抗がん薬治療の合併症、腫瘍崩壊症候群とは?
急性リンパ性白血病(ALL)の息子(4歳7カ月)について質問です。抗がん薬治療の合併症に、腫瘍崩壊症候群があると聞きました。どういったものなのでしょうか?
(新潟県 男性 37歳)
A 治療効果が高いがゆえに、ときに起こりうる合併症
腫瘍崩壊症候群(TLS)とは、治療を行った際に腫瘍細胞が急速に死滅(崩壊)することで発症します。症状には、体内の尿酸が増える、カリウム・カルシウム・リンなどの電解質のバランスが崩れる、血液が酸性になる、腎臓から尿の産生が減少するなどの異常が現れます。
本来、腫瘍細胞を死滅させることががん治療の目的ですが、TLSは抗がん薬や放射線の治療効果が高いときに、むしろ起きうる合併症と言えます。
腫瘍細胞が死滅するとき、核酸やカリウム、リンなどの細胞内容物が血液中に放出されます。分解された核から生じた核酸は、尿酸に分解・代謝され腎臓から尿へと排泄されます。核酸が大量に放出されることで、尿中の尿酸が高濃度になり結晶化します。この結晶が腎臓内に詰まり、腎機能障害を来たします。
すると、体内にたまったカリウムやリンが排出できなくなります。増加したリンはカルシウムと結合してカルシウムを低下させたり、リン酸カルシウムとして結晶化して腎不全の原因にもなります。最終的には、低カルシウム血症または高カリウム血症によって不整脈が生じ、死に至る場合もあります。ALLのほか、急性骨髄性白血病(AML)、悪性リンパ腫の1種のバーキットリンパ腫、神経芽腫などは細胞増殖速度が速く、しばしばTLSが生じます。
TLSは発症するとコントロールが難しいため、未然に防ぐことが大切です。そのため、治療開始前に血液検査や尿検査などでリスク分けをして予測を立てています。
これまでは、痛風治療薬ザイロリック*を抗がん薬治療前から予防的に服用していましたが、数年前に発売されたラスリテック*が、TLSの予防と治療に際して重要な薬剤となっています。
また水分摂取は、尿を薄め、尿酸やリン酸カルシウムの結晶化をしにくくし、腎臓へのダメージを予防するため重要です。
ALLでも白血球が少ない場合はザイロリックを使いますし、逆に、診断時の白血球が著しく多いALLやT細胞性ALL、バーキット白血病、バーキットリンパ腫などは、増殖が速くTLSを来たす危険が高いためラスリテックを用います。
TLSは治療開始後12~72時間以内に起こるとされています。大切なことは、予防法をしっかりと実行していくことです。
*ザイロリック=一般名アロプリノール、核酸から尿酸が作られるのを抑える作用がある *ラスリテック=一般名ラスブリカーゼ、尿酸を分解することで血液中の尿酸を減少させる