腫瘍内科医のひとりごと 160 孫、Nちゃんのこと

佐々木常雄 がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長
発行:2024年4月
更新:2024年4月

  

ささき つねお 1945年山形県出身。青森県立中央病院、国立がんセンターを経て75年都立駒込病院化学療法科。現在、がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長。著書に『がんを生きる』(講談社現代新書)など多数

今年は元日から能登半島地震、羽田飛行場事故など、不安なスタートでした。

4歳になったばかりのたったひとりの孫、Nちゃん。正月に来てくれる予定が、発熱して来られず、そのときは会えませんでした。

妻は、毎日、孫の動画、壁に貼った写真に向かって「Nちゃん、Nちゃん」と、立ち上がるときでも、買い物に行く道でも「Nちゃん」と呼びます。

どこの誰よりも可愛い

老齢になっても、よく旅行に出かけていた妻は、新型コロナ流行でそれも出来ず、畑仕事と〝孫に会えること〟が一番の望み、幸せのようでした。しかし、冬は畑仕事ができません。

昨日、孫一家が、新型コロナや風邪などから快復して、やっと来てくれました。雨の日でしたが、3時間ほど居てくれました。

「おばあちゃんはね、いつもNちゃん、Nちゃんって言っているんだよ」
「おばあちゃん、僕がいないときでもNちゃんって呼んでいるの?」
「そう、いないときでもだよ」

妻は、「若い頃、育児をしていても、自分の子がこんなに可愛いと思ったことはなかったけど、いま、孫はとっても可愛い。世界中で、一番可愛い。どこの誰よりも可愛い」と言います。

孫の病気が私に幸せをくれた

私は、以前、入院されていた、ある乳がん患者さんを思い出しました。

全身に骨転移があって、すでに薬物療法の効果はなく、痛みに対して放射線治療と、麻薬を使っていました。

患者さんは、枕元に飾ってあった写真を指して、こんな話をされました。

「可愛いでしょう。私、がんで、こうして寝ていますけど、この孫が私に幸せをくれました。たったひとりの娘が結婚して、遠くに住むことになって……。私はひとり暮らしでした」

そして、こう続けられました。

「この孫が生まれて……。孫はこんなに元気そうですが、実は、重い病気を持っているのです。孫の病気のためには専門の大きな病院の近くで暮らしたほうが良いということになって、娘一家は私の家のすぐそばに住むようになりました。それで毎日、可愛い孫に会えるようになったのです。私はこんな病気になってしまったけど、孫の病気が私に幸せをくれたのです。こうして入院していても、娘が孫を連れてきてくれます。私は孫に会えるのが一番幸せなんです」

〝孫の病気が私に幸せをくれた〟というのです。

全身骨転移で、ほとんどベッドに横たわっている状態なのですが、そのように話されたのです。

遺伝子が受けつがれ生命は連続的に

動物は、親は子を可愛がり、命を懸けてでも守る。孫を可愛がる動物もいるらしいが、多くは人間ほど長生きはしない。

哲学者の梅原猛氏は、「私たちの生命のなかには、永遠の生命が宿り、それが子孫に蘇っていく。自分は死んでも、遺伝子は生きていると考えれば、生命は連続的なものと科学的に考えることができる。……この世の命は受けつがれていくことに救いがある」と書いています。

私が、小さな仏壇の扉を開け、ろうそくと線香に火をつけると、Nちゃんは率先して、黙って両手を合わせ拝みました。仏壇の中には、祖父母、曽祖父母の写真があります。

「パパのお父さんがじいじ(祖父)で、そのお父さんがひいじいじ(曽祖父)」そう聞いて、Nちゃんは頷いていましたが、本当に分かっているのかな?

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