「眠れない」ときはこうする

文:池内加寿子
発行:2003年11月
更新:2013年8月

  

粂 和彦さん くめ かずひこ
熊本大学発生医学研究センター再建医学部門 幹細胞制御分野助教授
睡眠障害についてのホームページを開設し相談にも応じている。

睡眠障害相談室 Sleep Disorder Clinic

熊本大学発生医学研究センター
再建医学部門
幹細胞制御分野助教授の
粂 和彦さん

不眠の原因

不眠症とひとくちに言っても、その原因は生理的なものから病気によるものまでさまざまです。まず、不眠の原因について考えてみましょう。

1 加齢による不眠

年齢とともに、朝早く目が覚めるようになったり、眠りが浅くなったりするのは正常なことです。

睡眠の質や量は、生涯を通じて変化していきます。生まれたばかりの赤ちゃんは、ほとんど眠っていますが、学齢期以降だいたい睡眠のパターンが決まってきて、40~50歳を過ぎるころから個人差はあれ、早朝に目がさめやすくなる、などの変化が現れ始めます。老化現象は、睡眠から始まるといっても過言ではないでしょう。

床に入っても30分以内に眠れない「入眠困難」か、夜中や明け方に目覚める中途覚醒」が、過去1年間に週3回以上の頻度であった人は、20歳以上の全年齢層では、男性が17パーセント、女性が21パーセントであるのに対し、80歳以上では男性が30パーセント、女性が40パーセント以上と、年齢が高くなるほど多くなる、という調査報告もあります。原因が思い当たらないのに眠れないという場合は、加齢による自然現象かもしれません。

2 生体リズム性の不眠

体が昼だと思っている時間帯は、眠気が非常に弱くなります。海外旅行のときにおこる時差ボケなどはこれにあたります。

また、夜寝つきが悪く翌朝は寝坊する、というパターンを繰り返すこともよくあります。これは、1日の規則正しい生活リズムが乱れ、体内時計が本当の時刻から遅れてしまっている(ずれてしまっている)ことが原因です。夜、明るい部屋でテレビを見て夜更かしし、翌日、昼の光にあたる時間がずれこむと、体内時計も遅れてしまい、翌日の夜も眠れない、という悪循環になるのです。

3 過緊張性の不眠

睡眠は、交感神経と副交感神経という二つの自律神経が調節しています。

交感神経は、血圧や心拍数を上げ、脳に行く血液を増やして、眠気を覚まします。

一方、副交感神経は、血圧を下げ、脳に行く血液を減らして、眠気を誘います。このどちらかが強く、または弱くなり過ぎてバランスが崩れると、自律神経失調症とよばれる状態になり、眠りにも影響してきます。自律神経は、自分の意志ではコントロールできないので「眠ろう」と思っても、眠れないわけです。

仕事などによる緊張で神経が高ぶり、神経が休むべき夜になっても緊張が解けないと、なかなか寝付けなかったり、眠りが浅かったりして睡眠不足になることがあります。これは、自律神経のうち、交感神経の緊張が強くなり過ぎるためにおこる現象です。

4 ストレス性、精神外傷性の不眠

3とほぼ同じですが、自分で思いあたるような、はっきりした原因が存在するものです。つらい思いをしたとき、悩みがあるときは、誰でも眠れなくなります。がんの患者さんやご家族の場合も、精神的な悩みから不眠症になることがままあります。

睡眠時には、体は休んでいるのに脳が働いて眼球が動き、夢を見ることが多いレム睡眠、脳が休息するノンレム睡眠が交互に訪れ、この両方がバランスよくとれて初めて、心地よく眠ったという実感がもてます。ところが、精神的なストレスがあると、睡眠全体が浅くなり、レム睡眠が増えて、悪夢をよく見るようになったりもします。

5 病気・更年期等による不眠

自律神経系の機能を障害する病気では、特に睡眠に影響が出やすいもの。

女性の場合、閉経前後の更年期に不眠を訴える人が多くなるようです。この時期は、女性ホルモンの変化に加えて、子供が巣立ったり、介護に携わったり、生活環境の変化によって心身のバランスをくずし、自律神経失調状態になるのが原因と考えられます。睡眠薬を常用する50代の女性は8.8パーセントで、男性(1.4パーセント)に比べて多いのもこうした心身の不調が影響しているためかもしれません。また、子宮がん、卵巣がんの治療で卵巣機能が損なわれたときも、ホルモンの影響で自律神経のバランスがくずれ、不眠になることがあります。

このほか、うつ病をはじめ、多くの精神的な病気によっても睡眠が障害されます。

3のストレス性・精神外傷性の不眠が長引く場合は、「うつ病」に移行している可能性があります。うつ病になると、過眠と不眠の両方の症状が現れます。このような場合は、睡眠障害の専門医か精神科で受診して、適切な治療を受けましょう。

6 カフェイン、薬、アルコールによる不眠

コーヒーやお茶、コーラなどに含まれるカフェインは覚醒作用があり、睡眠を妨げます。薬の副作用で睡眠が障害されることもあります。

また「寝酒」としてよく使われるアルコールは、多少寝付きをよくすることはあっても、意外なことに睡眠を妨げます。レム睡眠、ノンレム睡眠ともに妨げるため、夜中や朝早く目覚める中途覚醒や早朝覚醒をおこしやすいのです。寝酒にするなら、ごく少量にとどめておきましょう。

7 環境性の不眠

寝室の騒音、明るさ、温度、寝具の状態などによって、寝付きが悪くなったり、眠りの質が悪化することがあります。熟睡するためには、環境を整えることも大切です。


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