頸部・胸部食道がん、下咽頭がん。声を残こせるか

回答者:出江 洋介
都立駒込病院 食道外科医長
発行:2008年7月
更新:2013年10月

  

73歳の父のことで相談です。のどに異変を感じて、総合病院でいくつかの検査をしたところ、食道がんと言われました。食道の頸部と胸部に腫瘍があり、頸部食道がん、胸部食道がんとのことです。咽頭の下部にもがんが見つかり、下咽頭がんとのことです。食道の上部と喉頭を切除する手術を勧められていますが、声を失う可能性があるとのことです。声を残せる手術はありませんか。また、手術以外には、どんな治療法があるでしょうか。

(秋田県 45歳 女性)

A 声を残せるか否かは、放射線化学療法の結果次第

声を失わないようにする治療法としては、最初に、下咽頭がんと頸部食道がんに対して、化学放射線療法を行ってから、次に、胸部食道がんは、手術で取り除くという方法があります。胸部食道がんに放射線照射を行わないのは、照射範囲が広くなりすぎないようにして、体に対する負担を小さくするためです。

下咽頭がんと頸部食道がんの化学放射線療法は、通常、入院して行います。最低でも1カ月半の入院が必要です。放射線の照射は、毎日2グレイずつ5日間を6週間繰り返します。合計60グレイの照射をします。放射線照射の開始と同時に、シスプラチン(商品名ブリプラチンまたはランダ)と5-FU(一般名フルオロウラシル)の併用療法を始めます。1回目の5日間は放射線照射と同時に開始します。その後3週間休んでから2回目を行います。2回目も5日間行います。化学療法は、標準的な量で行うのがよいと思います。

この化学療法によって、放射線を照射しない胸部食道がんのほうにも、その治療効果が期待できます。もちろん、微小転移を抑えて、再発率を低くするため、全身的な治療効果もあります。

この放射線化学療法で、下咽頭がんと頸部食道がんが消失すれば、喉頭を温存できる可能性があります。声を残せるかどうかは、化学放射線療法後の時点で決まると思います。通常、化学放射線療法を終えてから1~2カ月の間に、胸部食道がんの手術を行いますが、化学放射線療法の副作用や、治療効果の具合によって、手術までの時間を長くすることもあります。

胸部食道がんの手術は、胸腔鏡と腹腔鏡を操作して行う鏡視下手術の場合もあります。腹部に7センチの傷と1センチの穴を5カ所、胸部には5センチの傷と1センチの穴を5カ所開けて行います。この鏡視下手術は、通常の開胸手術よりも傷口が小さいというメリットがあります。

ただし、相談者の場合、根治性からすると、下咽頭喉頭食道全摘を行うのがよいと思われます。この場合、頸部の下のほうに気管口を造りますが、このことで誤嚥の心配がなくなります。ある程度ご家族のサポートが得られる方なら、決して悪い選択肢ではありません。しかしながら、声を失うことによるQOL(生活の質)の低下は大きいかと思います。治療法の利点、欠点をよく理解されてから選択してください。

とくに、下咽頭がんに対する放射線治療は、嚥下機能を障害することも多く、治療中に重篤な誤嚥性肺炎を起こす場合もあります。胸部食道がんに狭窄がある場合は、とくに注意が必要です。

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