腫瘍内科医のひとりごと 67 「なさけない禁煙対策」

佐々木常雄 がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長
発行:2016年7月
更新:2016年8月

  

ささき つねお 1945年山形県出身。青森県立中央病院、国立がんセンターを経て75年都立駒込病院化学療法科。現在、がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長。著書に『がんを生きる』(講談社現代新書)など多数

Bさん(65歳女性、喫煙歴40年)は診察室に入ってきて、身体中からタバコの臭いを振りまきながら私に訴えます。

「肺の精密検査が必要といわれてこの病院に来ましたが、呼吸器内科のS医師はひどいです。タバコを止めないと診てやらないというのです」

「タバコの本数を減らそうと頑張っているのに、タバコを止めろと言われる度にカチンときて、吸う本数がまた増えるのです。私の場合は、タバコでストレスが少なくなり、心が穏やかになります。それで私の免疫力が上がり、がんになるのを防いでいると思うのです」

Bさんの話はめちゃくちゃです。

喫煙によって、肺がん、食道がんなど、数多くのがんになるリスクが増えることが科学的に証明されていることを説明しましたが、なかなか理解してもらえません。

禁煙外来を勧めましたが、「タバコを吸っていても診てくれる別の病院に行きます」、と言われて来られなくなりました。

1年後、Bさんは進行した食道がんで、ある病院で大変な手術を受けました。

「病院敷地内禁煙」は必須

「病院機能評価」というのがあって、5年に1回、病院の監査のようなものがあり、合格をもらうには「病院敷地内禁煙」が必須です。そのこともあって病院の中ではタバコを吸っている姿は見られなくなってきました。

しかし、タバコを止められない人は病院近くの道路や公園で吸うようになり、近くに住んでいる方から苦情がきました。以前は、病院近所を禁煙パトロール隊が回ることにしたことがありました。

タバコの科学的害は明らかなのに

国や市、区のタバコの対策では、残念ながら情けないことが多くあります。

10年前に、国から「がん対策基本計画」が示されました。その中で禁煙を進める案があったのに、いろいろな分野からの圧力があって、大きく後退してしまい、「未成年者の喫煙率0%を目標」、としか出来なかったそうです。

あきれてしまいます。

「禁煙を言うと、票数が減って選挙に勝てない」と言われる議員さんもおられました。

東京都がん対策推進協議会で示された平成29年度の「喫煙率の目標」は、その数値も示さず、「下げる」です。なんとも悲しくなります。

昨年、東京都受動喫煙防止対策検討会で何回か討議されたようです。委員の中には、「たばこの害が科学的にまだ証明されていない」、との発言もあったそうで、報告では「多くの団体から喫煙者と非喫煙者との共存できる対策の推進を求める声が出された」とあり、結論が得られなかったそうです。

喫煙の健康被害、がんとの関係が明らかに科学的に証明されているのに、こんな結論では困るとのことで、この検討会ではオリンピックまでにもう一度協議することになったようです。

タバコがなければ、日本では年間何万人もの方ががんにならないですむということがわかっているのです。私は、喫煙が関係してがんとなったと思われる多くのがん患者さんの悲劇をみてきました。本人も、家族もがんにならないためにはまず禁煙です。どうか頑張って協力しあってタバコは止めましょう。

第17回東京都がん対策推進協議会(2015年11月24日開催)

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