腫瘍内科医のひとりごと 161 超音波診断――肝がん? 肝硬変?

佐々木常雄 がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長
発行:2024年5月
更新:2024年5月

  

ささき つねお 1945年山形県出身。青森県立中央病院、国立がんセンターを経て75年都立駒込病院化学療法科。現在、がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長。著書に『がんを生きる』(講談社現代新書)など多数

Kさん(タクシー運転手)は、2カ月前頃から運転中に上腹部不快、疲れを感じていました。いつもの晩酌も飲みたいと思わなくなっています。

ある日、思い切って近くの病院を受診しました。

S医師は問診のあと、腹部を触診しました。上腹部に抵抗があり、すぐに採血と腹部超音波検査を指示しました。その後、再度診察することになりましたが、KさんはS医師が首を傾げたのをみて、不安になりました。

腹部超音波検査中は聞きたいことを我慢

採血の後、超音波検査室に入りました。

カーテンで窓からの光が遮られ、中央に超音波機器とベッドがありました。女性の検査技師さんに名前と生年月日を告げ、診察カードを渡しました。

「荷物は、入り口の所のカゴにおいてください。上半身裸になって、お腹を上にして、ベッドで横になってください」と言われ、指示通りにしました。

部屋の電気が消えると、ほとんど真っ暗になりました。

「ちょっと冷たいですよ」と言われ、ジェルをつけた端子先の刷毛のようなもので、お腹をなぞっていきます。ときどき、「はい、そこで息を止めて」と言われます。たぶん、そのときは画像を撮っているのだと思います。

ときどき、その刷毛が止まります。技師さんはじっと機器の画面をみて、パソコンのキーを打ちます。

「きっと何かがあるのだろう」

黙って検査を受けます。刷毛のジェルが冷たい感じがするだけで、検査の苦痛はまったくありません。

じっと刷毛が動かないでいると、「そこに何かありますか?」と聞きたくなります。

しかし、検査室入り口に、「検査結果は、診察室で担当医から説明します。検査室では結果をお知らせすることはありません」と掲示されているのを読んでいます。ですから、聞く訳にはいきません。

20分くらい経ったか、しばらくして、刷毛でお腹全体をなぞって、「はい、終わります」と言われ、部屋の電気が点き、明るくなりました。

熱いタオルを渡され、「これでお腹を拭いてください。終わりましたら、服を着けてくださいね。この後、診察です」と言われました。

カゴから下着、シャツなどを取り出して着て、「ありがとうございました」と言って検査室から出ます。カーテンの向こうから、「お大事に。忘れ物ないようにお願いします」と声が聞こえてきました。

肝がんはなさそうですが……

結果は、技師さんから担当医のパソコンに送られるものと思いました。

心配になりながら、内科の受付に検査が全部終わったことを告げ、担当医の診察室の前の椅子に座って待つことになりました。

そこの待合のテレビでは、料理番組が放送され、診察を待っている患者さんは10人以上います。なにか、運命のお告げを待っているような気になりました。

持ってきた文庫本の小説を読む気にもなれず、スマホで4歳の孫の動画を繰り返し見ていました。

診察室に呼びだされ、「Kさん。肝がんはなさそうですが、肝硬変の疑いがあります。1カ月後あたりに入院して、肝生検で組織を確認しておいたほうが良いと思います。予定してよろしいですか? 一緒に胃の内視鏡検査もやっておきましょう」と、S医師から言われました。

Kさんは、がんではなさそうだとのことで、少しほっとして同意しました。

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