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腫瘍内科医のひとりごと 135 コロナ禍の中で 胃がん手術
Jさん(63歳女性)は、ひとり暮らしで、A消化器内科医院の事務をして10年になります。
A院長とは同い年で、とても信頼されていました。コロナ流行が長く続き、最近は旅行も行けず、楽しみは、夕食で、ゆずのサワーをひと缶飲むことです。それでもなんとなく幸せを感じていました。
健診センターで胃X線検査を受ける
ここ2年間、区の健診を受けていませんでしたので、今回は受けることにしました。10月、市役所そばの健診センターへ胃X線検査を受けに行きました。すると11月に封書が自宅に来て、結果は「要内視鏡検査」のところにまるがついていました。
「症状もないし……」と思いながらA医師に話してみたら、「そりゃー内視鏡をやりましょう。明日、食事しないで来なさい」とのことで、A医院で内視鏡検査を受けました。
その結果、胃の幽門部に隆起性病変があり、そこから生検が行われました。そしてA医師にあっさりと「早期がんかもしれない」と言われました。そのときは、それほどショックではありませんでしたが、8日後に、「組織検査はがんだよ。私がG病院を紹介するから、手術してもらいなさい」とのこと。がんで手術と言われて、とてもショックでした。
A医師が紹介状を書いてくれ、電話で予約もしてくれて、G病院胃腸外科を受診したのは12月初めでした。
G病院の入り口、玄関にはコロナ感染予防対策がたくさん書いてあり、看護師さんは、マスクのほかにフェイスガードもしていました。
担当のT医師は、A医師から電話で連絡してくださっていたこともあってか、温かく迎えてくれました。手術の予定は「緊急手術でもないので、これ以上は早くなりません」と言われ、1月第2週目となりました。
PCR検査は陰性で、それはほっとしました。また、コロナワクチンについては、2回目が終わっており問題ないようでした。
お正月はアルコールを1滴も飲みませんでした。
手術の説明には家族はひとり、手術日に来られる家族もひとりというので、近くに住む息子に来てもらうことにしました。
今、手術してもらえてよかったね
手術当日でも、息子は病室に入ることは許されませんでした。
朝、8時半に看護師さんと一緒に手術室に歩いて向かうときに、息子は廊下の奥から手を振っていました。自分ではわかりませんでしたが、予定通り、手術が終わって正午前にはICUに運ばれました。
「手術終わったよ」と声をかけられ、私は酸素マスクをしながら「はい」と答えたようですが、記憶がありません。しばらくしてから、担当医が来てくれて、「大丈夫です。手術は成功しました」と言われ、そこでほっとしました。
翌日、元の病室に戻って、頼りはナースコールとスマホでした。
T医師のやさしい目と、看護師さんのフェイスガード越しの目がとても印象的でした。
コロナ流行下での手術でしたが、無事に済んで、「感謝」という言葉以外に思いつきませんでした。こんなコロナの時代ですが、スマホで家族に会えてよかった、数年前だったら、携帯は持っていても電話だけだったとも思いました。
退院したら、隣の方が「今、手術してもらえてよかったね。コロナが増えたら、いつ手術になったかわからないよ」と言ってくれました。