全摘手術後、放射線治療を勧められたのだが

回答者●古賀文隆
がん・感染症センター都立駒込病院腎泌尿器外科部長
発行:2022年8月
更新:2022年8月

  

2020年4月、前立腺がんと診断されダビンチで前立腺全摘術を受けました。術後、定期的にPSA値を測定しています。2021年5月に0.013、2022年5月には0.054でした。5月のMRI検査では異常はありませんでしたが、主治医から「がんが残っているようなので、放射線治療を勧めます」と言われました。

そこでご相談です。PSA値の上昇は、どう見たらいいのでしょうか。またPET検査をすれば、微小ながんも発見されますか。ホルモン療法は可能でしょうか。

(71歳 男性 静岡県)

PSA再発が確認された時点で、補助放射線療法の選択肢も

がん・感染症センター都立駒込病院
腎泌尿器外科部長の古賀文隆さん

質問の内容から、相談者の前立腺全摘標本の病理検査の結果、切除断端にがん細胞の露出があり(切除断端陽性)、体内にがん組織の残存が疑われる状況と理解します。

しかしながら、PSA再発は来しておらず、主治医は、残存がん組織を根絶する目的で、PSA再発する前に「補助放射線治療」を提案しているのだと思います。

PSA再発は、術後PSA値が0.2を超えて上昇し続ける状態と定義されています。術後PSA再発が確認された後に行われる放射線治療は「救済放射線治療」と呼ばれており、世界的に標準治療として行われています。補助放射線治療と救済放射線治療のどちらが適切かについては、充分な医学的エビデンスがないためにわかっていません。

全摘標本の病理検査で、被膜外浸潤(pT3)がありかつ高悪性度 (グリソンスコア8-10)の高リスク症例の場合は、補助放射線治療のほうがより高い制がん効果を示したという報告もあります。

切除断端陽性の症例が必ずしもPSA再発を来すとは限らないことから、補助放射線治療は一部の症例にとっては不必要な治療となってしまう恐れもあります。放射線治療のコストや副作用を考えると、PSA再発が確認された時点で救済放射線治療を行うことで、不必要な治療を回避するという選択肢もあると思います。この点は充分に主治医と相談する必要があると思います。

PET検査は微小な前立腺がん組織の検出能力が高くないため、相談者の場合、PET検査の意義は低いと考えます。PSA値が0.2を超えた場合に行う救済放射線治療の場合、病状によっては短期間のホルモン療法の併用が有効であることが報告されています。

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