ドイツがん患者REPORT 87 ドイツの医療用〝カナビス〟事情

文・イラスト●小西雄三
発行:2022年1月
更新:2022年1月

  

懲りずに夢を見ながら」ロックギタリストを夢みてドイツに渡った青年が生活に追われるうち大腸がんに‥

僕は2008年末に直腸がん肝転移がわかり、術前化学放射線治療、手術、術後化学療法のため人工肛門を1年付けた。その1年間はとてつもなく長く感じ、ほんの少し内臓が体外に出ているだけなのに人間ではなくなったという思いに捕われた。だから、人工肛門から解放されたときは本当にうれしかった。

その後、2度再発したがそれも乗り越え、2017年には完全に化学治療とは縁が切れた。

しかし、人工肛門を閉じてからは治療の後遺症のためか排便障害を起こし、常時下痢の症状に見舞われ、今でもそれが続いている。

ドイツで「オピューム・ティンクテュア」と呼ばれる薬を、強力な下痢止めと一緒に服用している。「オピューム」というモルヒネの原料のアヘンの名前が付いている痛み止めだが(ティンクテュアはチンキという意味)、その薬の腸の動きを鈍くさせるという副作用を利用して、下痢止めに服用している。それで下痢はかなり収まるが、1日中腹部に鈍痛を感じている。眠っていても感じているのだろう、全身がカチカチに固まった状態で目が覚めたり、全身がしびれたりもする。

体調によって服用量は変えるものの、長期間服用しているせいか最近はあまり効かなくなってきている。そのため痛みをより感じることが増えたが、我慢できないほどでもない。僕は、僕の腸と痛みと一緒に生きていこうと思っている。

疼痛治療に最適な場合も

痛みを持つ人に有効だという〝カナビス〟の話題を最近、TV番組(ARDプルス・ミヌス)で見たので、紹介したい。

恒常的な疼痛治療患者のF.ラインスハーゲンは、「私の仕事は重労働だったため、椎間板をすり減らしてしまった。もう20年も痛みを緩和するために多量の鎮痛剤を服用していて、QOLはひどい」と嘆く。

彼はクリニックに入院して、疼痛治療を受けている。主治医は医療用カナビス(マリファナ)での治療を勧めていて、彼もカナビスでの治療に好印象を持っている。しかし、退院後も治療を継続できるかはわからない。カナビスの健康保険の認可申請をパスしなくてはいけないからだ。しかもその結果を2カ月も待たなくてはいけない。

ドイツでは、医療用カナビスでの治療は厳しい管理下で認可されている。

疼痛治療の専門家であるD.ノイエリング医師は「私は20年、恒常的な疼痛患者を診てきたが、患者たちの多くは薬によって疲弊している。オピオイドや鎮痛剤などのすべての薬品の服用はもう限界にきている。それに比べ、カナビスには将来性があると思っている。未来の疼痛緩和治療は、カナビスによる治療に重きがおかれるようになるだろう。それは、副作用がないからだ」という。

僕は椎間板ヘルニアを、がんになる前の10年間患っていた。仕事で少し無理をすると腰が痛み、足に力が入らなくなってくる。立ったり、歩いたりはさほど問題はないが、長時間座っていると痛みが出てくる。だから、車の運転が一番困った。長時間運転すると足が麻痺するので、そうなる前に休憩を取る必要があった。最初の頃はよく兆候を見落とし、麻痺するまで気がつかず、何度か危険なことをしてしまった。

医者に、「足の親指が麻痺したら手術」と言われていた。実際に何度かそうなったが、手術は考えなかった。絶対に大丈夫と言われていた知人が、同じ手術で車いす生活になってしまった話を聞いたからだ。

当時、働いているときはアドレナリンのせいか痛みを感じないし、普段感じている鈍痛も問題ではなかった。ただ、周りの人には近づきがたい雰囲気で、傍迷惑だったそうだ。今でも痛みがあっても動かなくてはいけないときは、アドレナリンを出して痛みを感じないよう相当アグレッシブになっている。自分では気づいてはいないが……。そういう僕の状態を理解する人は周りにはいない。

8万人の患者がカナビスでの治療を受けている

現在、約8万人の患者が医療用カナビスで医療を受けている。しかし、「一般健康保険は、保険適用をはねつけている」「40%にも上る申請が却下されている」と専門家。

それについて、健康保険会社代表J.ホーンルは、「カナビスは今でも試験的な治療方法の1つとしてとらえている。理由はその有効性が『医薬品』として認可されてなくて『医療製』となっているため、保険適用申請が却下される場合が多い」

日本と同様ドイツも国民皆健康保険だが、運営しているのは民間だ。治療に使う認可は下りていても、本当に治療効果がある場合は健康保険が支払うが、疑わしい場合はケースバイケースとなる。

「植物の抽出物が含まれているもの、自然由来であってもダメで、その取扱いや服用は慎重に考慮されることが求められ、処方も当然厳格な許可のもとでなければならない」ということだ。

近々、ドイツ国内で11の個人治療センター(クリニック)が開設されるが、その対象は自費で負担できる患者で、医療用カナビスでの治療も受けられる。

ある医師は十分な治療を行うには、それでは供給不足と見ている。

「患者は十分な治療経験を持つ医師を見つけるのが難しく、患者も今のやり方に対応できてはいない。そういう現状を改善したい」という。患者はこれからますます増えるから治療経験をつんだ医師を増やし、もっと簡単に医療用カナビスでの治療ができるようにしようといっているのだ。

「40%もの保険適用却下はおかしい」としているが、それは「この治療が絶対に良いもの」という前提だからだ。「40%の患者には必要がない」とは考えないのだろうか? 僕はどうしても「自然のものだから良い」とは思えない。「アヘンも自然の産物だし、抽出されたモルヒネは?」と考えてしまう。

僕より10歳ほど年上の知人、ヴァレスカは昔バレリーナだった。腰を痛めて引退したのだが、それ以来腰痛に悩まされてきた。年々その痛みはひどくなり、処方されたモルヒネでは痛みを抑えきれなくなった。ところが、マリファナを吸うと痛みから解放されることに気づいた彼女は、マリファナを服用しはじめた。

ドイツでは、マリファナの売買は禁止だが、服用自体は昔から違法ではなかった。ミュンヘンでも入手は簡単である。彼女は医療用カナビスが認可されると、すぐ医師に処方してもらった。それで家計は大きな負担減になった。しかし今、再び彼女は高い普通のマリファナを服用している。「医療用マリファナは何かが違い、同じような効果がない」という理由で。

ドイツのカナビス製造は?

この1年ドイツ国内で、医療用カナビスの原料となる大麻が栽培されるようになり、3社が製造許可を得ている。2.6トンまで許可されているが、それでは必要量のほんの一部に過ぎない。2017年には0.5トンだった輸入は、2020年には9.4トンにまで急増している。

「医療用カナビスは何十億ユーロ市場」と、2018年に起業したベルリンにあるサニティグループ社のF.ヘンゼル。会社の事業の1つに医療用カナビスの輸入があり、並行してカナビスを原料とした製品の研究開発を行っている。

「いま一番興味のある分野は、痛みに関するものや精神医療分野だ。それぞれの分野で、6~12億ユーロとなることが予測されている」と。彼は事業の成長に期待している。

会社には6,500万ユーロが国内外から投資された。この分野が、将来のシューティングスターとなるというヨーロッパ内での期待が投資の理由だ。

「私たちは、素晴らしい開発分野である医学、医薬品の研究をしている。それは、政府からの研究援助を確実に増加させる。なぜなら、カナビスは自然医療品だからです。世界に負けないように、私たちは真剣に考えていかなければいけません」と語った。

みんなに有益なカナビス製品は良いビジネスモデル

この会社は医療品の製造のかたわら2つ目の柱として、ライフスタイル製品を精神に作用を及ぼさない種類の業務用大麻から製造している。例えば、化粧品やグミ、口臭スプレー、石鹸、ろうそくなどなど。国営放送の番組だが、まるで商品の宣伝のようだ。

また、業務用大麻の栽培農家U.グレマーは「業務用大麻の成分には多くのビタミンや重要な脂肪酸が含まれている。その樹脂には、CBD(米国で2018年、欧州で2019年に医薬品に承認されたカナビジオール)があり、麻薬的な作用はない。そうでなければ、私たちはこの畑の中に立っていられないだろう」という。

アヘンの栽培をしている人は、アヘン中毒になり畑の中に立っていられない⁈。これを見て、「そうだね、安心だね」と本当に思う人はいるのだろうか?

〝僕の問題〟から解放されるのなら

CBD製品は、ドイツ国内だけで年間18億ユーロの売り上げになると業界は予測している。大麻の栽培をしている彼は、カナビジオールを原料とするオイルの製造を主業としている。鎮静作用と抗炎症作用の効用をうたって、彼のラボで製作して、オンラインを通じて販売している。

ところがEUの規制により、「栄養補助商品」との表記ができなくなったため、「アロマエキス」というラベルに貼り換えて顧客に発送している。

「EUは、ドイツの州と州の間に線引きをして対応させている。そして、地域ごとに規制が違う。ここはバイエルンだ。役人は、『うちで認可が下りないことに不満があるのなら、どうぞ他の地域に行ってください』という姿勢だ」という言葉で番組は締めくくられた。良識あるはずのメディアまでが手放しに賞賛し、まるで医療用カナビスの宣伝に一役買っているようで、違和感を感じた。

「カナビスは自然由来で良いもの」ということなのだが、あまりに短絡的と僕は感じた。自然由来だから良いと思うのは、ドイツ人に特有なんだろうか。

元々ドイツには、自然治療の1つに修道院で開発された「ホメオパティ」というものがあり、効用はあまり科学的に証明されていないが、治療は認められている。

ドイツの健康保険は「一般」と「個人」の2種類があるが、一般保険では認められていない「ホメオパティ」や「ハイプラクティカー」などは、個人保険(保険料は高い)では認められている。そして、個人クリニックは、個人保険の患者しか診ないところも多い。

しかし、がんなどの命にかかわるような病気には、個人も一般も差はない。病室が個室か相部屋かなどの差はあるが、治療内容は同じだ。

医療用カナビスが、疼痛緩和を必要としている患者に本当に効果があるのなら「医薬品」とすべきだと思う。僕とて〝僕の問題〟から解放されるのなら欲しい。

副作用も依存性もないというが、痛みが治療によって完治しないなら、痛みから解放される〝もの〟に依存し続けると思う。僕はがんになる前に、アルコールにかなり依存していた。それは「精神的な痛みから解放されるような気がしていたから」と今になって思う。

たまに、痛みがスーっと消えて無痛状態になるときがある。ものすごく幸福感があふれてくる。たまにだから、より幸福感を感じるのかもしれない。

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