ドイツがん患者REPORT 86 「続々・コロナがうちにやってきた」家内がブレークスルー感染して2

文・イラスト●小西雄三
発行:2021年12月
更新:2021年12月

  

懲りずに夢を見ながら」ロックギタリストを夢みてドイツに渡った青年が生活に追われるうち大腸がんに‥

それでもホリディに行く――家内は2週間の自宅隔離期間が終わって、1日もおかずにホリディに出かけました。日本人ならちょっと理解できない行動と思われるかもしれませんが、それが典型的なドイツ人だと僕は思っています。多くのドイツ人にとって、ホリディは生きがいと言っても良いと思います。

ところが、クラスター認定されて隔離処置を受けた家内は、もう安全だという証明書を貰わない限り外出許可は出ません。ましてや街を離れることなどできないのです。

自宅隔離の感染者を監視するわけでもないので、隔離期間中での外出が見つかって罰金を支払うようなことはまずないのですが……。

家内は、隔離が1日でも延長されることを非常に恐れていました。娘夫婦と2匹の犬を連れて、北ドイツへの旅行を年初から計画していたのですが、その出発日が解除予定日の月曜日だったからです。家内は今年もこの旅行のために生きてきたといっても過言ではないように僕には見えました。

ワクチン接種をしていた家内は、軽い症状は出たものの比較的早く回復して、隔離後半の1週間は元気なのに家から一歩も出られない軟禁状態でした。だから、なおさらホリディには行きたかったのだと思います。

金曜日にPCR検査を受けて最終的な陰性証明をもらい、それで隔離解除を目指したのですが、その陰性証明がなかなか出なかったのです。だから当然隔離解除も出ません。家内のイライラが募っていくのがわかりましたが、これらすべてのことは、週末に行われているのです。日本以上にドイツの公務員は、週末は働きません。とくに日曜日は労災保険の関係もあり、民間でも特殊な許可をもらわない限り日曜日には働けないのです。

家内も公務員でした。30年ほど公務員をしている間、僕が知る限りたった2、3回ほどしか土曜日に仕事に行ったことがないし、日曜日に至っては皆無です。

しかし、そのことをまったく忘れているかのように不平を言っているところを見て、我が身を振り返るのはなかなかできないものだと感じました。

健康省から状況把握の電話

家内がクラスターで感染したことは健康省も知っていて、同居している僕にも状況把握のために電話がありました。家内も使う受話器は感染リスクが高いので、距離をとれるスピーカーフォンにして相手と話しました。市内通話なので音声もよく、僕も普段通りの声で話せます。それを見ていた家内は不思議そうでしたが、都合よく解釈して、僕たちの会話をそばで聞いていました。

僕が「何か変なことを言って、そのせいで隔離が延長にならないか心配だった」と、家内は後で言っていましたが、あまりに余計なことを横から言うので、逆に僕のほうが困ってしまいました。僕はこういうことには慣れていて、ドイツの役人には受けがいいし、このようなときは外国人であることを有利に利用することもできます。まあ、正直に話すので、相手が都合よく解釈してくれます。

そのとき、面白いことに気がつきました。多くのドイツ人は、世界では「ファイザーのワクチン」と言われていることを知らず、ドイツの会社「ビヨンテックのワクチン」だと思っていることに。ドイツでは意図的にビヨンテックというドイツのベンチャー企業名を使っているのかはわかりませんが。

僕が接種したワクチンを「ファイザー」と答えたら、横から大声で「違う、違う、ビヨンテックよ。ファイザーじゃないよ!」と家内が叫んでいました。もちろん電話口の役人はファイザーで理解しています。

そして無事に電話は終わりましたが、ホリディに行くために必死になっている家内の姿がなんだか滑稽に見えてきました。

旅行直前やっと出た陰性証明

日曜日の午後、待ちに待った陰性証明が届き、やっと月曜日から自宅隔離が解除されることに。月曜日の午前5時の列車で行く予定なので、本当にぎりぎりでした。家内もホリディですが、僕にもホリディ。これでやっと羽を伸ばせます。

毎年この時期にホリディに行くので、僕にとっても休暇ですが、今年は直前のコロナ騒動のため、とくにやっとという感じでした。そしてホリディの1週間は、感染者との同居の2週間ですり減った神経と体重を回復させるのに当てたのですが、想像以上に僕は疲弊していました。

コロナ感染者は2週間の隔離期間が必要とされ、感染拡大を食い止めるには当然ですが、家内にしてみれば元気なのに、理不尽だと思っていたようです。

しかし、少なくともこの経験で、コロナ感染症への理解が深まり、家内のワクチン接種への嫌悪感や考えが少しでも改まればいいと思います。自分の考えを持つことは悪いことではありませんが、一部の介護士が、世話している老人たちの感染リスクを考えずに、ワクチン接種しないことを押し通したことでクラスターが起こり、家内が感染して家族にまでそれが及びました。それでも、人々の考えや自由を強制すべきではなくて、1人ひとりが冷静にデマや思い込みに惑わされることなく、家族や周りの人々のことを少し考えればよいことなのだと思います。

ワクチン接種の重要性

家内は、介護の仕事をしていなければ多分ワクチン接種はしていなかったと思います。そして感染していれば重症化していたかもしれません。そして摂取していなかったら僕も家庭内感染してきっと重症化していたと思います。確かに「周りの人が接種すれば集団免疫ができるから、自分は接種しなくても良いかも」と、利己的に思ったこともありますが。

しかし、身近で感染が起こったけれど、僕のように感染しないで済んだり、家内のように重症化しないで済んだので、ワクチン接種は有効だったと思っています。

家内が介護している老夫婦も回復したそうです。とくにご婦人は、一時は重症だったとのことで、ワクチン接種をしていて本当に良かったと思います。

これで家内もワクチン接種していた幸運に感謝して、ワクチンに対してのアレルギーも変わると良いのですが……。

1年ぶりバンド仲間との再会

先日、我が家のコロナ騒動が終わり、久しぶりにバンド仲間のフランツイーとカティに会いました。残念ながらデーヴは都合がつかずに来られませんでしたが。

1年ぶりの再会で積もる話もたくさんありましたが、そのうちワクチンの話に。フランツイーは3月に接種を終えていましたが、カティはできれば打たないで済ませたいと言っています。ところが彼女は飲食店を経営していて、店に立って接客もしています。ワクチン接種はしていないけど、「2日に1度は抗原検査をして、陰性だということを確認している」と話しました。

しかし、家内の例でもわかるように、抗原検査はPCR検査より精度が低く疑陰性の可能性もあります。彼女がワクチンは危険だから打ちたくないと思うのは自由ですが、飲食店を経営しているという責任を考慮して、それでもワクチンは嫌だというのなら、コロナ軽視の人たちとあまり変わらないように思えてきました。

ともあれ、息子も無事回復して、長かった我が家のコロナ騒動は一段落しました。しかし、これで終わりではないところがコロナの厄介なところです。また、いつ感染するかもわからないのです。しかも、今ドイツではまた感染者が増えてきているのですから。

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