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もう怖くない!ダンピング症候群や骨量低下などの後遺症。しびれやめまいの新しい原因も判明 胃がんの術後後遺症とそのQOL改善策

監修●利野 靖 横浜市立大学付属病院一般外科部長
取材・文●町口 充
発行:2009年4月
更新:2020年3月

  

利野靖さん 横浜市立大学付属病院
一般外科部長の
利野 靖さん

胃の手術を受けて胃がなくなったり、小さくなったりすると、その影響でダンピング症候群をはじめ、さまざまな後遺症が出るが、最近は食生活の改善や工夫、術式の変更などによって、こうした症状はかなり解消されるようになってきた。また、術後後遺症としてあらわれるしびれやめまいは、これまでダンピング症候群によるものとされてきたが、ビタミンEの欠乏が原因で起こるとわかり、対策がとられるようになっている。

倦怠感、めまいなどの症状を伴う「ダンピング症候群」

私たちにとって、胃は欠かせない臓器だ。

それなのに手術で胃がなくなったり、小さくなったりすれば、胃の機能が損なわれてさまざまなトラブルを招く。

「胃がんは手術が最も有効な標準的治療です。全摘か胃の3分の2をとる幽門側胃切除をすれば、胃がなくなるか、小さくなるのは昔も今も変わりありませんから、術後の後遺症のあらわれ方も同じです」

と語るのは横浜市立大学付属病院一般外科部長の利野靖さんだ。

程度の差こそあれ、術後後遺症としてほとんどの人が経験するのが「ダンピング症候群」。胃の機能が損なわれる結果、食べたものが十分に消化されないまま小腸内に急速落下(ダンピング)して、倦怠感、発汗、めまいといった血管運動症状や、腹痛などの症状があらわれてくる。

食後20~30分以内に起こる「早期ダンピング症候群」と、食後2~3時間で起こる「後期ダンピング症候群」とがある。

「早期で1番多いのは腹部症状で、おなかがゴロゴロいったりします。未消化で通常より濃い食物がいきなり小腸とか十二指腸に流れ込んでくると、浸透圧による水分移動のため一時的に血圧低下を招いて血管運動症状を起こすし、消化管ホルモンが過剰分泌して、急いで腸を動かそうとするため腹痛を起こしたりします」(利野さん)

ただし、症状は必ずしも一様ではなく、中には逆に腸が動かない感じになって、おなかが張ると訴えるケースもある。下痢しやすくなる人もいれば、便秘に傾く人もいて、両極端という。

下痢する人と便秘する人とでは、便秘のほうが要注意という。胃切除後、便秘が続くと腸閉塞を起こしやすくなるからだ。

食後2~3時間たってからあらわれる後期ダンピング症候群は、脱力感、冷汗、倦怠感、めまい、手や指の震えなどが主症状。ひどい場合は失神することもある。

原因は低血糖。食べたものがいきなり腸に入り、短時間で吸収されると、一過性の高血糖を起こす。すると、これに反応してインスリン(血糖値を低下させるはたらきがあるホルモン)が大量に分泌されるので、今度は低血糖に陥り、さまざまな低血糖症状を呈するのだ。

少量ずつゆっくり食べるなど食べ方の工夫だけでも改善

「ダンピング症候群はほとんどの場合、食べ方を工夫するだけで解消します。早期の対策としては、食事の回数を増やし、1回の量を減らして、少量ずつをゆっくり食べるようにしてもらっています。1番いいのは口の中のものがなくなるまで噛むこと。噛まずに飲み込んでいることが多く、とくに麺類はそのまま丸飲みする人がほとんどです。また麺類は空気が入るので腸閉塞になりやすい。麺類はなるべく食べないようにするか、どうしても食べたいときは刻んで食べてもらうようにしています」(利野さん)

後期の対策としては、食後1時間ぐらいしてから少量の甘いものを食べるといい。食後30分ほどして高血糖のピークがきて、その後1~2時間で下がっていくので食事をしてから1時間後ぐらいに角砂糖1個、飴玉1個、缶ジュースといった甘いものを摂ると血糖が下がりすぎるのを防いでくれる。症状が治まらないときは、食後の血糖上昇を抑える糖尿病治療薬「グルコバイ」(一般名アカルボース)を用いるケースもある。ただし、下痢をしているような人には有効だが、おなかが張るような症状のある人には使えないという。

術式変更で激減した輸入脚症候群

手術法が原因で起こる後遺症としては、「輸入脚症候群」がある。胃がんの手術は、がん病変を含む胃を切除する手術のあと、食道や腸をつなぐ再建術を行って完了する。従来、胃の3分の2を切り取る幽門側胃切除を行った場合の再建術として、十二指腸の端は閉じてしまい、残った胃と空腸とをつなぎ合わせるビルロート2法という再建術が行われることがあった。残った胃が小さい場合、十二指腸を直接つなぎ合わせるのが難しいため、選択される術式だ。

この手術で持ち上がった形になった十二指腸の部分を輸入脚と呼ぶが、ここに膵液や胆汁などが溜まって、胃に逆流して嘔吐症状などを起こすのが輸入脚症候群だ。逆流性食道炎は嘔吐ではないので、後述する。

最近では、ビルロート2法に代わって、ルーワイ法と呼ばれる再建術が主流になっている。これは、十二指腸の端を閉じて残った胃と空腸をつなぎ合わせたあと、十二指腸の下部を空腸の側壁につなぐ術式。これだと、膵液などが溜まりにくく、胃への逆流が起こりにくくなるため逆流性食道炎を起こしにくくなる術式でもある。

「現在は、この術式を選んで手術を行っていますので、輸入脚障害はほとんどみられなくなっています」(利野さん)

[胃手術後の再建法]
図:胃手術後の再建法

骨量低下や貧血対策は?

胃の手術をするとカルシウムの吸収が悪くなる。すると血液中のカルシウム不足を補うため、骨からカルシウムが溶け出すようになり、「骨量低下」となる。

「骨粗鬆症のように骨がスカスカになって折れやすくなるというより、胃がない人の骨の症状は骨軟化症のような症状で、軟らかくなるとイメージすればいい。女性に多い後遺症の1つで、注意が必要です」(利野さん)

対策としては、活性型ビタミンDの投与が有効だが、毎日1マイクログラムのビタミンDを飲んで、効果が出るのは1年ぐらいたってからと時間がかかるのが難点。最近、半年ほどで効果があらわれる薬として、骨吸収を抑制するフォサマック(一般名アレンドロネート、ビスホスホネート製剤の一種)が有効、との報告が相次いでいる。ただ、この薬は消化器症状の副作用が出やすいため、服用するとおなかがもたれたり、吐き気がするという人には禁忌だ。

また胃の手術後は鉄分やビタミンB12の吸収も悪くなり、「貧血」が起こりやすくなる。鉄分不足は鉄剤を飲むことで解消され、3カ月もすれば正常に戻る。ビタミンB12は、胃を全摘するとほとんど吸収できなくなるため、補充が必要になる。毎日ビタミンB12剤を飲み続ける方法もあるが、注射なら3カ月に1回ですむ。「薬の量が増えるよりは」と、利野さんはこの方法を採用しているという。

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