精神腫瘍医・清水 研のレジリエンス処方箋

実例紹介シリーズ第3回 セカンドオピニオンを主治医に言い出しにくい

構成・文●小沢明子
発行:2021年7月
更新:2021年7月

  

セカンドオピニオンを主治医に言い出しにくい

早期の前立腺がんと診断されました。主治医からは手術を勧められています。しかし、本やインターネットなどで調べると、前立腺がんの治療はさまざまあって、早期では無治療で経過観察することもあることなども知りました。そのため、小線源療法のほうがいいのではないかと感じています。

主治医は丁寧に説明をしてくれて、親身になってくれる先生だと思いますが、手術はやはり避けたいという気持ちが強くなり、ほかの医師にも意見を聞いてみたくなりました。しかし、セカンドオピニオンについて言い出しにくく、かといってこのまま手術のふんぎりもつかず、非常に悩んでいます。どのように主治医に伝えれば、気分を害さずに伝えられるでしょうか。

また、セカンドオピニオンを受けたとしても、手術と小線源療法のメリットがほぼ同じだったら、余計に迷うのではないかという心配もあります。どうやって治療法を選択していくのがベストなのでしょうか。

(70代 男性)

セカンドオピニオンは自身が納得して治療を選択する重要なプロセス

しみず けん 1971年生まれ。精神科医・医学博士。金沢大学卒業後、都立荏原病院で内科研修、国立精神・神経センター武蔵病院、都立豊島病院で一般精神科研究を経て、2003年、国立がんセンター(現・国立がん研究センター)東病院精神腫瘍科レジデント。以降一貫してがん患者およびその家族の診療を担当。2006年、国立がんセンター中央病院精神腫瘍科勤務、同病院精神腫瘍科長を経て、2020年4月よりがん研有明病院腫瘍精神科部長。著書に『人生で本当に大切なこと』(KADOKAWA)『もしも一年後、この世にいないとしたら』(文響社)『がんで不安なあなたに読んでほしい』(ビジネス社)など

「主治医が親身になってくれているので、セカンドオピニオンを希望するのは疑うようで申し訳ない」、という患者さんは少なくありません。でも、治療を受けるのは患者さん自身ですから、どこでどのような治療を受けるにしても、患者さん自身がその治療法を十分理解して、納得して受けることが重要です。

また、医師側もセカンドオピニオンは、患者さんが治療法を選択するプロセスの1つということを理解しているはずです。もし私が主治医だったら、あなたが私に遠慮して自分の気持ちを押し込めているとしたら逆に心苦しいですし、あなたの主治医も同じ思いなのではないでしょうか。

セカンドオピニオンを申し出ることは、主治医を信頼していないこととは違います。主治医を信頼していても、ほかの医師の意見も聞いてみたいというのは、患者さんの心理として当然のことだと思います。

例えば、「先生の治療方針については理解できましたし、先生のことは信頼しています。ただ、私にとっては大きな決断なので、念のためにもう1人意見を聞いておきたいのです」などと、切り出してみてはどうでしょう。

セカンドオピニオンは患者さんの権利ですから、主治医が不機嫌になるのを恐れて、我慢するというのはあってはならないことだと思います。ただ、セカンドオピニオンを申し出たら不機嫌になったという声を聴くことも確かにあります。

不機嫌になるような医師は了見が狭いといえますし、自信のなさの裏返しかもしれません。私なら、セカンドオピニオンを申し出ることで不機嫌になる医師であれば、主治医を変えることや、別の医療機関を受診することを検討すると思います。

都会のように、信頼できなければ主治医を選べる地域ばかりではないということも確かです。しかし、主治医を不機嫌にするのは怖いことかもしれませんが、我慢してしまうと、後になって、「あのときセカンドオピニオンを受けていたら、こんな結果にならなかったかもしれない……」と後悔することにつながります。

行動して苦労するほうが、行動しないで後悔するよりもはるかに心は自由になるはずです。なので、勇気をもって申し出ることをやはり私は勧めます。普通の医師なら患者さんがセカンドオピニオンを申し出たら、受けてくれるはずです。

あなたと同じ悩みを抱えていた患者さんが、思い切って医師に伝えたら、「ぜひ受けてみてください」とあっさり言われ、拍子抜けしたという話もあります。さらに、医師のほうから「迷われているようですから、セカンドオピニオンを聞きに行ったらどうですか」と、患者さんに提案するケースもあります。治療法の選択が難しいときは、ほかの医師の意見も聞いたほうが、患者さんが結論を出しやすくなると考えるからです。

それでも、どうしても自分から主治医に言い出しにくい場合は、がん診療連携拠点病院などに設置されている「がん相談支援センター」や、外来の看護師などに相談してみるのもよいでしょう。

セカンドオピニオンを受けたあとは、主治医にその内容について報告します。そして、それを踏まえてこれからの治療方針を話し合います。もしセカンドオピニオン先の病院に転院したいのであれば、主治医は患者さんの意見を尊重して相談にのってくれるでしょう。その際には、これまでの経過などを、主治医からあらためて紹介状などで引き継ぐのが一般的です。

将来の生活を具体的にイメージしながら治療法を選択する

2つ目の質問ですが、治療法が複数ある場合、根治の割合が同じなら患者さんはどちらを選んだらいいか迷いますね。治療にかかる期間、後遺症、治療費など、メリットとデメリットを整理し、いちばん気になることを比べてみるといいと思います。

例えば、咽頭がんで手術か放射線治療かを選ぶ場合、よく患者さんが悩まれるのは、手術の治療成績がよくても後遺症(声が出なくなる)を考えると、簡単に決められないといったケースです。そのようなときは、自分の将来の生活をどうするか具体的にイメージし、自分なりの優先順位をつけて考えることです。

メリットとデメリットが甲乙つけがたいのであれば、質問者さんの「手術は避けたい」という感覚を大切にしてもよいと思います。また、仕事を考慮して治療法を選ぶ方もいます。ある前立腺がん患者さんは重粒子線治療か手術かで悩まれたのですが、立て込んでいた仕事を考慮して、治療期間の長い重粒子線治療ではなく、手術を受けて短期間に社会復帰されました。治療法の最終的な決断をするのは患者さんなのです。

ただし、時間をかけすぎず、一定の期間内で結論を出すことも大切です。一般的にはがんという病気は短期間で病状が変わるものではないですが、あまりに時間をかけすぎると治療成績が悪くなることにつながります。自分の病状は決定するまでにどの程度の時間の猶予があるのか、主治医に確認しておく必要があります。

最後まで選択に確信が持てず、迷うこともあるかもしれません。しかし、未来は予測できない中で、「わかる範囲の情報をもとに、一生懸命決断したんだ」と、自分の決定を認めておくことは大切です。

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