副作用対策の1つとして がん治療の医師は漢方薬にも目を向けてほしい
がん治療中の不調対策に もっと漢方薬を使って
本誌で連載中の山崎多賀子さんとともに「マンマチアー委員会(女性の乳房の健康を応援する会)」を主宰
がん治療中はもちろん、治療後も再発の不安や体力・免疫力の低下、女性の場合は更年期症状など、病気とまではいかない不調に悩む患者さんがたくさんいます。日本の伝統医学として発展してきた漢方薬は、こうした不調に効果を発揮します。がん患者さんたちがもっと漢方薬を利用できるようにならないものでしょうか……。
理事長:増田美加
NPO法人 みんなの漢方®事務局
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漢方薬で病名のつかない不調を改善
乳がん体験者コーディネーターとしての活動、また女性医療ジャーナリストとしての取材を通して、「がん治療には漢方薬がもっと役立つ機会がたくさんあると感じます」と、NPO法人みんなの漢方の理事長・増田美加さんは言います。
「漢方薬には抗がん薬のようにがんを退治する作用はありません。漢方薬が得意なのは、体質に由来する症状や数値に表れない不調に対する治療。がん治療の副作用対策や治療後のQOLアップに利用すれば、楽になる患者さんはたくさんいるはずです」
増田さん自身、「漢方薬に支えられた人生を送ってきた」というほど服用歴は長く、30代の不妊治療中は便秘、PMS(月経前症候群)、むくみなどの不調対策に、乳がんを罹患した40代前半は治療後のメンタルケアやプレ更年期対策に、40代後半以降は本格的な更年期対策に、そして50代になった現在は、大腸ポリープの切除を数回行ったことから、大腸がんの予防を兼ねた体調管理と更年期対策のために漢方薬を服用しているそうです。
「私の場合、乳がんは早期発見だったので、手術だけで治療は終わりました。でも乳がんの既往でHRT(ホルモン補充療法)が禁忌のため行えず、更年期対策として女性ホルモンに影響を与えない
体質は年齢によって変化しますから、効いていたものが効かなくなったり、副作用が出たりすることもありますが、そのつど漢方専門医に相談すれば自分に合うものを処方してもらえます。私が毎日快調でいられるのは漢方薬のおかげなのです」
つらいのに対策がない!不調をおざなりにしないで
増田さんはがん患者さんの悩みを聞いて、愕然としたことがあると言います。その内容は、いわゆる不定愁訴と呼ばれる不調で苦しみ、医師にも取り合ってもらえないというものでした。
・抗がん薬、ホルモン薬の治療が終わりました。でも以前の自分にどうしても戻れません。倦怠感、疲労、記憶力の低下……。いつまで続くのでしょうか。医師は理解してくれません。治療が終われば治療前の自分に戻り、仕事も同様にできると思っていたのに。薬は病気を治すためとはいえ、失うものが大きい(50代女性)
・ホルモン療法の治療中です。口が渇くので、『これはホルモン薬の副作用ですか』と医師に訪ねたら、『そんな副作用は聞いたことがありません。気のせいですよ』と言われました。では、この症状はなんなのでしょう?治らないのかと思うと、不安でいっぱいです(40代女性)
・治療は終了し、半年に1回の検査だけになりました。閉経後、更年期症状(落ち込み、気力低下、疲労)に困っています。漢方薬について医師に聞くと『ただの更年期でしょ。漢方薬は気休めですよ』と言われ、なすすべもありません(50代女性)
「今のがん治療は、小さな不調に悩む人への対策をおざなりにしている」と増田さんは言います。
「私は不定愁訴という言葉が嫌いです。つらい症状なのに不定愁訴といって片づけて欲しくありません。たとえば『疲れやすい』と伝えても、医師は『そうですか』で終わり。でも疲れやすいのは、実はとてもつらいことなのです。せめて不調に共感して、対策を一緒に考えてほしい。漢方薬はその選択肢の1つとなるはずです。医師がなんの対策も示さなければ、患者の不安はつのるばかりです」
がん治療現場の医師や薬剤師にも漢方薬の重要性を知ってほしい
2013年、増田さんは漢方医療についての正しい情報を広く提供し、楽しく充実した人生のために役立ててもらいたいという思いから、NPO法人みんなの漢方を設立。専門家を招いて話を聞いたり、情報交換ができるイベントを主催したり、Webサイトで漢方薬についての投稿や不調と漢方治療の解説などを展開しています。
「がん患者さんからは、『漢方薬を使ってみたいけれど、どこへ行けばいいの?』という質問がいちばん多いですね。日常診療で漢方薬を使う医師は8割以上というデータがありますが、がんの治療中に不調を訴えたとき、漢方薬をすぐに処方してくれる医師はそれほど多くありません。Webサイトでは漢方専門医のリストをリンクしています。NPOとして、今後はがん治療に理解のある漢方専門医を患者視点で紹介することが急務ではないかと考えています」
また、がん患者さんがもっと漢方薬を利用できるようになるために、「がん治療の医師やがん専門薬剤師さんには、漢方薬について今以上に勉強して欲しい」と増田さん。
「漢方薬は1剤に複数の有効成分が含まれ、複合的に作用するので、西洋薬のように成分を特定してエビデンスを出すのは難しいのですが、最近は臨床試験などが実施され、エビデンスの得られるものが増えてきました。たとえば、食欲不振に
今、漢方薬の研究をされている国立がん研究センター研究所の上園保仁先生が、全国各地をまわってがん治療の医師向けの漢方キャラバンを行っています。このような機会に、漢方薬に関心のある医師が増えていって欲しいですね」
「漢方薬を使いたい」という声を大きくしましょう
漢方薬を使ってみたいけれど、主治医に「漢方薬は出せない」と言われたら、どうすればいいのでしょう。
「『漢方のドクターに相談してみてもいいですか』と聞いてみてください。一度否定されたからといって引き下がらずに、何度か聞いてみることも大切です。患者一人ひとりの小さな声も、たくさんの人が発言すれば大きくなります。
漢方薬は、がん患者さんの精神的なストレスにも効果がありますし、乳がんの患者さんで治療による副作用に悩まされている方は、漢方薬で症状が緩和されれば、途中で治療をやめたいと思うこともなくなるはずです。西洋薬と漢方薬のそれぞれの利点を上手に生かしていきたいですね。そのためにも、患者である私たちが声をあげていきましょう」
漢方医療について語り合い、正しい情報をシェアしていく
――NPO法人みんなの漢方®――
●おもな目的
・一般生活者(漢方治療を受けている患者だけでなく、今後受ける可能性がある人すべて。子どもから高齢者までの男女を含む)同士の漢方医療の正しい知識の啓発、共有と情報交換
・関連する病気や症状についての知識の啓発、共有と情報交換
・患者と医師の意見や知識、情報の橋渡し役を行う
●おもな活動
①Web(www.mkampo.net)での漢方医療への知識啓発と情報交換
②「ヒアリング&リサーチ会」少人数の情報交換会の開催
③漢方医療に携わる医師を講師に召喚しイベントやセミナーの開催
④漢方医療を受ける一般生活者へのアンケート調査、医療機関アンケート調査の実施
⑤その他、関連する「不調、病気の啓発」、漢方的な「健康啓発」