中医師・今中健二のがんを生きる知恵

第5回 「カゼかな?」と思ったらすべきこと

話・監修●今中健二 中医師/神戸大学大学院非常勤講師
取材・文●菊池亜希子
発行:2021年5月
更新:2021年5月

  

今中健二さんプロフィール 中医師。中国江西省新余市第四医院医師。神戸大学大学院非常勤講師。1972年兵庫県生まれ。学生時代に母親をがんで亡くした経験から医療に関心を持ち、社会人経験の後、中国国立贛南医学院に留学。中医師免許を取得し、新余市第四医院で治療に従事。2006年帰国。神戸市を起点に中国伝統医学の普及に努める。西洋医学との垣根を超えた「患者の立場に立った医療技術」発展のため、医師や看護師、医学生に向けたセミナー、中医学に基づいたがん治療の講演など、全国各地で精力的に活動している。2020年中国医学協会を設立。著書に『「胃のむくみ」をとると健康になる』『医療従事者のための中医学入門』

新型コロナ感染症がなかなか終息しない今日、ちょっとした体調の異変でもドキッとしますよね。がん治療中なら、なおさらです。そこで今回は、日々の暮らしの中で体調不良の予兆を感じたとき、何をしたらいいのかについて中医学的な視点からアプローチします。

「カゼかも……」の正体は何なのか? そして、不調の要因に早く体から出ていってもらうためにはどうすればよいのか? カゼをこじらせないコツは、実は同時に、カゼを寄せつけないコツにもなるようです。

中国には西洋医学、中国伝統医学の2種類の医師免許があり、中医師とは中国伝統医学の医師免許を持つ医師のこと。本連載では「中国伝統医学」を「中医学」と呼びます。

体調不良の反応は、その人の持ち味?!

外から体の中に入ってきて悪さをするものを、中医学では総称して「邪(じゃ)」と呼びます。ウイルスや細菌はもちろんの1つ。ほかにも、自然界に存在する風(ふう)寒(かん)湿(しつ)熱(ねつ)暑(しょ)燥(そう)という6つの気を「六気(ろっき)」といい、これらが体内に入ってきて悪影響を及ぼすと「六邪(ろくじゃ)」と名前が変わります。風邪(ふうじゃ)寒邪湿邪熱邪暑邪燥邪が六邪です。ウイルスや細菌と違って、自然界のに感染力はありません。

さて、ここで思い出してほしいのですが、体の中を気(き)血(けつ)津液(しんえき)がスムーズに巡っていれば体はいい状態だと中医学では考えます(第1回 病は「胃」から始まる)。中でも、気血の巡りが重要で、気血が流れずに滞ったり、逆に必要以上に流れ過ぎてしまうことで病が起こります。ほとんどの病の原因は気血の乱れにあると言っても過言ではなく、気血の乱れを引き起こす原因と捉えます。

ここでがどのように気血の乱れを起こすかを、自然界に例えて考えてみましょう。太平洋で発生した低気圧(強風と雨:湿)が日本列島に迫ってくると、もしそこに高い山があれば風が山に遮られて大雨を降らせます。その地域を通る道路は冠水し通行止めになるかもしれません。逆に、もし関東平野のように山がない場所ならば、遮るものがないので大雨にはならずとも、強風が吹き荒れて大混乱するでしょう。

これと同じことが体の中で起こると想像してほしいのです。湿は、それ自体は自然界に存在する六気に過ぎませんが、それらが体の中に入ってきて悪さを始めるとに変わります。その反応、つまり大雨になったり強風が吹き荒れたりといった現象が自然界では地形によって変わるように、人間の体内でも、その人の体形や体質によって、による反応が異なってくるのです。

鼻水、鼻づまり、咳、喉の痛み、肩凝り、発熱などがそれに当たります。これは鼻、口、喉、皮膚などからが体内に入ってきたことで起こる反応ですが、この段階では、はまだ皮膚の表面近くに留(とど)まっています。この状態を中医学では「カゼ」と呼びます(図1)。

粘膜も皮膚の一部なので、鼻の粘膜にが留まっていたら、鼻水、鼻づまり、くしゃみとなり、喉に留まったら赤く腫れて咳が出ます。目から入って留まると目が充血し、皮膚に留まると首筋や肩が張って肩凝りに。どこに何が起こるかは、その人の体質や体形にもよりますが、ここで大切なのは、それらの反応は、外から入ってきたをその場所に止め置き、そのまま体の外へ追い出そうする体の作用だということです。

気・血・津液:気は目に見えないエネルギー。血は血液、津液は血液以外の水分。中でも「巡り」が重視されるのが気と血

発熱しているときは食べる? 食べない?

ですから「カゼ症状」は基本的に無理に止めないほうがいいのです。少なくとも自然界の六邪ならば、咳止めや鼻水を抑える薬で止めたりせず、自身の体を信じて安静にしていれば、ほとんどの場合2、3日で自然に出ていってくれます。

ただ、ウイルスや細菌の中には体内に入ると想像以上に暴れるものがあって、その反応じたいに体が負けそうになることがあります。とくに高熱は見極めが重要。発熱はを追い出すための反応の1つですが、それ以上発熱させてはいけない類の高熱もあり、とくに子どもの高熱にそうしたケースが多いので注意しましょう。

そんなときに最も大切なことは、無理に食べないこと、無理に食べさせないことです。子どもが高熱を出すと、元気をつけさせようと無理に食べさせていませんか? 実はそれが大きな間違いです。

人が何のために食べるのかというと、気血を作って血流を促し、全身の細胞にその気血(栄養分)を届けるためです。その前提を考えると、発熱しているときは熱によって既に血流が高まっているので、無理に食べてさらに促す必要はないのです。それより、今ある気血を体の修復のためにすべて使いたい。なのに、胃に新たに食べ物が入ってきたら、消化という作業に気血を回さなくてはならず本末転倒。すべての気血を体の修復に使えるようにするためにも、高熱が出ているときは、実はあまり食べないほうがいいのです。そもそも1日や2日食べなくても、栄養分は枯渇することはありません。

思い返してみてください。高熱で苦しいときに食欲はありますか? 高熱の子どもが食べたがりますか? 体が必要としないから欲さない。食べたくないときは食べずに眠る、これが正解です。

元気が出てきたら、おのずと食欲が出てきます。そのときに食べたいと思えるものを食べましょう。インフルエンザなどで高熱が続く場合は、「食べない」以外にも服薬など個々に対応しなくてはならないケースはありますが、基本はすべて同じです。

カゼを追い出す最も効果的な方法とは

カゼの引き始めに話を戻します。このときの対処法は、無理に食べないことはもちろんですが、最も簡単で効果的な対処法は眠ること。「体調がおかしいな」と感じたら、夕刻、早めに入浴して体の隅々まで温め、夜9時にはベッドに入りましょう。

なぜ夜9時かというと、経絡(けいらく)の流れを考えたとき、夜9時から11時の2時間は、が全身の皮膚組織の末端まで隈なく巡る時間帯だからです。自身の免疫力を司るが体の隅々まで入っていって、「はいないか?」とパトロールしてくれます。全身の毛細血管までが入り込むことで、体の表面近くをウロウロしているをつかまえて連れ帰り、尿として排出してくれるのです。

この時間帯に気血にしっかり働いてもらうためには、眠っていることが何より重要。起きて活動していると、気血が活動のための筋肉に持っていかれ、パトロールが手薄になってしまうのです。

余談ですが、夜、布団に入ってあたたまるとお腹や背中が急に痒くなった経験ありませんか? あれは、気血が毛細血管に入っていこうとしているのに、水分や脂肪などで体にむくみが多く、堰き止められてうまく入れないときに起こります。脂肪の多いお腹周りで起こることが多いのではないかと思います。

結局、気血が末端までしっかり流れていれば、カゼはこじらせません。繰り返しになりますが、「カゼかな?」と思ったら早めに入浴し、体全体を温めて、夜9時にはベッドに入りましょう(図2)。

ここまでで気づいているかもしれませんが、この法則はカゼ気味のときだけに当てはまるものではありません。普段から夜9時までにお風呂に入って眠る習慣をつけておけば、は体に入りにくいし、たとえ入ってもすぐに追い出せる体になるということです。がん治療中ならばなおのこと。ぜひ普段から早めの入浴と就寝を心がけて過ごしてみてください。

ちなみに、抗がん薬治療などで手足にむくみが発生していて、入浴しても温まらない、血流が良くならない場所がある場合、そこは気にしなくて大丈夫です。は粘膜を含めた皮膚から体内に入ってくるのですが、むくみがあって皮膚が固められていたら、そもそもそこからは入ってこられないからです。

経絡(けいらく):気血が流れるエネルギーの通り道。経絡は全部で12本あり、頭や顔、内臓や手足を繋ぐように体中に張り巡らされている

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