腫瘍内科医のひとりごと 150 腫瘍内科医のWEBカンファランス

佐々木常雄 がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長
発行:2023年6月
更新:2023年6月

  

ささき つねお 1945年山形県出身。青森県立中央病院、国立がんセンターを経て75年都立駒込病院化学療法科。現在、がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長。著書に『がんを生きる』(講談社現代新書)など多数

あるクリニックが中心となり、WEBでがん患者の検討会が行われました。

そのクリニックには、標準治療というものが終わった、あるいは標準治療法がない患者さんが紹介されてきます。

「緩和医療をお願いします」といって、紹介されてくるのです。クリニックの院長は「本当に治療法は、もうないのか?」、それを検討したいというのです。WEBに参加したのは、全国のがん患者を診療する医師たち20数人でした。

分子標的薬の登場でがん治療が変わった

このカンファランスで、いろいろなことがわかりました。

3人の患者さんが紹介されましたが、皆さん80歳を越えておられます。3人ともとても元気そうで、WEB検討会に実際に出演してくださいました。

これまでがん治療、とくに抗がん薬治療薬は、75歳以下での臨床試験で、80歳以上での統計はあまりなかったと思います。また、一般状態が良い患者で評価されてきました。

ところが、分子標的薬が出てからは、たとえ一般状態が悪くとも効果が認められるのです。それは、ひとつは内服薬であることです。しかも血液毒性がほとんどないのです。つまり内服できれば、寝たきりでも治療が出来るということなのです。

また、緩和医療についての考え方が違ってきていると感じました。

個々の患者に合わせた、1人ひとりでの対応が大切なこと。これまで緩和医療は、延命ではない、QOL(生活の質)が大切とのことであったと思いますが、緩和は延命につながるのだということです。

がんと診断されたときから、緩和の考え方が入ってくる。治療中でも緩和が大切で、それがQOLだけでなく、延命にもつながるということが論文でも証明されているのです。

確かに、緩和病棟に入ったときは、がんの治療は出来ず、がんの治療をする場合は緩和病棟から一般病棟に移って行うという現状があります。それは制度上、緩和病棟では、包括で1日の料金が決まっていて、治療料金は計算されないからです。

しかし、がんの治療薬が内服薬となると、いろいろな状況が違ってくるのです。

すべてのがん治療においてではないのですが、抗がん薬を点滴して、副作用を我慢して……という時代ではなくなっているのです。

また、薬剤の選択においては、がん遺伝子検査が保険適応となり、より個人、個人のがんに効く薬剤が選択されるのです。

がんの組織で検討されるのですが、組織がない場合、リキッドバイオプシーと言って、採血した血液からがん細胞を取り出しての検査が出来るようになりました。

高齢がん患者の評価ツールも

高齢がん患者の評価に「Geriatric 8」(G8)というのも紹介されました。高齢者の状態を、医療者が3分程度で簡便に評価可能なツールです。

Mini Nutritional Assessment(MNA)の7つの項目と年齢で成り立ちます。
・過去3カ月間の食事量の減少(0~2)
・過去3カ月間で体重の減少(0~3)
・自力歩行(0~2)
・神経・精神的な問題の有無(0~2)
・BMI値(0~3)
・1日4種以上の薬物の内服(0~1)
・同年齢に比べた自分の健康状態(0~2)
・年齢(0~2)
の項目です。

ある報告では、早期死亡リスク(治療開始から6カ月以内の死亡)とMNAスコアの関連が示されており、カットオフ値を14とした場合、 特異度65%、 感度85%であったそうです。

このカンファランスでは、肺がんの患者さんが中心でしたが、点滴の抗がん薬を中心とした時代から比べると、内服中心の分子標的薬は、実際の現場で、がん治療法の考え方を大きく変わらせたと感じました。

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