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内田絵子と女性の医療を考える会 代表/内田絵子
乳がんになって教えられたこと、出会ったこと 多くのことを人生の勲章に
うちだ えいこ
1993年、乳がんを発症しシンガポールにて非定型切除、再建術を受ける。帰国後、講演活動、ボランティア活動などを行う。著書に『メイド・イン・シンガポールのおっぱい』(子供の未来を考える出版社)、『おっぱいが二つほしい』(株式会社北水)。
たわら もえこ
大阪外国語大学卒。サンケイ新聞記者を経て1965年より評論家・エッセイストとして活躍。95年より群馬県赤城山麓の「俵萠子美術館」館長。96年乳がんで右乳房切除。01年11月、「1・2の3で温泉に入る会」発足。
俵 ほぼ毎月会報を出しているんですね。
内田 はい。お喋り会も月に3回やっています。全員を対象とした会と10代、20代、30代の若い方の会と。年齢がいってからがんになった方と、若くて結婚もしないうちになった方とでは、やはり悩みや苦しみの視点が違いますから。
俵 10代でも乳がんになる方がいるの?
内田 10代、20代の若年の乳がんが増えています。非情ですよね。乳房は女という性の証であり、いのちを育てる源でもあるのですから、それを失った悲しみを思うと言葉に詰まります。
そういう方に、私は自分のおっぱいを触ってもらいます。『温かいでしょう、柔らかいでしょう、生きているでしょう。自分のおっぱいを失ったのは悲しいけれど、このように再建できるのよ。だからいつかつけましょうね』って。でも、『焦らないでいい先生を探そう』とも言っているんです。二期再建は、手術の炎症が治まるまでに最低で6カ月以上、2年ぐらい時間を置いたほうが理想的ですから。
インプラントか自己組織か
俵 自分の組織を取ればまた傷が増えるわけだから、インプラントにしたらどうなんでしょう。
内田 筋皮弁法かインプラント法か、どちらがよいかよく考えて本人が決めることが大事です。それぞれ一長一短がありますし、自分の組織を使うと、新たに傷を付けるだけでなく、ツギを当てたような外観になります。
俵 あなたはどちらを選んだのですか?
内田 私は自己組織を使った腹直筋皮弁法です。94年の11月にシンガポールで手術しました。当時は乳がんの情報も少なく、ましてや乳房再建なんて私自身思いもよらなかったんです。乳房摘出術をすると聞いた後、あまりに私が嘆き悲しむので医者が『乳房再建という方法もあるんだから』と何気なく慰めてくれたのを聞き逃さなかったんです。
ただ、再建しようと傷跡を残して生きていこうと、それぞれ素晴らしい生き方だと思います。私が伝えたいのは“失うだけ”ではなく“再建して取り戻す”という選択肢もあるということなんです。
俵 “温かいおっぱい、柔らかいおっぱい”を作るには自分の組織を使わないとダメですか。
内田 インプラント法だとインプラントが締め付けられ、硬い乳房―被膜拘縮になる頻度が高いですね。ケースバイケースですけれども。
俵 インプラントは温かくない?
内田 あえて言えば人肌というよりは少し違和感がある感じがしますね。
俵 そうすると“触って温かい、柔らかい自然なおっぱい”になるためには自分の組織を使ったほうがいいということですか?
内田 一概には言えないですけどね。インプラント法は新たな傷を作らないことや、入院日数が少なくてすむなど、現実的なメリットもありますから、ご自分の状況に合わせて納得して選べばいいと思います。個人の事情や先生との相性もありますし。
どちらにしても、結局は本人の問題です。会で温泉に行ったりすると新しく再建した人たちが、まるで新しい洋服を見せるかのように『見て、見て』って皆さんにお披露目するんですよ。インプラントであれ自己組織であれ、『おっぱいを取り戻してよかった、嬉しい!!』と思えることが大事です。
俵 インプラントの中に詰めるものは生理食塩水のようなもの?
内田 ええ、生理食塩水や、ゼリー状のシリコンジェルやハイドロジェルです。
俵 私はスライドなどで何度も再建した乳房を見たんですけれど、それでは感触がまったく分からない。あなたの会に入って触らせてもらおうかしら。
内田 それは本当に大事なことですよ。“百聞は一見にしかず”そして“百見は一触にしかず”です。実際にいろいろ触ってみて自分で選ぶ。誰かにとっていいおっぱいでもそれが自分にもあてはまるかと言えばそうではないですから。
俵 なるほどね。あなたの夫は再建には好意的だったんですか?
内田 最初は、『僕がそれでいいって言ってるんだから』と反対しましたが、『おっぱいの所有者は私。私がおっぱいが二つ欲しいの!』と言いましたら『君がそこまで言うなら』と賛成してくれました。
俵 ちなみに、お金は誰が出したの?
内田 夫です(笑)。これはちょっと情けない。私は会員の人には『自分で稼いで自分でつけたら人生広がるわよ』って言ってるのに。
俵 その点私は夫がいないから遠慮なくつけられる。選択の自由ね(笑)。
同時再建のメリット、デメリット
俵 私が手術したときは『同時再建もできますけど』とは言っても、決して積極的には勧めなかった。『あとでもできますから』と。こちらとしても再建よりも命が助かりたい一心ですから。落ち着いてくると乳房はちゃんと二つ欲しいと思うけれども、改めて手術となると考えてしまう。あなたは同時再建ですか。
内田 いいえ、10カ月後にしました。ドクターには『もっと後にすれば』と言われたんですけど、家庭の事情でシンガポールにいる間に決着をつけてしまおうと急ぎました。
俵 どちらがいいのかしら。
内田 同時再建にもメリットとデメリットがあるんですね。メリットは手術の後、目が覚めたら新しいおっぱいがついているわけですから喪失感が絶対的に少ない。デメリットはやはり「再発」です。
また、お医者さんに言い負かされると言ったらおかしいですが、『おっぱいを失ったら悲しいですよ。でも今、手術時間を3時間延ばせば新しいおっぱいをつけられますよ、お金もこれだけですよ』と、あたかもそれが一つのコースのように言われて『じゃお願いします』って安易に決めてしまうケースがあるんです。そうするとそれが自分の希望のおっぱいかどうか分からない。そういうこともあります。
俵 しかし実際にがんに罹った人は、そこまで頭が回らないですよ。
内田 それが現状です。でも、喪失感を経験することによって見えてくるものもあると思うんです。再発の不安、金銭的、時間的、その他諸々の事情から考えて、今乳房再建が必要かどうか。その考える過程がある意味で大事なんじゃないかと思います。
俵 そうですね。あと、再発をしたらまた取らなくてはいけないということもあるでしょう。
内田 一度つくったものを再び失うというのはさらに悲しいことですね。ですから乳房再建自体が決して甘いものではないんです。ただ私はやってよかった。だからすごく迷っている人がいて、『やりたいんだけど』と言われたら、背中を押してあげたり、ドクターを紹介してご自身で決定してもらうようにしています。
乳輪と乳首の再建
俵 私が手術を受けた8年半ほど前は、乳首をつけるときにそけい部の皮膚を使うと聞きましたが、最近は染めるんですか。
内田 入れ墨です。色も好きな色を選べますし。最初は血流が回っていないので、ちょっとチョコレートのような色なんですけど、だんだん血流が回ってきてきれいな色になってきますね。
俵 入れ墨だとだんだん色が薄くなってきますね。
内田 そうですね。最初は濃い目にしますが、薄くなってくればまた色を付けたりします。それこそ萠子さんのように絵付けするようなもので……。
俵 自分で入れましょうか、もうちょっと濃くとか、もうちょっとピンクにとか(笑)。
内田 私はそけい部を丸く切りとって、右側の乳首を半分切って分けたんですけど、そけい部を使っているから陰毛が生えてきたりしますよ。
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