支えあう会「α」 代表/土橋律子、副代表/五十嵐昭子
がん体験から命を見つめ、自分らしく生きる

撮影:板橋雄一
発行:2005年3月
更新:2013年4月

  

<span>土橋律子</span>” /> 	</p> <p class=つちはし のりこ
長野県生まれ。千葉大学医学部附属看護学校卒業、同附属病院にて看護師として勤務。1989~92年に3つのがんに罹患し、闘病生活を送る。94年支え合う会「α」を設立。96年同附属病院を退職。2000年、生命をささえる研究所~for cancer survivors~を設立。現在、同研究所所長。共著に「看護婦ががんになって」(日本評論社)がある。

五十嵐昭子

いがらし あきこ
新潟県生まれ。東北大学医療短期大学部卒業後、社会保険中央総合病院にて検査技師として勤務。友人を大腸がんで亡くしたことをきっかけに、支え合う会「α」の活動に携わる。現在、同会副代表兼α通信編集長を務める。

俵  萠子

たわら もえこ
大阪外国語大学卒。サンケイ新聞記者を経て1965年より評論家・エッセイストとして活躍。95年より群馬県赤城山麓の「俵萠子美術館」館長。96年乳がんで右乳房切除。01年11月、「1・2の3で温泉に入る会」発足。



医療者の姿勢

 支えあう会「α」を立ち上げられたのが看護師の方だと聞いて、ぜひ会ってお話を伺ってみたいと思いました。今まで多くの患者会の方とお会いしましたが、看護師の方が立ち上げた会というのは初めてです。土橋さんが看護師さんでがんを経験されていて、五十嵐さんもがんを体験なさっているのですか?

五十嵐 いえ、私はがんの経験はありません。友達が大腸がんで私が勤める病院で手術を受けたのがきっかけで、「α」の活動に関わるようになったんです。会では副代表を務めていて、主にα通信の編集をしています。

 病院に勤めてらっしゃるんですか?

五十嵐 検査技師です。

 そうですか。すると中心メンバーには医療関係者がおられる。

土橋 そうですね。私は、3年間で4度の入退院を繰り返していたとき、看護する側とされる側の視点にギャップがあることに愕然としました。今まで看護師として良かれと思ってやっていたことが、必ずしも患者にとって良い看護ではなかった。すごく反省し、そのことが今の活動にも生かされていると思います。

 看護師の土橋さんとお会いするので、以前書いた「がんと私の共同生活」の内容を思い出していました。出版した後、私がお世話をして頂いた看護師さんに『俵さんの本を読んだら看護師のことがほとんど出てこないので寂しいと思いました』って言われたんです。そのときに「そう言えば看護師のことは何も書いていないわ」と、やっと気がつきました。

入院しているときは見えなかったんです、看護師の方が。あまりにルーティーンで流れていて、接点がきわめて少ない。それが問題です。何て言うか、人間の顔をしている人が少なかった。まるでロボットのようにやって来て、決まった仕事をして、ロボットのように自動的に去っていく。その状況は私にとってはちっとも快適ではなかった。

土橋 看護の仕事は診療の補助と療養のお世話というのが法律で決められているんですけれど、療養の世話っていうのが、忙しい中でだんだん業務になってしまって、本来の看護という仕事から離れてしまっている気がします。狭い専門性へのこだわりや施設内だけの価値観から脱却し、目の前にいる患者の心の声に耳を傾けて最後まで寄り添っていく姿勢を示して欲しいと思います。

患者の元気の素

五十嵐 私は「α」に関わるようになってから、患者さんへの接し方がずいぶん変わりました。以前は“がん”と聞くとやたらなことはしゃべっちゃいけない、と引いてしまっていたんです。でも今は検査の合間の短い会話ですが、がんの話や治療の話ができるようになりました。私のほうで共感をもって聞くことができるようになったからだと思います。そうすると今まで単に“患者”だった方々がそれぞれ人格をもっていて、たまたまがんになったにすぎない人として接点がもてるようになりました。

 今あなたがおっしゃったことが大切だと思いますよ。患者も人格をもっているし、看護師も人格をもっている。それを認めた上で接点がもてれば、相手を思い遣る言葉や動作が生まれてくるものです。そこから生まれた一言が入院生活を明るくしたり元気の素になったりするんですよ。

五十嵐 そうですね。ただ私はデータを出す仕事ですから“正確で信頼性のおけるデータを早く出す”ということに重きを置いていたことと、患者さんには公平でなければならない、えこひいきをしてはいけない、という気持ちがあって、それがかえって機械的な対応になってしまっていたという側面はあったと思います。

 入院中、1つだけ印象に残っているのは、退院する2日前に看護助手の人が排出液の量を測りにきて『ああ、今日は少なくなった。嬉しいなあ』って言ってくれたことにビックリしたんです。それは私が言う言葉であって看護師が言う言葉ではないと思っていましたから。私を思い遣った心がこもっていて、とても嬉しかった。それだけは本に書きました。

五十嵐 α通信の32号にも載せたんですが、ある会員さんの体験発表で、抗がん剤の点滴をしながら『できるだけ水分をたくさんとりなさい』と言われて、一生懸命お水を飲んでいたら『お小水がずいぶんたくさん出ていますよ。頑張っていますね』って看護師さんが言ってくれた。たったその一言でその日1日ルンルン気分だったという話をしてくれました。

 そうなんですよ。そういう一言は、医者の言葉より嬉しいんです。だからやっぱり看護師の役割って大きいと思うんですけれど、残念ながら今の入院生活の中では、全ての看護師がその役割を果たしているとは思えません。

土橋 そういう患者側からの生の声を伝えたい。病院とは違う場所でテーブルを囲んで、水平な目線でドクター、看護師、看護学生、検査技師、栄養士、患者らが一緒になって講演会や勉強会をして、本音で語り合い、お互いに知り合う。そうやって一歩ずつ歩み寄らないと患者と医療者は、一方通行の関係になってしまうと思ったのが「α」立ち上げのきっかけでした。

退院すると病院のフォローはほとんどなくなります。1人では不安ばかりが先立って何もできない。特に再発、転移すると、医療不信がだんだん強くなって“支えられている”という実感がもてなくなります。そうやって彷徨っている“がん難民”がとても増えています。切り離されている医療者と患者の架け橋になってがん難民を1人でも減らしたいと思っています。

 私も日頃からその溝を埋めることができないかと考えていましたから、あなたの活動には大変興味と期待をもっています。

“命”の根っこで繋がる

 α通信は年に何回発行するのですか?

五十嵐 4回です。会員さんからは、「もっと回数を増やして欲しい」という要望もあって、その期待はとてもうれしいのですが、フルタイムで働きながらですのでとてもこれ以上は無理ですね。

 うちの会は年2回会報を出しているんですが、仕事の合間にやっていますから、本当に大変なんです。4回といったら大変でしょう。企画会議はやるんですか?

五十嵐 世話人会でおおよその内容は確認しています。行事が決まっているので、その報告が多いですね。例えば“男の手料理を味わう会”が終わった後の号には、その参加者から感想を書いてもらったり、あとは講演会や勉強会の内容など、普遍性のあるものはなるべく載せるようにしています。α通信の発行は、「α」の活動に参加できない会員のための活動報告という意味合いもあります。

 編集作業はお1人でなさっているの?

五十嵐 編集はもう1人手伝ってくれる方がいます。テープ起こしやお知らせの記事などは、世話人が分担して手伝ってくれます。

 あなた方の会の世話人はがん体験者ばかり?

土橋 いいえ、個人のがん体験者だけでなく、乳がん体験者ですい臓がんの父親を看取った人とか、悪性リンパ腫の体験を持つ看護師、肝臓がんの母親の看取り体験を持つ元検査技師、またがん体験はないけれど何か手伝いたいという元看護師など、いろいろです。

 従来の患者会とはちょっと異なりますね。医療関係者がたくさんいらっしゃる。たぶんお宅の会が特定のがん患者を対象にしているのではなく、医療者と患者の間の架け橋としての活動をメインにしてるからでしょうね。

ところで、“男の手料理を味わう会”というのはユニークな発想ですね。どのくらい続けていらっしゃるの?

土橋 もう11回目になります。最初は「α」の企画と言うよりは “どんぐりの会”とか“生と死を考える会”とか、いろんな所で命について話し合っていてそれらに関わりや繋がりのある人たちが、長野の自然の中で集まれる企画にしたいと思って始めたんです。

生きていく上で自然や環境は切り離せない存在ですから。生きること、死ぬこと、老いることも全て“命”の根っこで、根っこで繋がりたいという呼びかけに共鳴する仲間たちが毎年たくさんやってきます。そして、医療だけでなく人生観、死生観、悩みなどを互いに話し合っています。患者会がそれぞれの地域で単独で頑張るのも良いけれど、互助会同士のネットワークも大事だと私は思っているものですから皆にも話しています。

 そうですね。患者会にしても各地域でネットを作っていく、例えば千葉県だったらあなたの所と提携してやるとか、お互いにカバーしあってやっていけたらいいですね。

土橋 「α」の勉強会では過去に、乳がん体験者から学ぶことをテーマにソレイユとの合同学習会を行い、ソレイユの方の体験談を話してもらったことがあります。

五十嵐 乳がんの患者会ってたくさんありますよね。かなり深い所まで勉強している会もありますし。単独の部位の会は、深く勉強しやすいという利点がありますね。

 勉強に力を入れている会だとか、あるいはうちみたいに励まし合いに力を入れているとか、いろいろあっていいし、むしろ1人ひとりが患者会を使い分けていけるようになってくるとなおいいですね。

土橋 「α」の仲間にも、いろんながん仲間はいますが、「α」だけではなく、自分と同じがんの会に行ってみるとか、他の講演会など自分の足でいろんな会をのぞいてみたほうがいいと言っています。


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