慢性腎炎の持病があるが、ピロリ菌の除菌治療は可能か

回答者:山口 俊晴
がん研有明病院 副院長・消化器外科部長
発行:2005年9月
更新:2019年7月

  

近年、しばしば胃もたれ感や胃のあたりに鈍い痛みを感じています。胃がんになった会社の同僚もいますし、営業での飲酒もなるべく控えるようにはしています。最近「胃にピロリ菌がいると胃がんになる確率が高く、胃がん予防には除菌治療が有効」との新聞報道を見ました。私は8年前から慢性腎炎による高血圧で降圧剤を服用中です。このような場合でも、この除菌治療は可能でしょうか。

(富山県 男性 59歳)

A 腎機能に影響がある場合も。担当医に確認が必要

ピロリ菌の除菌は、タケプロンという胃酸分泌を抑制する薬と、オーグメンチン(一般名アモキシシリン)とクラリス(一般名クラリスロマイシン)という2種類の抗生物質を組み合わせて行います。胃酸分泌を抑えるのはピロリ菌が好む酸性の環境を変えることと、胃炎を軽減する目的があります。抗生物質はもちろんピロリ菌を殺してしまう薬です。あらゆる薬は多少とも副作用がありますが、タケプロンは胃十二指腸潰瘍の治療などに比較的広く使われており、白血球減少などがまれに認められるもの、そのほかの障害は少ない薬剤です。

一方、抗生物質の中には、腎機能にも影響を与えるものがたくさんあり、腎機能に異常のある方での使用には注意が必要です。そもそも薬の多くは肝臓や腎臓で代謝されて、分解され無毒になったり、そのまま便や尿とともに体外に排出されます。ですからもし、肝機能や腎機能が悪い場合にはこのような仕組みが十分働かず、過剰な薬剤が体内に蓄積して毒性が出てしまいます。2種類の抗生物質のうち、オーグメンチンは腎機能が悪い場合には十分に注意して使用しなくてはなりません。オーグメンチンは、高度の腎障害時に減量を必要とする薬剤の1つです。慢性腎炎がどの程度かわかりませんが、除菌する場合には腎臓を診てもらっている医師の指示に従ってください。

ところで、胃がんが恐ろしいのであれば、ピロリ菌の除菌だけに満足してはいけません。胃がんは長い期間さまざまの因子が重なり、蓄積して発症するものです。ピロリ菌はその多くの発がんを促進する因子の1つであり、ピロリ除菌だけ行っても、タバコを吸い続け、塩分を大量に摂取し、胃の検診を怠っていれば、胃がんのために命を落とす可能性は十分にあります。相談者は59歳という年齢ですから、たとえどのように節制した生活を続けてきていても、がんにかかっても不思議はありません。減塩、禁煙、検診、この3つを忘れないようにしましょう。胃がん、大腸がんを含む成人病検診をきっちり受けることをお勧めします。

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