精神腫瘍医・清水 研のレジリエンス処方箋
実例紹介シリーズ第7回 手術後遺症の勃起障害を妻に伝えることができません……
Q 手術後遺症の勃起障害を妻に伝えることができません……
51歳の男性です。直腸がん2期で術前化学放射線治療のあとに手術を受けました。がんができたところが肛門に近く、人工肛門になる可能性が高いと言われていましたが、術前治療で腫瘍が小さくなり手術では肛門を残せたのでほっとしていました。ところが、手術後、勃起しなくなり、当初は自分では精神的なものだと思っていましたが、手術後9カ月経った今でも変わりはなく、主治医に聞いてみたところ、直腸がんの手術では下腹神経を傷つけることが避けられないことがあり、私の場合もそのせいだろうと言われました。
ポンプを埋め込んで勃起を助ける手術があるという情報をもらいましたが、かかっている病院では行っていないとのことです。勃起障害はショックですが、そのような手術を受けてまでも、という思いも強くあります。さらに、勃起障害について妻には話してなくて、どうすればいいか悩んでいます。
(50代 男性)
A まずは自分の気持ちの整理を
あなたは、性生活が思いがけずなくなってしまう戸惑いを感じておられるのですね。また、奥さんに話されることを躊躇されているとのこと、あなたにとって切り出しにくい話なのでしょう。がん治療の中では、性機能障害が起こってしまうことが少なからずありますが、性生活ができなくなってしまったことをさらりとパートナーに伝えられる方もいれば、あなたのようになかなか口にできない方もいると思います。
パートナーに打ち明けにくい理由としては、性生活は面と向かって話しにくい話だと感じるのかもしれませんし、パートナーとの関係性が変化することへの不安が背景にあるのかもしれないと想像します。
まずは、あなた自身の気持ちの整理に取り組まれたらいかがでしょうか。勃起できない方の悩みには、性生活ができない寂しさや、男性としてのアイデンティティに関するものがあります。予想もしていなかったことなので、驚きとともに、なんで自分が……という怒りの気持ちや、やりきれなさや悲しみなどの負の感情が心の中にはあるのではないでしょうか。
負の感情を開放することは、新しい現実を受け入れるための原動力になります。もし、あなたが現実を受け入れることができれば、奥様に話すことの抵抗感が減るでしょう。
奥さんに話しにくいのか、について考えることも役に立つと思います。その状況を恥ずかしいと思っているのか、奥さんとの関係性が変わることを恐れているのか。
気持ちの整理のために一番いいのは、信頼できる誰かに話を聞いてもらうということです。あなたの場合、奥さんに相談するわけにはいかないかもしれません。もし、友人にも相談しにくいということであれば、主治医や相談支援センターに話ができる医療者を紹介してもらってもよいかもしれません。セックスに関するカウンセリングを行っている機関もあるでしょう。
でも、あなたがこのことについて話すのを恥ずかしいと感じていて、医療者にも相談しにくいというのであれば、まず手始めに自分でノートに自分の気持ちを書いてみてもよいでしょう。項目建は以下の2つでいかがでしょうか。
① 勃起障害が起きて、自分がどんな気持ちになっているのか
② 妻に話すことに抵抗感があるのはなぜなのか
最初はきれいに整理しようとは思わず、思いつくままに自分の考えを書きなぐりましょう。そして、次にそれを似たようなまとまりにまとめていきましょう。そうすると、「あぁ、自分はこんな気持ちになっているのだな」という具合に、自分で自分を理解できるかもしれません。
正直に伝えて夫婦で向き合って
ご自身の気持ちを整理した後、どうしたらいいか。やはりどんなに抵抗感があったとしても、奥さんには正直に伝えたほうがよいでしょう。なぜなら、もし事情を伝えずに性生活が突然途切れたら、奥さんはその理由がわからず、とても不安になるからです。あなたが深い悩みを抱えていると心配するかもしれませんし、あなたが自分と距離をとりたがっているのではないかと感じて、落ち込まれるかもしれません。疑心暗鬼が膨らむと、夫婦の関係にひびが入りかねません。なので、しっかりこの状況を共有し、お二人の課題として今後のことをいっしょに考えられたらよいでしょう。
奥さんの余裕がありそうなときを見計らい、「大事な話があるから、驚かずに聞いて欲しい」という前置きをしてから切り出されてはいかがでしょうか。
事実を隠さずに話したら、「ショックを受けていないかい?」と、まず奥さんの気持ちを聞いてみられたらいかがでしょう。もちろんお二人の関係性やご性格にもよりますが、ショックを受けたとき、相手から気遣ってもらえることはとてもうれしいものです。そうすると奥さんも、勃起障害の悩みを抱えながらも自分のことを気遣ってくれる夫の気持ちを思われるのではないでしょうか。
性生活の喪失は大きな問題かもしれませんが、そのことと2人で向き合うプロセスは、絆を深めることもあるかもしれません。そして、今までとは少し異なった形かもしれませんが、おふたりの夫婦生活が豊かなものになることを願っています。
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