術後のリンパ浮腫、頭頸部がん術後の嚥下障害、発声障害、開胸開腹術後の呼吸合併症など多岐にわたります」

侵襲が大きい食道がん手術

[食道がんの手術例]
図:食道がんの手術例
右開胸・開腹食道亜全摘、3領域郭清、
胸骨後経路頸部食道胃管吻合

そこで今回は、消化器系がんの開胸開腹術の周術期リハビリについてみてみよう。

周術期とは、手術を行う周辺(前後)の期間のことで、手術前から診療科と連携してリハビリ科がかかわることが重要、と辻さんは指摘する。

「どうしてかというと、術前のトレーニングをちゃんとして手術にのぞめば、手術のあとで合併症を予防したり、機能回復がスムーズにいくからです。また、手術のあと見ず知らずの者がいきなり行くより、術前に面識を持っていれば、患者さんも戸惑うことがありません。それに、患者さんにとって、治療とか手術そのものの不安も大きいが、手術のあとの後遺症に対する不安も大きい。術前に手術のあとどんな後遺症があり、どういうリハビリを行えばどこまでよくなるか、どれぐらい時間がかかるか、といった情報をしっかり説明すると、不安の解消につながります」

周術期のリハビリは開胸術、開腹術のがんであれば、すべてのがんが対象となるが、とくに消化器系のがんでは、食道がんが手術による侵襲が大きいため、リハビリが重要な役割を果たす。

食道がんは、ほとんどが胸の中の食道に発生するので、切除するには胸を開かなければいけない。肋骨の奥の肺をのぞいて、さらにその奥にある食道を切除したあとは、食べ物が通る道をつくる必要がある。そこで今度はおなかを開けて、胃の一部を筒状にして(胃管という)、食道の代用にする。次に首の部分を切り、胃管を引っ張りあげて、首の部分で残っている食道とつなぐ。このように体の3カ所にメスを入れ、あわせて胸部、頸部、腹部のリンパ節郭清も行われるので、手術後の合併症も起こりやすくなる。

[開胸・開腹術中や術後安静時の肺の状態]
図:開胸・開腹術中や術後安静時の肺の状態

「全身麻酔から覚めたあと、仰向けで寝たままでいると、麻酔の影響もあってボーッとしているし、呼吸もどうしても浅くなります。切られているから痛みもあります。するとなおさら、深い呼吸ができなくなります。そのうえ、上向きで寝ていると痰が下のほうへたまってくるようになります。痰がからむので何とか出そうとしますが、痛いからなかなか出せない。するとさらに肺の奥の下のほうに痰がたまり、それがもとで無気肺(痰が気管に詰まって肺がしぼんでしまう状態)を起こしたり、肺炎を起こしたりします」

手術のあと、肺活量はかなり落ちて、1週間ぐらいかけて徐々に回復していく。その1週間のうちにしっかりと対応しないと肺炎になりやすい、と辻さんは指摘する。

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