- ホーム >
- 患者・団体 >
- 患者会リレーインタビュー
社団法人日本オストミー協会 会長/稲垣豪三
内向きの活動ではなく外に向けて発信する患者会の活動を!!
いながき こうぞう
平成3年、運輸会社の駐在員としてシンガポールに滞在中に直腸がんを発症。手術を受けオストメイトとなる。退職したのち、自身が体験したオストメイトを取り巻く環境の改善を求め、協会に入会。東京支部長を経て現在オストミー協会会長を務める。
たわら もえこ
大阪外国語大学卒。サンケイ新聞記者を経て1965年より評論家・エッセイストとして活躍。95年より群馬県赤城山麓の「俵萠子美術館」館長。96年乳がんで右乳房切除。01年11月、「1・2の3で温泉に入る会」発足。
オストメイト専用トイレの設置を呼びかける
俵 今トイレ運動に一番力を入れていらっしゃるんですよね。
稲垣 そうです。習志野の女性会員がきっかけで、これまでの患者会の歴史が一変しました。彼女は自分がオストメイトであることを公表して『外出時に使えるトイレが欲しい!』と訴えたんです。この病気の難儀な点は手術後の生活の不便さにあるんですね。中でもトイレの問題はもっとも重要な部分なのに、今まで誰も声をあげなかった。その結果、生活が制限され苦しんできました。根底には“他人に知られたくない”という強い思いがあるんですよ。
俵 そうでしょうね。乳がんも同じです。一番最初に声をあげた彼女は立派ですね。お話を伺って、ぜひお会いしたいと思いました。
稲垣 すばらしい方ですよ。それまでの会は慰め合い、助け合いが主で内向きの活動だったんですね。でもそれだけでは現実の不便さは解消しないんです。
“そのための運動をするには自分の病気を公表しなければならない。でもそれはしたくない”という葛藤がありました。病気は自分が選んだわけでもないし、恥ずかしいものでもないのに。
俵 よく分かります。
稲垣 それが一人の女性の勇気で、多くの患者にとって念願だった専用トイレの設置を実現することができたんです。彼女の勇気ある行動に日本身体障害者団体連合会も援護の手を挙げてくれて国会で取り上げられ、交通バリアフリー法の中に取り入れられたんです。ただそこから実際に公共施設へのトイレ設置には時間がかかりましたけどね。
俵 それはいつ頃のことですか?
稲垣 習志野市役所に第1号が設置されたのが5年前です。今では役所やJRの駅などの公共施設、デパートなど1500カ所程に設置されています。
俵 そのトイレは一般のものと外見上で区別がつきますか?
稲垣 入り口の標示に人形のお腹に十字マークがついています。
俵 ああ、そうですか。今まで気がつきませんでした。
稲垣 それからはできるだけ多くの“トイレ設置”が会の目標になりました。
俵 すばらしいことですね。ただ気になるのは、この会報誌には“社会復帰のための会”と書いてありますが、いくら駅にトイレができても会社にはないですね。トイレの問題は復帰を妨げる大きな要因ではありませんか。
稲垣 私自身の経験で言えば致命的な困難ではありません。現に有名人でも、元気に活躍されている方が大勢います。つまり“復帰しよう!”という気持ちがあればできるんですよ。慣れるまでにずいぶん戸惑いと失敗と時間がかかりますが。
私の場合はシンガポールに単身赴任していましたから相談する相手もなく、きつかったですね。結局1年で断念して日本に戻ってきました。
俵 単身での海外駐在はそれだけでも孤独ですからね。
稲垣 そうなんです。それで帰ってきたら仲間がたくさんいて、いろいろな面で元気づけられました。一人で悩んでいてはいけないんですよね。仲間や家族とのふれあいの大切さを痛感しました。『な~んだ、もっと早く帰ってくれば良かった』って。
俵 一人で悩んでいても苦しみは増すばかり。やはり分かち合う仲間が必要なんですね。それは、患者会の重要な役割でもあります。
稲垣 そのとおりですね。
オストメイトってなんだろう?
俵 基本的な質問なんですが、『オストメイトって何だろう』と、知らない方が多いのではないですか? 私自身、今回いろいろと勉強をして知らない言葉がたくさんあるのに驚きました。
稲垣 人工肛門、人工膀胱をオストミーと言い、それらの保有者をオストメイトと呼んでいます。
俵 患者数はどのくらいですか?
稲垣 30万人近くです。
俵 そんなにたくさんの患者さんがいながらオストメイトを知っている人は殆どいないんじゃない? それとストーマですか。
稲垣 ストーマは一言で言えば“穴”のことですが、医学的には“腹部に造設された排泄口”のことです。
俵 それらの言葉が一般の人には全く分からないと思う。もっと分かりやすい言葉はないのかしら。
稲垣 いろいろ議論した結果、オストメイトに決まりました。人工肛門、人工膀胱だと、人工に作った肛門、膀胱があると誤解されやすいんです。現に『人工肛門はどこへ行けば買えますか』なんて電話もあるんですよ。それに人工膀胱って難しくって書けないじゃないですか。
俵 たしかに難しいですね。
稲垣 そして、“オストメイト・オストミー”は英語ですから、世界中で通用します。それを世間に知ってもらうようにしたいんです。そのためにも以前のような内向きの活動ではいけないと思っています。
ストーマを貼り付ける接着剤の問題
俵 ストーマ装具を貼りつける接着剤について伺いたいと思います。乳がんの場合でも、とても巧妙できれいな人工乳房ができているんですけど接着剤にかぶれる人がいる。ストーマの場合、かぶれの問題はありませんか?
稲垣 昔はひどかったのですが、研究が重ねられて今はほとんどかぶれがないものが登場し、いろいろなタイプから選べるようになりました。この人はこれが良い、この人にはこれというように。
俵 やはり、個人差もありますね。
稲垣 そうなんです。ですから何種類も試して自分にジャストフィットするのを探します。
俵 乳がんの場合は人工乳房を付けるでしょ。それで温泉に入ると、体温が上がって体が赤くなってくるのに、片方の乳房だけが白いという、悩みがあったんです。最近になってお風呂に入ると赤くなる乳房というのが開発されたと聞き、私自身試してみたいと思うのだけど、接着剤の問題があって躊躇してしまいます。でも改善されてきているんですね。朗報です。
同じカテゴリーの最新記事
- 日本骨髄腫患者の会 代表/堀之内みどり 最新の情報と会員の絆を武器に難病に立ち向かう
- ウィメンズ・キャンサー・サポート 代表/馬庭恭子 婦人科がん。その微妙な心のひだを分かち合う場として
- NPO法人生と死を考える会 副理事長/杉本脩子 悲嘆の先に見えてくるもの
- 支えあう会「α」 代表/土橋律子、副代表/五十嵐昭子 がん体験から命を見つめ、自分らしく生きる
- NPO法人血液患者コミュニティ ももの木 副理事長/大橋晃太 入院患者の生活の場に人間的な温かみを
- 社団法人銀鈴会 会長/久永進 不可能を可能に持っていく努力
- リンパの会 代表/金井弘子 がん治療の後遺症「リンパ浮腫」を知る
- 内田絵子と女性の医療を考える会 代表/内田絵子 乳がんになって教えられたこと、出会ったこと 多くのことを人生の勲章に
- 財団法人財団法人がんの子供を守る会 会長/垣水孝一、ソーシャルワーカー/近藤博子 がんと闘う子供を育み、サポートする社会環境を目指して