精神腫瘍医・清水 研のレジリエンス処方箋

実例紹介シリーズ第10回 34歳、独身で乳がん。生きがいが見つかりません

構成・文●小沢明子
発行:2022年3月
更新:2022年3月

  

34歳、独身で乳がん。生きがいが見つかりません

現在34歳の女性です。去年9月乳がんが見つかりました。コロナ禍で収入も減って不安もあったので、会社を辞め実家に戻って治療を受けました。

治療は、手術と放射線治療のみで終わりました。しかし、乳がんのことを理解しない両親は、治療が終わったのだからそろそろ結婚しろとうるさく、また、地元の同級生たちの多くが結婚していて居心地が悪く、実家に戻って治療を受けたことを後悔しています。発病前までは東京で小さな会社の事務職をしていました。それでも東京に戻りたいというか実家を出たいと思っていますが、34歳、独身で乳がん。この先の自分の生き方、目標が見つかりません。

(34歳 女性)

親の価値観に捉われているのでは……

しみず けん 1971年生まれ。精神科医・医学博士。金沢大学卒業後、都立荏原病院で内科研修、国立精神・神経センター武蔵病院、都立豊島病院で一般精神科研究を経て、2003年、国立がんセンター(現・国立がん研究センター)東病院精神腫瘍科レジデント。以降一貫してがん患者およびその家族の診療を担当。2006年、国立がんセンター中央病院精神腫瘍科勤務、同病院精神腫瘍科長を経て、2020年4月よりがん研有明病院腫瘍精神科部長。著書に『人生で本当に大切なこと』(KADOKAWA)『もしも一年後、この世にいないとしたら』(文響社)『がんで不安なあなたに読んでほしい』(ビジネス社)など

乳がんになって自宅に帰って治療をしたのに、ご両親に結婚を催促され、居心地が悪いという状況なのですね。今後の目標が見つからず、先行きに不安を感じているのだろうと想像します。

文面から、「34歳、独身で乳がん」という属性を持っていることが、「目標が見つからない」ことにつながっている、というお考えがあるのだろうなと想像しました(間違っていたらすいません)。ただ、あなたと同じ年齢で、独身で乳がんになった方が、みな生きがいが見つからないわけではなく、自分の目標を見つけ、人生を楽しんでいる方も多くいます。また反対に、結婚してもパートナーとの関係に悩んだり、子育てに苦しんでおられる方もいます。

「何のために生きるのか?」なんて考えない人もいます。

そういう人は、日々人生が楽しいか、少なくとも苦しまずに生きていける。なぜ苦しくないか、それはどんな状況であっても、「自分はこれでいい」と思っているからです。経済的にそれほど豊かでなくても、こころが「こうしたい(Want to)」と思うことを大切に、気の合う仲間との時間を楽しみながら生活することはできるでしょう。

一方で、「生き甲斐が見つからない」という人の多くは、生きることに苦しんでいます。なぜ生きることが苦しいか、それは「こうあるべき(Must)」という考え方が強く、そうなれない自分を責めているのです。そして自分が思う「こうあるべき」というイメージを達成している人と自分を比べて、劣等感を抱いたり、羨望(ジェラシー)を持つかもしれません。

なぜあなたが「こうあるべき(Must)」という考え方に縛られているのか。

ご相談を拝見し、私が気になったのは、34歳のあなたに対してご両親が「早く結婚しろとうるさく言う」ということです。

成人になった後も、親が子どもの生き方に口を出すということは、私は問題だと思います。手厳しい言い方になってしまいますが、あなたを自立した大人として見ていない、あるいは子供が成人しても依然として自分のほうが正しいと考えている、と言えるかもしれません。

もしかしたら、ご両親も「こうあるべき(Must)」という考えが強く、それ以外の多様な価値観を認められない方なのかもしれません。ご両親のあなたへの態度はおそらく今始まったことではないでしょうから、あなたが子どものころから「こうしたほうがいい」「ああしたほうがいい」と、過干渉だったのではないかと想像します。そして、小さいころ親から教えられたことは子供の心に深く刻まれますから、あなたも煩わしいという想いは抱えながらも、ご両親の「こうあるべき」という価値観を受けついでいるのでしょう。

「同級生が結婚していて、居心地が悪い」と感じているということは、「ある一定の年代までに結婚しなければならない」という価値観の裏返しでしょう。

そして、「こうあるべき(Must)」の考え方にしばられると、もともと子どものころあなたに自然に備わっていた無邪気な「こうしたい(Want)」の部分が押し込められていってしまいます。そして、こころは窮屈になり、悲鳴をあげてしまいます。

私のレジリエンス外来では、生い立ちからのご自身を振り返り、自分が持っている「こうあるべき(Must)」という価値観がどこから生じているのかを紐解くようにします。そしてその価値観を客観的に見られるようになったら、その価値観から徐々に自由になれるように、ときには上手に反抗できるようにいっしょに考えるようにします。そうする中で、「こうしたい(Want)」という想いが息を吹き返し、だんだんこころが自由になっていきます。

そのプロセスをひとりで行うことは大変かもしれませんし、一朝一夕で解決できるような簡単なことではないと思います。ただ、一般的なアドバイスをひとつするとしたら、怒りの感情を大切にすることです。親があなたの領域に踏み込んできたことに対して怒りを感じるならば、まずはその感情を大切にしてください。きっとあなたの怒りは、「こうあるべき(Must)」に縛られていることへの反発であり、その怒りの感情を押し込めずに、上手に表現することが、自分らしく生きることにつながるからです。

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