腫瘍内科医のひとりごと 144 昨今の経験――胃内視鏡治療

佐々木常雄 がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長
発行:2022年12月
更新:2022年12月

  

ささき つねお 1945年山形県出身。青森県立中央病院、国立がんセンターを経て75年都立駒込病院化学療法科。現在、がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長。著書に『がんを生きる』(講談社現代新書)など多数

Bさん(45歳 男性)は、この夏頃からなんとなくむかむかする感じがあり、近くのG胃腸科を受診し、胃内視鏡検査を受けました。

その結果、「胃に2㎝くらいのすこし盛り上がった所が2カ所あり、早期胃がんの可能性がある」とのことで、生検検査が行われました。とてもショックでしたが、10日後の組織検査の結果は、やはりがんとの診断でした。

早期胃がん、内視鏡切除を勧められる

G胃腸科の医師は、意外と明るい感じで「がんには間違いないが、手術はしなくとも、内視鏡で取れると思う。C総合病院に内視鏡の名手、K先生がいるから、そこで内視鏡で切除してもらうのが良いでしょう」と話され、紹介していただくことになりました。

翌週、Bさんは、妻と共にC総合病院、K医師を受診しました。

K医師は、「内視鏡切除が可能であること、また、早期がんの2カ所は離れているので、手術では胃全摘になってしまう。胃を失ってしまうのと、胃があるのとでは、その後の生活の質が違ってくる」ことなどの話もされました。

また、「内視鏡で、2カ所のがんを一度に取ってしまいたいが、場合によっては、日を置いて2回に分けるかもしれません。出血とか、胃に穴が開いて手術になってしまうこととかもあり得ます」とのことでした。

一般的に、胃内視鏡切除の適応は、がんの大きさが2㎝以下、がんが潰瘍となっていない、リンパ節転移の可能性がきわめて少ない場合などです。

Bさんは外来でのCT検査でもリンパ節転移を認めず、入院して内視鏡切除をすることになりました。

しかし、患者さんの混み具合などから2カ月後となりました。

入院中はスマホが相手の日々

Bさんはすでに新型コロナワクチンを4回接種していましたが、入院する直前にPCRの検査が必要となりました。

C総合病院の外来に行って、廊下の一隅で、1人ひとりカーテンで区切られたところに座って、蓋つきの試験管のようなチューブに唾液を溜めて提出します。わずか1㎝ほど溜めるのですが、意外と大変で15分くらいかかりました。これもコロナ流行が続いていては、仕方がないことだと思いました。

もし陽性と連絡がくれば、入院治療が延期になってしまうのですが、幸い連絡がなく、予定どおり入院できました。

入院当日、妻に荷物を持ってもらい、病院に一緒に行ってもらいましたが、病棟の中に入れるのはBさんだけでした。パジャマに着替え、採血、心電図、X線写真検査、そして治療の同意書にサインした後は、なにもやることがなくなりました。天井を見ていると、病気のこと、治療法のこと、そして悪い結果になるのではないかなどが頭に浮かび、不安がよぎりました。

夕方になって、K医師が来てくれて、さらに内視鏡治療の説明をしてくれ、安心できた気がしました。そして、夕食事のときになって、ようやくマスクをはずしました。

翌日の内視鏡治療は、鎮静剤で眠った状態での治療で、1時間半ほどで終わりました。目が覚めたとき、K医師が「2カ所とも、完全に取れましたよ」と話してくれました。

幸い、その後も順調でしたが、Bさんは入院中ほとんどテレビとスマホだけを相手にした日を過ごし、7日後無事退院できました。

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