慢性腎臓病の持病。食道がんの手術をするうえで問題はないか?

回答者・出江洋介
都立駒込病院食道外科医長
発行:2009年12月
更新:2020年3月

  

最近、病院の検査で食道の下のほうに2センチほどの食道がんが見つかりました。ステージ(病期)2で、手術を勧められています。かなり大きな手術になりそうなので、迷っています。治療法は、手術しかないのでしょうか。また、私は、10数年前に慢性腎臓病と診断されました。腎機能を悪化させないように、腎性高血圧の治療を続けています。人工透析を必要とするほど、腎機能は悪くありません。食道がんの手術をするうえで、問題はないでしょうか。

(福島県 男性 66歳)

腎機能障害が中等度なら、手術をしてもよい

都立駒込病院食道外科医長の
出江洋介さん

下部食道の2センチほどのがんでステージ2とのことなので、食道壁の筋層に達する程度のがんと思われます。このぐらいの病変になると、リンパ節転移の頻度も50パーセント以上あります。頸部・胸部・腹部どの部位にも、リンパ節転移の可能性があります。したがって標準的な手術は右開胸と開腹をして食道を頸部食道だけ残してほぼ全摘し、頸部・胸部・腹部の3領域のリンパ節郭清術を行うことになります。大きな手術で、体にかなりの負担がかかります。

慢性腎疾患のある方は手術に耐えられる腎疾患かどうか、その機能をよく評価する必要があります。

通常、腎機能検査クレアチニンクレアランスで評価します。腎機能障害が中等度なら、手術をしてもよいと思います。標準的な手術ではなく、(1)縦隔鏡を用いた抜去術(2)縦隔鏡による下部食道切除―などの縮小手術を考慮してもよいでしょう。

(1)は開胸しないで腹部と頸部からの操作で縦隔鏡を用いて食道をほぼ全摘し、胸の中のリンパ節を取り除く手術です。(2)は縦隔鏡を使って、食道の上部は触れずに、病変のある下部食道とその周囲のリンパ節を取り除くという手術です。(1)(2)のような手術を縦隔鏡は使わずに姑息的な方法で行う施設もありますが、縦隔鏡を用いた手術のほうがリンパ節郭清をしっかりとできます。縦隔鏡を使用する(1)(2)の手術は、標準的な開胸手術よりも身体への負担が少なく、臓器障害のある人、高齢者などには適した治療かと思います。腎機能障害が高度であれば、放射線治療単独などの姑息的な治療を考慮することになります。ただし、照射が心臓にあたる侵襲を考えると、先の縦隔鏡による手術のほうが体への負担は少ないと考えています。

全身状態を総合的に評価して、治療法を選択していくことになると思います。

ステージ2の場合、術前化学療法を行ってから手術をするのが標準的な治療ですが、術前化学療法で標準的に使用するシスプラチン(一般名)は、腎毒性があります。ですから、慢性腎臓病で腎機能が低下している場合には、シスプラチンを用いた術前化学療法は避けたほうがよいでしょう。

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