ドイツがん患者REPORT 82 「1回だけでもワクチン接種者を増やす」に転換

文・イラスト●小西雄三
発行:2021年8月
更新:2021年9月

  

懲りずに夢を見ながら」ロックギタリストを夢みてドイツに渡った青年が生活に追われるうち大腸がんに‥

2回目のコロナワクチン接種を、6月29日に受けました。1回目が5月27日だったので、5週間近く間があきました。前回と同様に少し腕が痛かったですが、もちろん生活に支障はありませんでした。

接種をスムーズにできる仕組みがあっても……

ファイザーのワクチンは、2回接種を受けないと効果は完全ではないそうです。しかし、1回だけでも相当な効果が見込めと、ドイツでは2回目を延期してでも、1回でも接種した人を増やす方針に転換しました。

ワクチン接種をスムーズにこなすことができる仕組みがあっても、ワクチンの量が足りないのなら、それは仕方がないこと。2回目を延期して、その分1回目の接種者を増やすという苦肉の策を一部の人は批判していますが、大方の人は納得しています。

僕はワクチン接種を申請したときに、ファイザー製を指定したため、接種には時間がかかると思っていました。時間がかかっても、より効果が高く、信用できそうなものが良いと思ったので。

家内は2月下旬に1回目の接種後、規定通り3週間の間隔で2回目の接種を受けましたが、問診も一応はあったそうです。新しいワクチンはmRNAワクチンに限らず拒否感が強く、さまざまな風評も飛び交っていました。その中で不安を取り除いてもらうには、問診も必要だったのだと思います。この程度の手間でもドイツの人にとっては丁寧ですが、日本ではたぶん簡単すぎると言われそうで、国民性の違いってあると思います。

ホームドクターの診療所が閉鎖に

とても残念なことに、僕のホームドクターは6月いっぱいで診療所を閉めました。年齢的にはまだまだ現役でできそうなのに……、引退しました。そこは以前から診てもらっていましたが、とくに僕が直腸がんで入院したあとの2008年11月からは、体調の相談によく乗ってもらいました。

また、訪問診療も行っていたので、ぎっくり腰になったときに来てもらったことがあります。近くなので歩いて訪問してくれて、すごく感謝しました。

2回目のワクチン接種が最後になりました。これから新しいホームドクターを探さないといけません。彼の休暇中に診てもらったことがある、うちから徒歩3分の近くにあるホームドクターになると思います。

接種のあとに、カルテをもらって帰りました。がんになって以来、僕の診療データは増え続けてファイル1冊分くらいあるだろうと思っていましたが、さほどでもありませんでした。入院はもう長いことしてないからでしょう。

最後の入院は、突然の鼻血が止まらず、救急病院に救急車で運ばれたときでした。原因がわからず、検査と観察のためそのまま3日間入院しました。ちょうどサッカーワールドカップ2014の決勝戦のときでした。普段入院してもテレビは見ないのですが、このときばかりは特別、ドイツの優勝がかかっていたのですから。そしてドイツが優勝した瞬間、病院の外から大歓声が聞こえて来たことを今でもはっきり覚えていますが……、あれはもう7年も前のことでした。

ワクチンの副反応

ワクチン接種後の副反応は、接種した左肩の周辺に2、3日痛みがありましたが、気にならないレベルで、接種前に聞いていた通りのものでした。心配したアナフィラキシーショックも出ず、気分が悪くなったり、発熱もありません。

がん治療で入院中はよく検温をしていましたが、病院で検温するといつも驚くほど僕の体温は低かったのです。そんなことがあったので、普段は自分で検温はしません。ちょっと熱っぽいかなとか、自分なりに自己判断して終わりです。

そもそもうちには体温計がなかったので、去年ドイツでもコロナが流行し始めたころ、急いで薬局に買いに行ったのですが売り切れていて、そのままになっています。

子供たちが小さいころは家に何本も体温計があったのに、「自分で体温を測ったことは、小学生以来ないなぁ」って思いだしました。

「気分の悪さも気の持ちようで変わるし、発熱だってそうかも」と思っているところが僕にはあります。

家内は熱が出ましたが(どこで家内は検温をしたんだろう?)、問題になるほどでもなかったので、さほど副反応は心配はいらないと思っています。もちろん個人差があるので、一概には言えませんが。

僕が化学治療でアナフィラキシーショックを起こしたときは、本当にあっという間に気を失い、助けを求める声すら出せませんでした。そばにいた看護師が僕の異常な様子に気がつき、すぐに処置をしてくれたので、大事には至りませんでした。

その経験があるので、接種直後のちょっとした変化は大事だと思います。

「副反応が出たほうが、ワクチンが効いて体が免疫を作るために反応しているのだから、出ないよりいいのかも」という話を先日小耳に挟みました。免疫チェックポイント阻害薬などの場合も、副反応がでている患者さんのほうがよく効いているそうですから、なるほどとも思いました。

僕の場合でも、化学療法のとき副作用が強く出て困りましたが、その分効果が出て、今も生き延びていると思っています。

ワクチン接種が進むと、感染者が減りはじめた

ドイツでもワクチン接種が進んで行くと、感染者がどんどん減っていきました。そのおかげで、この2、3週間で規制の多くが緩和されました。マスク着用義務などは当分継続されそうですが、大方の規制は撤廃されて、かなり以前のような生活に戻りつつあるように見えます。

感染者減少の要因は、ワクチン接種が進んだから以外には考えにくいです。7月19日時点で3,820万人が2回のワクチン接種を完了、それは人口の46%になります。ワクチンの獲得予定数は8,560万回分です。ワクチンがもっと早く多く入手出来ていれば、もっと早く規制緩和できたのでしょうが、仕方がありません。

爆発的に感染者が増えて、医療崩壊を身近に感じれば、ワクチン接種しかこの難を逃れる方法がないと思えてきます。どのくらいこのワクチンの効果が継続するかわかりませんが、ワクチンを製造できることがわかったので、今後のために準備していてほしいと思います。

それでもなお、「早くワクチン接種をして、この夏をエンジョイしよう‼」という公共の広告をよく目にするのは、ワクチンを接種しない人たちに向けたキャンペーンなのでしょうか。接種するか否かは自由ですが、その前に、希望者全員が早く接種できるようになって欲しい。

国にできるのは医療体制整備とワクチンの入手だけ

はしかと違い、今のところ子供にはコロナは重症化しないようなので、親が子供に接種させなくても被害は少ないでしょう。それでも現状では、「自己責任で接種しない」とは言えない状況ですので、治療薬がないうちは世界中の人がワクチンを接種できるようになればいい。天然痘は、予防接種を確かに世界中の全員ではありませんが、それを目指したおかげで消滅しました。

コロナがどういう病気かよくわからなかった頃なら、今までとは違う生活行動を半ば強制的に国が規制するのは、戦争と同様の非常事態で仕方がなかったと思います。人口8,351万人のドイツでは375万人が罹患し、91,370人が死亡しました(2021.7.20現在)。

そういう状況でも、外出禁止令違反で500ユーロの罰金を課せられた娘の知人など身近にも違反者が出ました。そうして慣れてくると、政府がいくら強い規制をして店を閉めても感染者は減りませんでした。個人の生活をそこまで厳しく管理などできませんから。東ドイツで行われていた密告は今でもトラウマの1つで、そんなことを国がやっては絶対にいけないことですし、またそんなことはできません。本来は、個人が自主的に、人に感染させないように行動するのが理想ですが、それも長期間になると無理ですね。

結局対策に正解はなく、国にできるのは医療体制とワクチンの入手だけなんだと、コロナはいろんなことを含め、教えてくれました。

日本も早くワクチンが行き渡ることを願っていますが、ドイツもこれからもまだ長そうです。

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