がん闘病体験が大切なキャリアになる社会をめざしたい

ウィッグをつないで がん患者が前向きになれる社会に

取材・文●小沢明子
発行:2014年10月
更新:2015年1月

  

「私はがん体験があるわけではありませんが、だからこそ患者さんが言いにくいことを伝えられるという強みがあります。NPOとして、患者さん同士、患者さんと医療者をつないでいく活動をしたいと思っています」NPO法人ウィッグリング・ジャパン代表理事の上田あい子さん

抗がん薬の副作用によって起こる脱毛は、目に見えてわかるだけに患者さんにとってつらいもの。しかし治療費だけで精一杯なのに、高価な医療用ウィッグまで購入するのは無理と、あきらめる患者さんもいます。がん体験者と患者さんをウィッグでつなぐ活動をしているウィッグリング・ジャパン代表理事の上田さんは「がん患者さんの負担が軽くなる活動をしながら、がん体験がプラスになる社会をめざしたい」と語ります。

NPO法人 ウィッグリング・ジャパン

NPO法人 ウィッグリング・ジャパン事務局
〒810-0001 福岡県福岡市中央区天神2丁目2-13 サンベアービル3F
TEL:092-725-6623 FAX:092-725-6643
ホームページ:www.wig-ring.info
メール:japan@wig-ring.info

ウィッグは元患者さんから患者さんへの「勇気のバトン」

国立がん研究センターがん対策情報センター「がん情報サービス」参照

抗がん薬の副作用の1つに脱毛があります。治療のためとはいえ、髪を失うことによる精神的なダメージは計り知れません。そこで活用したいのがウィッグですが、医療用のウィッグは高額のものが多いため、かなりの経済的な負担となってしまいます。

福岡県福岡市にあるNPO法人ウィッグリング・ジャパンは、がん治療を終えた方から不要になったウィッグを提供してもらい、それを闘病中の女性へ無償で約1年間貸し出す活動をしています。

そもそもこの活動の始まりは、代表理事の上田あい子さんが、乳がんになった幼なじみのために、抗がん薬治療を受けた友人からウィッグを借り受けたことがきっかけでした。

「彼女は乳がんになり、仕事も中断せざるを得なくなってとても落ち込んでいました。少しでも前向きになってほしいと思い、抗がん薬治療を乗り越えた友人からウィッグを借りて、『がんばって』という友人のメッセージとともに渡したのです。あとから彼女が『当時は不安でいっぱいだったけれど、ウィッグを手にしたとき、自分だけが苦しいんじゃないんだと思ったら、力がわいてきた』と話すのを聞いて、もっと多くの患者さんたちにウィッグを渡して、元気づけてあげたいと思いました」

2010年、がん闘病体験のあるスタッフ2人とともに、本格的なウィッグのレンタル活動をスタート。4年たった今、集まったウィッグの数は700を超え、利用者は500人を超えました。

提供者からは「がん治療を終えた母が使用していたウィッグをお送りします。ウィッグを着用したときの母の笑顔は最高でした。多くの方に笑顔が戻りますように」などの励ましのメッセージが。

利用者からは「子どもの入園式や旅行など、たくさん外出することができました。ありがとうございます」「今まで髪を染めたことがなかったけれど、明るい色のウィッグをつけたら生まれ変わったようでうれしかったです」など、感謝と感動の声が多数寄せられています。

フィッティングに訪れた患者さん。がん体験者のスタッフの親身な対応にがん患者さんも思わず笑顔がこぼれる。右は提供を受けたウィッグ

若い患者さんへ交流の場を提供

この活動を通して、上田さんはどんなことを感じたのでしょうか。

「フィッティングのとき、ウィッグをつけると、みなさん本当に素敵な笑顔になります。でも、それ以上に患者さんが喜んでくれるのは、がん治療体験者のスタッフによる親身な対応です。治療のこと、薬の副作用のことなど、患者さんはいろいろな不安を抱えています。体験者だからこそ心のこもったアドバイスができるし、悩みにも共感してあげられる。体験者の力が患者さんの支えになることを日々感じています」

なかには、家族や友人に話せないことを話してくれる方もいるそうです。

ウィッグリング・ジャパンでは、がん患者さんが情報交換できる交流サロンも企画しています。このサロンの目的の1つは、20代、30代の方に参加してもらうこと。患者会は40代以降の方が多く、若い患者さんは敬遠してしまいがちだからです。

「20代、30代でがんになった患者さんのなかには、結婚をやめようと考えていた方や、すべてを失ったように思いつめていた方もいました。若い世代の患者さんが1人で問題を抱え込まないよう、同じ世代の患者同士が出会い、情報を交換する場を提供したいと思います」

セミナーをカフェで開催し、医師と患者の垣根を低く

「カフェで学ぼう」のセミナーの様子

また上田さんは、医師と患者さんのコミュニケーション不足も感じると言います。

「診察時間が限られている患者さんは、副作用のつらさなど医師に聞いてもらいたいことがあっても、遠慮して伝えられません。患者さんの不安がなくならなければ、医師が励ますつもりで『大丈夫ですよ』といっても、『軽々しく大丈夫なんて言わないで』と反発したくなるものです。

医師にとって患者さんは大勢のなかの1人ですが、患者さんにとって主治医は1人です。言葉が足りないために、傷ついている患者さんがたくさんいることを知ってほしいですね」

ウィッグリング・ジャパンのセミナーはカフェで開催し、お茶を飲みながら患者さんやその家族が病気について学びます。病院とは違い、医師と患者さんの垣根が低いので、「医師の側もセミナーを通して、患者さんとのコミュニケーションのとり方を勉強してほしい」と考えているそうです。

病気を「キャリア」にできる社会をめざして

上田さんは「がん患者さんが若年化していることを目の当たりにしている」と言います。

「がんの予防や早期発見のため、若い人の教育に力を入れる必要があると思います。早期発見であれば、命を脅かすことはないのに、乳がんや子宮頸がんなどの検診率は高くありません。婦人科を受診することさえ、若い人は躊躇してしまう。この状況を何とかして変えていきたいと考えています。若くて健康なうちは、なかなか病気に目を向けないもの。ですから、まず冷え性や生理不順など身近な体のトラブルから関心を持ってほしい。自分の体は自分で守るという意識が持てれば、検診率はもっと高くなるはずです。

がんになっても、明るい気持ちでいてほしいというのは難しいことかもしれません。でも、がん患者さんが闘病体験を引け目に感じてしまうのはつらい。出産や育児の体験がその人のキャリアになるのと同様に、がん体験もキャリアになるような社会をめざして、今後もいろいろな方向から手助けをしていきたいと思います」

がん治療を終えた患者さんのウィッグを患者さんへ提供
――NPO法人ウィッグリング・ジャパン――

●ウィッグのレンタル方法

▼STEP1
会員制のため、まず賛助会員の登録(入会金2,500円、年会費3,000円、計5,500円)が必要。ホームページから登録用紙をダウンロード。もしくは事務局へ電話かメール(info@8pch.com)で登録用紙を取り寄せる

▼STEP2
登録用紙の確認事項を必ず読み、必要事項を記入の上、医療機関の欄に医師のサインをもらう

▼STEP3
登録用紙をファクスかメール、もしくは郵送で事務局へ返送する

▼STEP4
登録用紙の確認後、サロンでの試着フィッテングの日程を予約。遠方の場合、希望を伝えればウィッグの郵送も可能(詳細は事務局に確認を)

レンタル期間は1年間(期間中に1回のみ手数料540円でウィッグの交換が可能)。不明な点は事務局にお問い合わせください。ウィッグの提供についても事務局へ。

●カフェセミナー&イベント

女優で子宮がん体験者の原千晶さんと上田さんのトークショーを11月22日(土)に福岡市中央区天神、博多大丸天神店バサージュ広場で開催。がん患者の交流サロン、定期的なセミナーなども行っているので、詳しくはホームページをご覧ください。

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