急性前骨髄球性白血病が再発。移植を考えたほうがいいか?
急性前骨髄球性白血病が再発してしまいました。ダウノマイシン*とキロサイド*を組み合わせた化学療法を継続しています。このまま続けていてよいのか、それとも造血幹細胞移植を考えたほうがよいのか、教えて欲しいです。
(東京都 男性 65歳)
A 同種造血幹細胞移植を直ちに行うことはお勧めできない
急性前骨髄球性白血病の初回治療では、分子標的薬ベサノイド*がよく効きます。
ベサノイドは白血病細胞の分化誘導を促し、細胞死(アポトーシス)を惹起するなどして白血病細胞の増殖を防ぎます。経口剤のため、治療は簡便に行え、ベサノイド単独で、あるいは、アンスラサイクリン(ダウノマイシンやイダマイシン*など)やキロサイドなどの抗がん剤を併用して、ほとんどの患者さんは完全寛解に導入されます。完全寛解した後は寛解後療法に入ります。ここでは、アンスラサイクリン、キロサイド、その他の抗白血病薬を追加します。こうした治療を行うことで、急性前骨髄球性白血病は95パーセント以上という高い確率で長期の完全寛解の維持(治癒に近い状態)が望めます。
ただし、完全寛解に入っても、初診時に白血病の数が多い場合や、血小板の数が少ない患者さんは予後不良と捉えられ、再発リスクが高くなります。再発された場合に、再び行う寛解導入療法をどうするのか? ということが、ご質問の内容と判断致します。
急性前骨髄球性白血病の再発率は、ほかの白血病と比べて低く、この患者さんは比較的まれなケースと考えます。
急性前骨髄球性白血病の再発は、ベサノイドと同様、急性前骨髄性白血病が持っている分子を標的とした亜ヒ酸(トリセノックス*)を投与し、寛解を目指します。ほとんどの患者さんが再び完全寛解を得ることができます。
また、マイロターグ*という抗がん剤(抗白血病薬)もあります。この薬剤は、多くの急性骨髄性白血病の表面に現れるCD33というタンパク質を標的としており、急性前骨髄性白血病の細胞には非常に強く現れます。同剤は再発・難治性急性前骨髄性白血病患者さんに対して単剤で5割を超える再完全寛解率をもたらしますが、肝障害に注意が必要です。
ご質問の移植に関してですが、造血幹細胞移植の方法としては、骨髄移植・末梢血幹細胞移植・臍帯血移植があります。また、自分自身の造血幹細胞を移植する方法を自家移植、他人の造血幹細胞を使う方法を同種移植といいます。
同種移植と自家移植を比較した場合、前者は移植関連副作用が強く発現し、後者は白血病除去効果は期待できません。同種移植の場合は、細菌・真菌・ウイルスなどによる重篤な感染症や、移植した他人の免疫細胞による攻撃で生じるGVHD*(移植片対宿主病)などの重篤な合併症や副作用の克服が必要であるため、移植を受ける患者さんの年齢も考慮しなければなりません。自家移植は、寛解導入療法に続き大量化学療法で白血病細胞を完全に除去できれば、適応になります。
再発した急性前骨髄球性白血病では、亜ヒ酸で再び完全寛解が得られれば、寛解後療法で化学療法を継続するほか、大量化学療法から自家移植という治療法の選択があります。自家移植の適応がなければ、寛解後療法でマイロターグを選択する方法もあるかもしれません。同種移植を直ちに行うことはあまりお勧めできません。亜ヒ酸で寛解が得られない、あるいは、再び再発をした場合には、同種移植を含めた治療法を考慮することになりましょう。
*ダウノマイシン=一般名ダウノルビシン *キロサイド=一般名シタラビン *ベサノイド=レチノイン酸のビタミンA誘導体 *イダマイシン=一般名イダルビシン *トリセノックス=一般名三酸化ヒ素 *マイロターグ=一般名ゲムツズマブオゾガマイシン *GVHD(移植片対宿主病)=造血幹細胞の同種移植などの治療に伴う合併症。ドナーから移植した骨髄に含まれる白血球が、患者さん自身の体を攻撃する免疫反応が起こり、皮膚や肝臓、消化管などにさまざまな症状が出る