ウィメンズ・キャンサー・サポート 代表/馬庭恭子
婦人科がん。その微妙な心のひだを分かち合う場として

撮影:田浦薫
発行:2005年5月
更新:2014年4月

  

馬庭恭子

まにわ きょうこ
広島県生まれ。広島大学文学部卒業。86年山口県立衛生看護学院卒業。96年聖路加国際看護大学大学院看護研究科博士課程前期終了。97年日本看護協会専門看護師に認定。86~94年広島総合病院山科病棟健康管理課にて訪問看護従事。96~02年広島YMCA訪問看護ステーション・ピース所長。05年現在広島市議会議員。広島YMCA訪問看護ステーション・ピース教育担当。

俵  萠子

たわら もえこ
大阪外国語大学卒。サンケイ新聞記者を経て1965年より評論家・エッセイストとして活躍。95年より群馬県赤城山麓の「俵萠子美術館」館長。96年乳がんで右乳房切除。01年11月、「1・2の3で温泉に入る会」発足。



 あなたが書かれた『ナースがんばるふんばるはしる(学研)』を読ませて頂きました。大変活字が大きく、お年寄りが読むのに読みやすいようになっているし、非常に面白かったです。この本はいつ出版されたんですか?

馬庭 1年前です。中国新聞に連載していたものをまとめました。2000年に卵巣がんを発病したんですけれども、「入院中は連載してはいけない、治療に専念しろ」と主治医に言われ、退院してから執筆を始めました。それを読んだ学研の方から「このエッセイはすごく面白い、元気がでるから本にまとめませんか?」と言って頂き、文庫本にまとめました。

 退院してからというとお母さまの介護をなさっていたときですね。

馬庭 そうです。私の退院前日に母が入院したんですが、担当の先生からは「もっても半年だよ」と言われ、母も家に帰りたいと言うので在宅での介護が始まったんです。

 大変でしたでしょう。私も同じような体験をしました。母が脊椎カリエスで寝たきりになったんです。時を同じくして私が乳がんになりました。当時85歳で病気の母に、娘の私が乳がんで手術をするということをどうしても言えませんでした。あなたの場合はどうでしたか?

馬庭 私の場合は初めの手術のとき、良性だということでお腹を開けたんです。ところがどうも悪性らしいと。でも悪性の場合の処置の準備も何もしていなかったんです。だから片方の卵巣だけとってお腹を閉じたんですね。

その後抗がん剤治療を受けたんですが、残った卵巣と子宮とリンパ節をとらなければいけないことになり、2度目の手術をしました。ですから母には正直に話しました。でないと辻褄が合わなくなりますから。

 それにしても高齢化がすすんで、親も子も病気になってしまうケースが増えましたね。老老介護どころか老老病気ですよ。

卵巣がん手術直後にサラシをまいて母の介護

 あなたが退院後、お母さまの介護をしていらしたとき、身体にはドレーンが付いたままだったと読んで驚きました。どのくらいの期間付けていたんですか?

馬庭 母の介護をしていた3カ月は付けていました。自分で消毒していたんです。それでお腹にサラシを巻いて母を起こそうとするんですが手術後はお腹に力が入らないんです。それに抗がん剤の副作用で末梢神経障害が起こり、手も足も痺れていましたから。

 痺れは今は良くなったんですか?

馬庭 段々良くなってきているんですけれども、足のしびれは今でもあります。ですからちょっとした物でも手に力が入らずポトっと落とすことがたまにありますね。

 しかし、3カ月もドレーンを付けて自分で消毒をして、お母さまの介護をしてというのは驚きますね。

馬庭 私がナースだったので、できたことだと思います。普通の方でしたら多分医者も帰さなかったと思いますよ。母の様子を聞いて早く退院したかったので、「自分で管理しますからもう帰ります」と言って帰ったんです。

そして、歯医者である兄夫婦と私と3人でシフトを組んでの介護が始まったんです。

 あなたのお兄さんがお母さまのオムツを替えていたと読んで、どういう方だろうと、興味を持ちましたよ。

馬庭 そうですか(笑)?

 日本の男性はオムツを替えるのは女の仕事だと思っている人がほとんどでしょう。

馬庭 私も最初は、兄が母のオムツを替えるときに目を反らすとか「恥ずかしいからそんなことようせん」って言うかと思ったんです。ところが嫌がるどころかとても丁寧にやっていたんです。それを見て“やはり歯医者という人間の身体に関わる仕事だからあまり抵抗はなかったのかな”と思いました。

 日本の男性にしては極めて珍しいと思いますよ。あなたの本の中でとても印象に残った出来事でした。

様々な経験の情報交換の場としての患者会

 さあ、本題に入りましょう。そんな中で、あなたが患者会を立ち上げるきっかけになったのは何ですか?

馬庭 2001年に舅が亡くなり、私が卵巣がんで入院し、退院後は母が9月に亡くなって、さらに12月に義兄が亡くなったんです、57才で。

 まあ、1年で3回お葬式をなさった。大変な年でしたね。ご自分の身体の調子もまだ回復してなかったでしょうに。

馬庭 そうですね。母を看取った後もまだ手足のしびれがあったんですけど、私は当時訪問看護ステーションの所長をしていましたから、職場に戻って仕事をしていました。ただリンパ節郭清をしているので、リンパの流れが悪くて正座ができないんです。力も入らないし、訪問看護の仕事に限界を感じていて“じゃあ自分に残された力を有効に使うにはどうしたらいいんだろう”と考え、患者会活動に参加しようとインターネットで検索していたんです。ところが、乳がんの患者会は日本各地に沢山あるけれど、婦人科がんは東京の「あいあい」しか見つからなかった。それならば私が作ろうと「患者会しまーす」って呼びかけて。

 婦人科がんは、まだまだ内緒にしている人が多いですからね。

馬庭 それで公立の女性センターのお部屋を借りて、とりあえず電話相談から始めたんです。そうしたら口コミで広がって、今会員が60人くらいいます。

 そのときに知り合いの女医さんが2年分の家賃をカンパしてくれたんですよね。

馬庭 そうなんです。私が連載していた『ナースがんつれづれ』のコラムをずっと読んでくれていて「1年間自分も励まされたので、ぜひ頑張って」と、カンパしてくださったんです。

 それまで全く知らない方だったんですか?

馬庭 深い付き合いというわけではありませんでしたが、いつもご親切にしてくれた方です。『ナースがんつれづれ』の最終回に“仲間作りをしたい”ということを書いたんです。だからいつか患者会を作ってくれるに違いないって皆思っていてくれたみたいです。

 電話相談はどのくらいの頻度でなさっているのですか?

馬庭 第2第4土曜日の午後1時から4時までです。

 会員でなくても相談にのっていただける?

馬庭 もちろんです。遠方の方から本で見たんですが、と電話があることがありますよ。

 どなたが対応されているんですか?

馬庭 当事者や看護職の者です。やはり専門的な知識を要する場合がありますから。

 その他にはどんな活動をされているのでしょう。

馬庭 2カ月に1回定例会を開いています。また、3カ月に1回程度お勉強会をして、大学の先生やお医者さん、栄養士さん、心理療法士の方などにお話をしてもらっています。シンポジウムにも積極的に参加しています。この間はクリスマス会をしてどんぐりでリースを作ったり、松ぼっくりでクリスマスツリーを作ったりしました。

 なんだか楽しそうですね。

馬庭 こうした活動はアートセラピーの一環になると思います。皆で協力しあって何かを作る。それが結果として精神を落ち着かせるんです。

 それは同感です。私は焼き物を始めてから群馬県の赤城山に美術館を作りました。そこで陶芸教室をはじめたんですが、よく患者さんから「俵さんの工房でお皿を作らせてください」と言われるんです。最初は単に物珍しさだけかと思っていたんですけど、そういう方が後を絶たない。粘土をこねていると頭が無になる、無心になるんですよ。それで心が癒されるんじゃないかと思うようになりました。

馬庭 自分のオリジナリティにも気づきますよね。それは自分でなくってはできないものじゃないですか。そこに喜びが生まれる。

 そうですね。だからあなたのその活動も、立派なアートセラピーなんだと思いますよ。

馬庭 そんなことをしながらお茶を飲んでお勉強会をして、皆の近況を言いあって、最後にケーキを食べたりお饅頭を食べたりして終わるんです。婦人科のがんってやっぱり微妙で、元気な友達には話せないって言うんですね。自分しか経験してないことじゃないですか。話した後で「命があってよかったじゃない」って一言でくくられてしまうと、“やっぱり体験者でないとわからない”と、距離を置いてしまい、うまく日常生活のコミニュニケーションがとれない患者さんも多いんです。

 その点、同じ病気を経験した者同士だと、説明しなくても“あうん”の呼吸で苦しみや悲しみや戸惑いが共有できますね。

馬庭 その部分が大きいです。経験していない人に微妙な心のひだを分かってもらおうとしても難しい。だからこういう会が必要だと思ったんです。それに患者さんの数だけ経験した内容が違いますよね。入院生活、家庭生活、つらいこと、苦しいこと、楽しいこと、悲しいこと…。そうしたいろいろな経験の情報交換にすごく良い場所になるんです。

 そういう生の声を共有することは患者にとって大事なことですね。患者会の大きな役割の1つだと思います。


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