腫瘍内科医のひとりごと 166 腰痛でMRI検査

佐々木常雄 がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長
発行:2024年10月
更新:2024年10月

  

ささき つねお 1945年山形県出身。青森県立中央病院、国立がんセンターを経て75年都立駒込病院化学療法科。現在、がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長。著書に『がんを生きる』(講談社現代新書)など多数

以前、一緒に働いていたA氏のお話です。

1カ月前頃より、腰痛がひどくなり、下肢がしびれ、椅子に座ると大腿後面が圧迫されるためかしびれがひどくなりました。歩くのは大丈夫ですが、足底も感覚が鈍いのです。

先週、整形外科の担当医の指示で、X線写真を撮って診察室に戻ると、昨年のX線写真とはあまり変化がないとのことでした。そして「2日後にMRIを撮って、昨年と比較してみましょう」とのことになりました。

MRI検査を受ける

MRI検査当日は暑い暑い日でした。午後1時15分撮影の予定になっていましたが、早めに昼の軽食とトイレをすませ、受付に1時前には予約票、承諾書を提出しました。

撮影前室に案内されると、付き添いの方も含めて約10名の男女が長椅子に座っており、付き添いと思われる方以外は、みなさん老人でした。

入院中と思われる、パジャマ姿の車椅子の方、これから手術をされるような話をされている方もおられます。

部屋の壁には、おそらく職員の方が撮ったであろう、山、草原、雲の写真が飾ってあります。

じっと座って待っていると、またまた腰痛がひどくなってきました。

予定より約10分過ぎた頃名前を呼ばれました。技師さんと名前、生年月日を復唱した後、小さな部屋で検査用の上着、ズボン、スリッパに履き替え、ロッカーの鍵を持って、また長椅子で待ちました。

強い音を防ぐためヘッドホンをつけても……

順番が来て、撮影室に入りました。金属性のものは外すとのことで、1本だけある入れ歯は家で外してきたから大丈夫。眼鏡をはずし、紙マスクの上枠には、針金のようなものが入っているが、それは問題ないと技師さんが言われました。

また、心臓の冠動脈に入れたステントは大丈夫らしいのですが、狭心症予防のため毎日、前胸部に貼ってある硝酸イソソルビドテープは剥がすことになりました。

MRI装置のドームの中に入る台に乗り、背臥位になりました。強い音を防ぐために、両耳を覆うヘッドホンのようなものをつけ、身体が動かないように太いベルトで腹部は固定されました。

「10分から20分で終わります。なにかあったらこれを強く握って知らせて下さい」と、左手にゴムの膨らんだものを握らせてくれました。

「深呼吸はしないように、普通に呼吸していて下さい」

いよいよ始まりました。ガガガ、ピピピー、ガガガー。なんとも、なんともすごい音でした。ただじっと終わるのを待つしかありません。じっとしていて、深呼吸しないで、普通に呼吸して……と頭で繰り返していました。

ただじっとしているだけですから、「楽ではないか」、「あなたのは、がんの痛みではない。脊柱管の狭窄ではないか」……。

そう思っているうちに、「終わりました」と声がかかって、ドームの外へ台が動き、「起き上がって下さい」と言われました。座って、台から降りて立ち上がると、クラクラしました。

着替えて、今度は担当医の診察室の前で、呼ばれるのを待ちました。

担当医は「前回のMRI検査と、それほど変化はありません。細かい神経は分かりませんが、脊髄が圧迫されている程度も変わらないように思います。内服薬を朝、夕と1日2回にしてみましょう」

納得して、帰路につきました。

「同じ検査でも、がんの患者さんは、骨転移などで、私よりも、もっともっと大変だろう。この暑いのに、放射線治療などで毎日通院の方もおられる」

なんだか、ほっとして痛みとしびれが少なくなった気がしました。

家に着くと、夕方なのに、隣の庭から虫の鳴く音が聞こえてきました。

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